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408●『クリムゾン・タイド』(実写映画1995)…原潜ハチャメチャ映画の最高峰? 核をもてあそぶ海中のブラックコメディ。

408●『クリムゾン・タイド』(実写映画1995)…原潜ハチャメチャ映画の最高峰? 核をもてあそぶ海中のブラックコメディ。



 『クリムゾン・タイド』(実写映画 1995)。

 いえ、マジメな映画ですよ、一応は。

 ソ連邦崩壊直後、政情不安のロシアで内戦勃発。

 極東ロシアを占拠した反乱軍は、数隻の原潜と核ミサイルを支配下に置き、世界各国を脅迫し始めました。連中に言わせれば脅迫でなくてディールでしょうが。

 で、緊急事態の米海軍。

 こちらも核ミサイルをドッサリ積み込んだ戦略原潜アラバマ号が出港します。

 一触即発の事態に際して、敵に先んじて核攻撃を行う、抑止力の最後の砦として……


 潜航して旅を続けるアラバマ号は、ワシントンからの極秘指令を受け取ります。

 しかし暗号解読受信機の不調で、電文の肝心なところが途切れてしまいました。

 「核ミサイルを…………」

 これは、「核を撃て」との号令か、それとも「撃ち方やめ」で戦闘事態修了の吉報なのか?

 好戦的な艦長と慎重派の副長の間で、決定的な対立が火を噴きます。


 撃つべきか、撃たざるべきか、それが問題だ!


 土壇場ハムレットの心境に陥るアラバマ号。


 いや、なかなかの緊迫感。

 サブマリン・サスペンスとして、一度は観ておきたい佳作です。


 まあ、艦内の壊れた暗号受信機をアキバオタクな担当官が、ハンダゴテ一本でチマチマと汗吹き吹き修理するポンコツな奮闘ぶりは、まさに手に汗握らせてくれますが……

 ハンダゴテかい!

 最新電子機器とコンピュータのカタマリである巨大原潜が、そんなもんに命を懸けていいんですかい?


 大戦中の、ディーゼルエンジンで進むガトー級じゃあるまいし、大事なところが妙に原始的ではあるのですが……


       *


 それはともかく、このツッコミどころ満載の『クリムゾン・タイド』に秘められた本当のキモは、重要な本筋の山場はさておいて、作品冒頭から20分ほどの前半部分にあるのです。


 これこそ、“アトミックBLACKコメディ”の極致。


 まず、潜航したばかりの艦内。

 艦を安定させて一息ついたところで、艦長から一士官までが、発令所から休憩室から通路まで所かまわず煙草をスパスパやり始めたではありませんか!

 艦内くまなく喫煙オッケーなのです! みんな立ちタバコで。

 いやしかし、ここは潜航中の潜水艦ですぞ。

 なのに、モクモクと紫煙たなびく原子力潜水艦。


 ネットによると、米海軍が、受動喫煙を防ぐために艦内禁煙を徹底するようになったのは、西暦2010年頃の事らしいです。

 いやー、知らんかった。ただでさえ密閉空間の潜水艦、どこの国でも絶対禁煙と思い込んでいましたよ。

 原潜は電力が無尽蔵なので、空調が行き届いているようですな。

 そうはいっても、灰皿はどうしてるのか。

 電子タバコでなく、みんな、火を付けて吸っているのです。

 油断大敵、火がボーボーですよ!

 普段のクセで、うっかり足元に吸殻を落として踏み消したりして、そこに油漏れとかの可燃物があったりしたら、ホント、ヤバいと思うんですが。


 それに乗組員たちの居住区、二段ベッドが並ぶ中で、ギターやら、でっかいラジカセを持ち込んでジャンスカジャンスカとスイングしてやがる!

 いいのか、この乱痴気騒ぎの水兵どもは!


 潜水艦は静粛がモットーのはず。

 水中は音が遠くまで伝わるのです。

 鯨の鳴き声なんて、地球を半周近くするんだとか、ホンマかいな。

 これではたちまち、警戒中の敵性潜水艦に音響を探知されてしまうではありませんか!


 しかもここは、ペット持ち込みオッケーで、水槽に熱帯魚を飼ってる奴がいる!

 それも寿司用に食用魚を泳がしておく生け簀じゃなくて、観賞用の熱帯魚だ!

 なんなんだ、こいつらは。

 そりゃ心の癒しになるだろうけど、なんか根本的に勘違いしてやいないか?

 こんなものを飼っていて、いざ戦争のとき、餌やりとか水温とか気にしたらあかんやろ。船体が急傾斜したら、水槽がひっくり返って浸水騒ぎになるじゃねェか!


 そしてジーン・ハックマンさんが好演する自信満々のパワハラ艦長が、輪をかけたバカヤローでして。

 なんと艦内に愛犬同伴で君臨している!

 おいおい熱帯魚はまだしも、静粛潜航の最中にワンワンキャンキャンと騒いだらどーするんだ。即刻絞め殺す覚悟はあるのか?

 数百メートルの深海に響きわたる犬の鳴き声。

 一発で敵に見つかってしまうではないか。


 しかし無頓着のアホ艦長。

 一応リードはつけているものの、愛犬連れて艦内散歩が日課なのだ。

 この駄犬、所かまわずシッコをジョロジョロ。

 それもマジメな副長さんが見ている前で。

 駄犬のヤロー、知っているのだ。

 「俺は艦長の愛犬だ、副長のお前より偉いんだよ」と。

 哀れ、巨大原潜アラバマの乗組員。

 乗組員としてはこの駄犬、艦長ごと巻きにして魚雷発射管から放逐したいと思う輩、実はけっこういたと思われます。

 というのは、のちの副長叛乱事件で、最初から副長側につく者が意外とゾロゾロなんですね。


 ということで、巨大原潜アラバマ号。

 艦内はタバコでモウモウ、全艦ヤニ臭いのに加えて、ワンコのクソとションベンの臭いも混じるもんだから、これはもう……


 深海の魔窟だ!


 のちに副長がプッツンして艦長にキレるのも、そりゃもう納得です。

 副長、タバコ吸わない派なんですよ。


 しかもこのパワハラ艦長、早々にムチャクチャをやります。

 出港後数日経過したあたりか、艦内厨房で出火。

 火事だ火事だ! と大騒ぎになります。

 それもそのはず、ショボいボヤなんてものじゃなく、壁一面真っ黒焦げで、一部の調理機械が焼死して配食に困るほどのボーボーぶりだったんですな。

 どうにか消し止めたけど、負傷者が出て、一名死亡。

 しかし艦長は平然と、「太っているから死んだのだ」と、死亡原因は火事と無関係なことにして、平気の平左の無責任ぶり。


 おいこれ、戦略核原潜だぞ。

 一本で大都市を何か所もキノコ雲に変えるトライデントミサイルを24発も積み込んでいるのだぞ。

 それが内部で火災発生、死傷者まで出した。

 なんでさっさと母港へ引き返さんのだ!

 潜水艦内の火災なんて、「鎮火したからドンマイ、ドンマイ」じゃないでしょう。

 まだ戦時ではない、いちおうギリギリ平時なのです。

 フツー、急速浮上して帰港し、火種が残っていないか、配管やら回線とかにトラブルを残していないか徹底調査し、火災原因の特定と再発防止策を講じなくてはならないはず。


 しかし誇り高きアラバマ号。

 始末書を書くどころか、火事ごと丸々、もみ消してしまったみたいです。


 恐るべきアホ艦長!


 そんなことだから当然の報い。あっさりと敵原潜に発見され、魚雷を撃たれてしまいます。

 この艦長、完全欠格!

 出港前にクビにしなきゃいけない代表格ですね。


 観客の私がそんなことを思っているところに、ワシントンから緊急暗号が!

 しかしドタバタで暗号の受信解読機が故障。

 この機械がまた、大戦中のエニグマよりもケチ臭そうなガラクタ風珍品でして。

 アキバオタクな担当員がハンダゴテをふるって修理に及ぶ羽目となります。

 解読できた電文は「核ミサイルを…………」


「よし撃つぞ!」と艦長。

「待ってください、確認が先です!」と副長。

「受信機の修理など待てるか、緊急事態なのだ、撃ってしまえ!」と艦長。


 おお、緊迫のサスペンスタイムです。

 どうなることかと、のめり込んで注視していますと……


「艦長ご乱心、解任します!」と副長。

 軍規にのっとって艦長を監禁します。

 やった、バウンティ号だケイン号だ、海洋叛乱映画の三大傑作が揃ったぜ!

 と、喜んだのもつかの間……


「てめーら、ハジキだ、ハジキ持てこい、今から発令所にカチコミかけたるで!」

 と、監禁室から脱走し手勢を集めて“逆叛乱”に及ぶ精力満々のアホ艦長。

 このあたりのヤクザぶりは、さすがジーン・ハックマン小父さんの名演技です。


 しかし副長も負けじと、叛乱組をまとめて銃を構えます。

 発令所で潜望鏡を前に、両者ホールドアップ!

 緊迫の場面ですが……


 いやしかし、冷静に考えてみますと……

 ここは戦略原潜の発令所。

 核ミサイルの発射指揮装置が、そこにあるじゃん!

 ここで一発でも発砲して、ミサイル発射装置の電子回路のビミョーな箇所に穴でもあけたら……

 機械が勝手にトチ狂って「ミサイル発射しまっせ!」となりませんかね?


 お前ら何やっとんじゃい!

 海軍のエリート中のエリート、戦略原潜のサブマリナーだぞ!

 それが何だこれ、ただの安っぽい海賊じゃねェか!

 ハリウッド銀幕のエロール・フリン気取りかい。

 レベル低すぎるぞ!


 要は、核ミサイルの発射うんぬんの問題じゃなくて……

 ズボラ艦長とマジメ副長のメンタル対決なんですな。

 お互いに、相手の人間性を許せない。

 そこに根本原因があり、この映画作品の真のテーマがにじみ出てきます。

 無理もありません。副長も乗組員も、艦長のペットの駄犬以下に扱われていたわけですから。


 ちなみにTVドラマの『バトル・オブ・ブリテン』(1988)? だと記憶していますが、部隊長が愛玩しているペットの駄犬がもう生意気で、部下たちよりも偉そうにしていたものですから、転戦するタイミングで、部下たちがその駄犬を射殺する場面がありましたね。

 あースッとした。

 そんな顔つきの部下たち。

 そりゃもう、敵との殺し合いの日々、こちとら人間様が命のやりとりをしているのに、このクソ駄犬、上司の権威を笠に着てゴロゴロして威張りやがって……ですね。

 そもそも部下に過酷な戦いを強いておきながら、自分はペットの駄犬とともに安全圏で指揮だけしている……という上司に問題があるのですが、まさか上司を撃ち殺す事はできないので、直接当事者の駄犬を始末したものと思われます。


 ただの犬に責任はない。

 けれど戦争の真っ最中に目の前で「ペット可愛や」と愛犬愛に耽溺されたら……   

 日々死線をくぐる兵士としては、「お前こそ真っ先に死ね!」の気分になること、無理もないと思いますよ。


       *


 ということで……


 潜水艦サスペンスの傑作『クリムゾン・タイド』の真のテーマが浮かび上がってきます。


 フツーのサスペンスを超えた、ゾッとするブラックコメディのテーマですね。

 それはつまり……


 “私たち人類は、こんな連中に核ミサイルのボタンを握られているのだ! それでいいのか?”


 ラストシーン。

 ジーン・ハックマンさんが演じるアホ艦長は、たいした処罰も無く退職金はしっかり掠め取って、にやにや笑いながら駄犬を連れて去ってゆきます。


 こんな奴が、人類に核を落とそうとしたのだ!?


 釈然としない、憤懣本舗な結末ですね。


 だから『クリムゾン・タイド』は傑作だと思います。

 映画公開は1995年。

 21世紀の未来に向けて、実に辛辣なご教訓を残してくれました。


 我々人類はいかにして、核のボタンを“まともな人物”に委ねるのか。


 その人選は、よくよく慎重にして賢明であるべきだ……と。


       *


 そうですね、大統領であれソーリであれ、いかなる人物に私たちの生殺与奪を任せられるのか。これ、民主主義の宿命的命題かもしれません。


       *


 それにしても、オハイオ級戦略原潜アラバマ号って、実在するんですよ。

 映画だけど、実名の潜水艦をそのまま使用。

 そりゃ冷戦終結直後の時期の映画です。

 世の中はお気楽平和ムードにあふれていたから、許されたのかと思いますが……

 あくまでフィクションとはいえ、問題作ですよねえ。



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