恋
いつも読んでくださってありがとうございます。
「昔あるところに小さくて可愛らしいお姫様がいました」
読み聞かせをしてくれているのはアレン様だ。
体が辛く本を読むのもままならない私の為に練習をしたらしい。
小さなお姫様が大きな鳥に攫われ森の中に落とされてしまうが、偶然近くにいた小人にに助けられる。その小人は呪いにかけられていた王子様でお姫様の愛情で呪いが解け元の姿を取り戻し2人は幸せになるという話だ。
ゆっくり丁寧に感情を込めて読んでくれるその声は耳に優しい。
目を閉じると場面が目に浮かぶ。
お姫様や小人の声は少し高めで、王子様の声は低くなる。登場人物が急いでいるときは早口になり、楽しそうに動いている時は声も弾んでいるのを感じる。聞いているのが楽しい。
「とても上手だわ。読み方の勉強をしてくれたの?」
「昔読み聞かせが上手な家庭教師の先生がいたんだ。その人に教えてもらったことを思い出してやってみたんだ。喜んでもらえたら嬉しいよ」
「もっと色々読んでくれる?」
「もちろんだよ。厚い本も読んであげるからね。楽しみにしてて。そうだ、ほら見ててごらん」
指の先からさっき飲み干した空のグラスに氷が零れ落ちキラキラと輝いた。
「凄いわ!」
アレン様が得意そうだ。
「元々お水は出せたのにそんなことも出来るようになったの?」
「頑張ったんだ。君の熱がある時に使えそうだろう?」
そうなのだ、高い熱のあるときに額に乗せてもらう氷嚢は気持ちが良い。
「ありがとう!嬉しい。その氷で冷やしてもらったら直ぐに熱が下がりそうだわ。でもしてもらうばかりでお返し出来るものがないわ」
上がっていた気持ちが急に萎む。
「気にしないで。フローラが少しでも楽に過ごしてくれることが嬉しいんだから」
出会って直ぐに優しい気遣いをしてくれるようになったアレン様と私はこうして穏やかで幸せな時を過ごすようになった。
★☆★
そうして8年が過ぎ私は13才に彼は15才になった。少年から青年になる途中の彼は瑞々しい生命力に溢れている。
もっと生きていたい。この優しい人を置いて死にたくない。
神様は酷い。でも10才までしか生きられないと言われたのに3年も長く生きられた。それだけでも良いとしなければいけないのだろう。
優しくて貴族でお金持ちの両親に恵まれたから…。平民なら多分生きてはいない。
でもそのせいで…彼の楽しく輝いていたはずの時間を私が奪っている。
…それが政略だけれど、彼をお金で縛っているのは事実だ…。
もう解放してあげなくてはと思うのに心は嫌だと叫ぶ……。勝手で醜いと思う。
でもこんなに誠実で素敵な人はいないのだもの。側にいて欲しい。
今でも週に一度は会いに来てくれる。やっと生かされている私の所へ。
アレン様の家はもう復興をしている。ウチからの支援金の分はアレン様の献身で充分に返してもらっている。
私はあまり食べられないのでガリガリに痩せて小柄だ。きっと見た目は8歳児並みだ。女の子としての魅力なんてあるはずがない。私は相応しくない。
私は覚悟を決めた。
だからお父様にお願いをした。
「お父様私には王都の空気が合わないのかもしれないわ。これからは空気のいい領地で静かに過ごしたいの。会うのはお父様たちだけで良いわ。アレン様と会えなくなっても平気よ。だから婚約は解消してあげて。もう彼の家は復興したのよね?」
「安心しなさい。彼の家は復興をしたよ。空気の良い所に行きたいのかい?ここも十分 空気がいいと思うんだけどね。アレン君と喧嘩でもしたのかな?」
残り少ない寿命を知っていながら、お父様は私の死をない事として平気な振りで話しをしてくれる。
「まさか、喧嘩なんてしたことはないわ。ずっと身体の弱い私に付き合わせているのが申しわけなくなったの」
もう少しで死ぬのだからという言葉は口には出せない。直ぐにでも逝ってしまいそうで怖い。
会えなくなるのはとても辛い。考えただけで涙が滲みそうになる。だって本当は好きで堪らない。どうしようもなく切なくて、恋しくて、離れたくない。
胸が恋しさで焼けただれてしまいそうなくらいだ。
でもそれは私の都合でしかない。
だからこそ私から手を離してあげなければ。
あれだけ尽くしてくれたせめてものお返しはこれくらいしか思いつかない。
私は身を焦がすような恋心と共に旅立つつもりだ。
アレン様にこれからの人生を幸せに生きて欲しいから。
お父様は悲しそうな顔で
「フローラに彼を紹介したのは酷いことだったのかな」と呟いた。
我が家のタウンハウスは貴族街の外れの校外に建てられていたが、田舎とは空気が違うという建前で私は領地に行く。
お母様と弟のクリスも来てくれることになった。お父様は王都と領地を行き来をしてくれる。
アレン様との別れが辛すぎて泣いて泣いて瞼が腫れるほど泣き尽くして、また熱を出し頭が割れるように痛んだ。
過保護なお父様は王宮の偉い魔法使い様にお願いして睡眠魔法をかけてもらい、私を移動させることにした。
しかし、当日屋敷に来た魔法使い様は私の症状を一目見て思いもかけない言葉をお父様に言い放った。
「お嬢さんは魔力過多だ。身体が弱っているのは上手くコントロールできないからだよ。今まで魔力判定をしてもらったことはないのか?このままでは命が危ない」と。




