アレン
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「アレン、フローラ嬢が婚約を解消したいそうだ」
と執務室で父から聞いた僕は頭が真っ白になった。
そんな話聞きたくなかった。
こみ上げてくる熱い物が喉に詰まりそうになったが何とか声を絞り出した。
「…どうして?フローラには僕が必要じゃなかったの?」
「自分はもう長くないからお前を解放してあげてくれとお願いをされたそうだ。
お前は家の為に充分な働きをしてくれた。大変な役割を押し付けてすまなかった。お陰で家は立て直せた。領地の経営も順調だ。
これからは自由になってやりたいことをやって欲しいと…。まだ子どもだというのに痛々しいことだ……」
そう言った父は苦い物を飲んだような顔だ。
「僕はこれまでフローラの為に生きてきた。それを今さら…。これからどうやって生きていけと…」
いつか別れの日が来るのは覚悟していた。でもこんな形で切られるのは納得できない。
背中からいきなり突き放落とされたようで、心に暗い穴がぽっかりと空いた気がした。酷いよフローラ、いくら君からの気持ちだとしても受け取れない。
僕はみっともなく抗うことにした。
「まだ亡くなったわけじゃないよね。フローラにしてあげられることはあるはずだ」
そう父に言い返すと僕は踵を返して執務室から退出した。
とにかく気持ちを落ち着けよう。
平気な振りをして会わなければ彼女の具合が悪くなる。
あんなに具合が悪そうだったのに僕のことを考えてくれていたんだ。
フローラが亡くなっても他の人を好きにはならない。ずっと彼女だけを想って生きていこうと思っていた。なのに君は僕の手を放そうとするんだね。
そんなの嫌だ。君と最期まで一緒にいるのは僕だ。
僕は何が出来るか考え始めた。行っても会えないかもしれないから花とカードは絶対だ。果物やチョコレートなら口にできるだろうか。
どうにか気持ちを立て直した僕は出来ることをやることにした。
今日もフローラの体調は悪く会えなかった。
いや、娘の意思を尊重してやってくれと伯爵に言われ会わせてもらえなかったのが本当のところだ。
それでも諦められない僕は見舞いの品を渡すだけでいいからと通っている。
哀れに思った夫人がこっそりドアの隙間から眠っているフローラを見せてくれた。
金色の髪が整えられ長いまつ毛に覆われた瞳は閉じている。透き通る様な肌は白くさくらんぼのような唇は赤くまるで人形のようだった。
僅かな時間に目に焼き付けたフローラを僕は忘れないようにした。
夫人は僕を応接室に連れていき、
「もう直ぐフローラを連れて領地に行くから会わせてあげられなくなるの。ごめんなさい」と言った。
「今の状態のフローラ嬢を移動させるのですか?どう考えても身体に負担が大きいのではないですか?」驚いた僕は思わず聞いた。常識的に考えて無理だろう。
「領地に行くのがフローラの最後の願いなの。旦那様は王宮の魔法使い様に頼んででも叶えてやりたいと言っているの」
魔法使いに頼んでまで連れて行ってしまうんだな。だからさっきフローラを見せてくれたんだ。本当にもう会えなくなるんだ…。気持ちが地の底まで沈み込んだ。
「手紙を出してもいいでしょうか?」
どうにか気力を振り絞って聞いた。
「もちろんよ。あの子のベッドの側で私が読むわ。ごめんなさいね。こうなるのがわかっていてあなたに辛い思いをさせてしまったわね」
「いいえ、フローラ嬢に会えたことは僕にとって最大の幸福です。こんなに幸せな時間はないと思って生きてきました。この先も思い出を大切にして生きていこうと思っていましたのでお気にされないでください」
「優しいあなたに神の加護があらんことを願っています。何かあったら知らせます」夫人が泣きそうな顔で約束してくれた。
★☆★
鬱々とした日々を送っていたある日奇跡が起きた。
彼女の症状が魔力過多で、これからも生きていられる可能性があると知らせを貰ったのだ。最悪の事態は脱した。
僕は歓喜のあまり涙を流し床に崩れ落ちた。
もう直ぐ逝ってしまうと思っていた僕の心は黒く塗りつぶされそうになっていた。
でも彼女は生きていくことが出来る。この世界にフローラがいる。
僕の世界は再び色づき始めた。ああ、神様ありがとうございます!!
王宮の筆頭魔法使いが見た途端分かったそうで、今まで苦しんでいたのはそのせいだったそうだ。これから体力を回復させていくことが重要になるという。
僕は再婚約の為に動き出すことにした。
もう一度君の瞳に僕を写してもらえるように。




