表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
461/467

461●『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026)⑥今の若い観客は、過去の名作を全く知らないから、最近作が良く見える?

461●『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026)⑥今の若い観客は、過去の名作を全く知らないから、最近作が良く見える?



       *


●疑問8:『たったひとつの冴えたやりかた』と比較して、どうヨ?


 先の章で触れました通り、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』には二つの大きなSF要素で構成されています。


<1>天体規模の生物災害:「バイオハザード」。

<2>人類初の、文明化した宇宙人との遭遇:「ファーストコンタクト」。


 そしてこの二つの要素を含む傑作SF小説が、これ。


 『たったひとつの冴えたやりかた』(1986)。

 作者はジェイムズ・ティプトリー・ジュニア。


 伝説的な名作ですから説明不要と思いますが、出版翌年の1987年に、作者である本名アリス・シェルドン夫人が壮絶な最期を遂げられたことで、実質的な遺作になったと言われます。

 本作は、短編(枚数的には中編)三作を集めた一冊『The Starry Rift』の所収一作目となりますが、宇宙への夢にあふれる少女を主人公とし、サイエンスとメルヘンが絶妙に調和した語り口で、異星人との儚い一期一会を謳いあげ、そしてあまりにも切ないその結末が、永遠の名作として今も高く評価されている……と思います。


 “思います”……というのは、じつは2026年の今年に至ってもSFファンの人々に読まれ続け、愛好されているかどうか、かなり不安だからですね。


 今の若い人たち……と言っても30歳代半ば以下ということですが……は、もうすでに『たったひとつの冴えたやりかた』という作品の存在を忘れ去っておられるというか、最初から全く知らないような気もするからです。


 何よりも、いまだに映像化されておりません。

 もうさっさと、実写でもアニメでも、映像化されていて不思議のない、素晴らしい物語なのですが、きっといろいろとオトナの事情があるんでしょうね。

 誠に残念なことです。

 ビジュアル的にはハヤカワ文庫1987年の、川原由美子先生の挿画が最高で、80年代少女漫画の画風が物凄くしっくり来ています。


 ああ、どうしてアニメにならないんだ?


 『たったひとつの冴えたやりかた』の一作だけでは長編アニメにするだけの物語量に足りないというのなら、作中で触れられている勇敢な宇宙開拓少年ハン・ルー・ハンのエピソードを肉付けして挿入すればよいのですよ。作品タイトルとなった「これがたったひとつの冴えたやりかた」という言葉を残した偉人とされていますし。


 本作だけのあらすじは、こう。

 自家用宇宙クルーザーを買ってもらって、単身、探検飛行に飛び出した主人公の元気少女コーティ・キャスは、とある宇宙人にファーストコンタクトされます。

 行き場が無くてコーティの体内に同居するはめになった宇宙人はなかなかいい奴で、意気投合した二人はバディを組んで探検行を続けます。

 しかしその過程で、地球文明を滅ぼすかもしれない、ある種のバイオハザードの危機に直面していくわけです。

 物語のラストには、地球を救うために彼女が選択する“たったひとつの冴えたやりかた”が明かされます。


 ……と、これって、なんだか『プロジェクト・ヘイル・メアリー』に似ているような感じも。


 細部はもちろん異なりますが、大まかな構成要素は共通すると思いますし、この物語自体が、コーティが宇宙のかなたから地球へ向けて送り出した長距離自走通信筒“メッセージ・パイプ”に記録されていた報告データを編集したというスタイルになっています。

 これって、グレース氏が地球へ向けて発送した四本の通信筒“ビートルズ”と概念は同じですね。


 となりますと……

 イジワルな見方をしますと、『たったひとつの冴えたやりかた』の主人公を美少女からダッサーなオジサンに替えたのが『プロジェクト・ヘイル・メアリー』になってしまいませんか?


 いやね、グレース氏に不満があるわけではございませんが、高齢男子としては、やはり美少女ヒロインにホロリと泣かせてほしいのですよ。

 SFと美少女は切っても切れない関係でして。


 なんといっても『冷たい方程式』のヒロインは18歳。

 『たんぽぽ娘』のヒロインも美少女ですよ。


 昔々、かの小松崎茂画伯が戦後すぐの1948年から雑誌連載されたSF超大作絵物語『地球SОS』では、冒頭の第一話からして、はるばる宇宙の荒波を超えて侵略にやってきたバグア彗星人の地球での初仕事は「お菓子屋の看板娘である美少女ロッタ嬢」を誘拐することでした。

 円盤にさらわれた美少女。

 まさか生体解剖するんじゃないだろうな、と心配していたら、バグア彗星人のやつら、後でお姉さんのエメリー嬢までさらってしまい、二人一緒にメイドにして円盤内の“お茶汲み係”としてコキ使っているではないか! ……という、異星人エイリアンのくせに21世紀的なオタク趣味を見せつけてくれるのでした。


 そのほか映像作品では、『実写版鉄腕アトム』(1959~)の第一部を飾ったエキゾチック美少女のミッシェル嬢とか、実写映画『黄金バット』(1966)のエミリー嬢の可憐さも忘れられません。

 ウルトラセブン第37話『盗まれたウルトラ・アイ』(1968)のヒロイン宇宙人さんも、美少女の範疇ですね。

 そもそもニッポンの特撮SFは麗しきウルトラヒロインで持っていたようなもの。

 アニメのSF作品も、美少女キャラのいない作品って考えられません。


 なおニッポンのSF美少女の元祖は、戦前の1935年に雑誌連載された、平田晋策先生の架空戦記小説『新戦艦高千穂』に颯爽と登場した猛烈ヤマトナデシコ美少女パイロット・勝山和枝かつやまかずえ嬢でしょう。

 御年おんとし15歳程度と思いますが、水上戦闘機を操って新戦艦高千穂を発進、紅の豚さんもビックリのエースパイロットとなりました。いやマジに急降下爆撃とか空中戦をやらかして敵をバカスカ殺してるんですから、昭和10年のリアル軍国美少女って、凄いものです。


 そんなだから、もう美少女が洪水よりもあふれている21世紀のアニメ界というものをさておいて、美少女無きSF映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が大ヒットするのは驚天動地の椿事なのです。


 『禁断の惑星』ではアルティラ役のアン・フランシス。

 『宇宙家族ロビンソン』のアンジェラ・カートライト。

 『謎の円盤UFO』ではエリス中尉役のガブリエル・ドレイク。

 『マーズ・アタック』ではスターウォーズ前のナタリー・ポートマン。

 『宇宙戦争』(2005)ではダコタ・ファニング。

 美少女<もしくは綺麗なお姉さん>あっての宇宙SFだったのですが……。


 なんかこう、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』って、中高年おじさんと岩人がんじんですから、盆栽と枯山水かれさんすいを観るが如し、なのです。


       *


 ということで、『たったひとつの冴えたやりかた』をどうして映画化しないのか?

 これが映画化されれば、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、霧か霞かと消え去ってしまうでしょう。それくらい、『たったひとつ』は凄いです。


 次に実写化してほしいのは、今は知られざるこの名作。


 『ベティアンよ帰れ』クリス・ネヴィル作(1970、日本国内出版1972)


 赤ん坊のときに交通事故に遭って、その後遺症で腕に障害を持つ少女ベティアン。

 ごく普通の家庭に育てられますが、思春期のあるとき、出生の秘密を知ります。

 私は、事故でやむなく地球に一人取り残された、宇宙人だった!


 時代は1950~60年代。アメリカの片田舎。

 コール・ポーターのジャズが大好きな、ごくフツーの宇宙少女の、切なくて淡い、故郷探しの心の旅が始まります。


 いいですねえ、これって。

 その昔のTVドラマの『トワイライト・ゾーン』あたりをぐっとメルヘン化した感じで、低予算でもとびきり美しいお話が出来ると思うのですが……


 さらには、ロバート・F・ヤングの短編ですね。

 オムニバスにして、『たんぽぽ娘』『わが愛はひとつ』『九月は三十日あった』の三作をまとめて一本の映画作品に仕上げてほしいものです。

 トリプルでポロポロ泣ける名作になることでしょう。


 どーして、やらないのか?


 過去の素晴らしい名作の小説作品が、こんなにあるというのに……


       *


 原因として考えられるのは……

 たぶん、忘れ去られているからです。


 特に、作り手の監督やプロデューサー様が、作品の存在を知らないのでは?

 皆さん、もうお若いですからね。


 そして観客も、それら過去の名作を、覚えていない、というよりも、ハナから全く知らない。

 2026年現在、40歳の人は1986年生まれ。

 『たったひとつの冴えたやりかた』はもちろん、『ベティアンよ帰れ』も、ロバート・F・ヤングの『たんぽぽ娘』も、ほぼ自分が生まれる前の、全く知らない作品であるわけです。


 今どきの若者は、アルジャーノンだって、だいたい知らない?

 『メトロポリス』(1927)だって知らないよねえ。

 由々しきことです。


 私のような高齢男子にとって、1960~70年代のSF映像作品なんて、ほとんどそれで幼年時代の夢を育てたようなもの。

 『宇宙家族ロビンソン』『宇宙大作戦<スタトレのこと>』『タイムトンネル』『原潜シービュー号 海底科学作戦』『海底大戦争<スティングレイのこと>』『サンダーバード』『キャプテンスカーレット』『プリズナーNo.6』『謎の円盤UFO』、それに『ウルトラQ』『ウルトラマン』『キャプテンウルトラ』『ウルトラセブン』『マイティ・ジャック』『怪奇大作戦』は、ひとつなぎの大河番組みたいなものですね。


 しかし今、これら、SFの基本のキだった映像作品群は、観たこともなく名前も知らない人がほとんどになってしまった。


 つまり『渚にて』『博士の異常な愛情』『時計じかけのオレンジ』『華氏451』『2001年宇宙の旅』『惑星ソラリス』『未知との遭遇』『E.T.』も全く未見でタイトルも知らない監督や観客が、多数派を占めるようになってきたということ。


 信じられないほど、世代は断絶していると思われます。


 これってね、昭和の昔はアニメなんてそんなに作品数が無くて、結構何年も再放送していたし、ちょっと古い映画も、当時は三本立ての格安入れ替えなしだったりして、せっせとリバイバル上映してました。

 それにテレビでもあちこちで映画劇場をやっていました。ほら、淀川長治さんみたいにTV映画劇場の人気解説者がおられて、作品の蘊蓄うんちくを付け足して、観客を引き込んでおられましたし。

 その都度、若い観客が掘り起こされて、その記憶が維持されたんですね。

 ヤマトもガンダムも、映画化と再放送で盛り上がっていったような。


 しかし今、アニメは新作が毎シーズン、ドーッと供給されて、これを粗製乱造というのかもしれませんが、とにかく新作で埋め尽くされて、そればかり。

 今どきの若者は、ヱヴァと言えば『シンヱヴァ』だけでしょう。

 初代ヤマトやファーストガンダムや超時空要塞マクロスを、通しで観た事も無い。

 ゴジラもシンゴジかマイナスゴジラを観ていても、1954年のオリジナル『ゴジラ』なんか、まず絶対、観てはいないでしょう。


 オリジナルを観た事が無く、タイトルを知っていても、21世紀のリメイク作品ばかり、となりますね。

 過去の名作からコツコツと積み重ねて観ていく、という観賞ができないのです。


 『灰羽連盟』『NieA_7<ニア アンダーセブン>』『アベノ橋魔法☆商店街』も知らないよね。

 『COWBOY BEBOP』や『THEビッグオー』も。

 『ノワール』『TRIGUN』『ガンスリンガーガール』も。

 『オネアミス』『トップをねらえ!』『ふしぎの海のナディア』もね。

 『少女革命ウテナ』も、それにあの『シムーン』なんか絶対に知らないよね。


 小澤さとる先生の『サブマリン707』と関連作品。

 御厨さと美先生の『ノーラの箱舟』と関連作品。

 鶴田謙二先生の『Spirit of Wonder』とその映像化作品。

 芦奈野ひとし先生の『ヨコハマ買い出し紀行』とその映像化作品。


 今、30代半ば以下の人たちは、たぶん、どれも知らないはず。


 ♪みんな何処へ行った 見守られることもなく……誰も覚えていない……


 世界が、そんな感じになりつつありますね。


      *


 だから『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が大ヒットするのですね。

 私のような高齢男子は、観たことのある“過去の名作”と比較してしまう。

 するとやはり、いろいろとあらが目立ちますね。

 「最近の作品は、“過去の名作”に劣る」と判断しがちになります。

 しかし若い世代は、“過去の名作”を知らず、比較することが無い。

 最近の作品しか知らないので、それを「最高!」と評価するのかもしれません。


 まあ、それも時代の流れでしょう。


 そうはいっても、ここ十数年のアニメやSFには「昔どこかで観た、読んだ事があるような既視感デジャヴ」がベッタリとまとわりついた作品が多いように思えます。


 大ヒットしてるんだけど、DVDで観たら、昭和の時代に使い古されたネタを、しかも理屈の合わない形で、無理矢理にリサイクルしてる感じで。

 ただしCGは豪華で見た目だけは迫力があるとか。


 もう、世界中が幼稚化しつつあるのかな?

 強い者は弱い者いじめ、どころか殺しまくっても平気になっちゃったし。

 某国の大統領様みたいに。

 


 アニメにせよSFにせよ、視覚的な効果は進歩していても、その物語の中身は、やはり退化しつつあるのかもしれません。


   【次章へ続きます】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ