余命僅かの令嬢
よろしくお願いします
「……本当に…あと僅かしか…生きられない…のですか?…」
途切れ途切れに話し声が聞こえる。
意識が朦朧とするような高熱が続いているのに、聞きたくない言葉を拾ってしまった。私のことだとすっと腑に落ちた。そうか…もう長くないのね。悲しませるばかりでごめんなさい。お父様お母様。恩返しも出来ないまま逝ってしまう私を許して…。
私はマクミラン伯爵家の長女でフローラ、13才。3才下に弟のクリスがいる。
生まれたときから身体が弱く、「生きても10才くらいまででしょう」と医者に言われていた。
なので両親の過保護ぶりは凄まじく、私は真綿に包まれるようにして育った。
儚くなる前にせめて恋の真似事だけでもと泣いたお母様のお陰で婚約者までいる。
お相手は災害で経済的に困っていたサンダース子爵家の3男のアレン様だ。
彼は性格が穏やかで優しく面倒見がいい。見目も美しいところが両親の眼鏡にかなったようだ。
このままでは没落するかもしれないサンダース家は喜んでアレン様を差し出し、見返りに多額の支援金を受け取った。
★☆★
私達が会ったのはアレン様が7歳、私が5歳の時だった。
伯爵家の応接室でカチコチに固まって座っていたアレン様親子は、私達が入って来た途端すっと立ち上がった。
その時お母様の後ろからそっと顔を覗かせた私を見て、その男の子は笑顔を見せてくれた。
あっ優しい人だわと幼い私は一目で気に入った。
「初めまして、こんにちは。アレン・サンダースと言います。よろしくお願いします」
「初めまして、フローラ・マクミランです。よろしくおねがいします」
アレン様の笑顔に引き込まれるように人見知りだった私も笑い返すことができた。
寝込むことが多かった私には友たちがいない。
初めて会った婚約者が嬉しくてしょうがなかった。(婚約者の意味さえ分かっていなかったが)
「お父様達はお話があるから2人でサンルームに行っておいで。フローラ、具合が悪くなったらアレン君に言うんだよ」
「はい、おとうさま。アレンさま行きましょう。あのね、たくさんお花が咲いていてきれいな所なの」
「お花が好きなんだね。伯爵様フローラ様と手を繋いでもいいですか?」お父様の方を向いてアレン様が聞いた。
「いいよ、フローラをよろしく頼む。これから仲良くしてくれると嬉しい」
それを聞いたアレン様は照れたように笑い私に手を差し出した。
差し出されたちょっとだけ大きい手を見て私は嬉しくなった。その手が私の手をぎゅっと握ったのを今日まで忘れたことはない。
屋敷の中で過ごす苦しいだけの毎日に明かりが差し込んだ気がした。
その時から彼は私の光になった。
彼は私の好きなお菓子のことや本のことを自分の話も交えながら上手に聞き出し会話を広げてくれた。
同世代の子とお茶を飲んでおしゃべりをすることが初めてで興奮していたのだろう。
疲れることはなかった。楽しい時間はあっという間に過ぎた。
なのに夜には熱を出した。頭が痛くなり息が苦しくなった。
あんなに楽しかったのにと私は自分の体が恨めしくなりベッドの上で泣いてしまった。
お母様がベッドの側に来てひんやりとしたタオルを額に乗せてくれながら
「フローラがそんなに楽しかったのならまた直ぐに会えるようにしましょうね」と優しく慰めてくださった。
「…ほんとうに?…アレンさま、また…来てくれる?…体が弱くても…きらいにならない?」
「ならないわ。フローラは良い子ですもの」
お母様は優しくて安心出来る笑顔で応えてくれた。
そうか良い子にしているとまた会えるんだ。
私は苦しい息の中でいい子になることを誓った。
苦い薬を我慢して飲み、起きていられる時間を増やすようにした。
でも長い付き合いの病はそんなに簡単に消えてはくれなかった。良くなったり悪くなったりを繰り返した。
寝込んでいる時も元気な時もアレン様は変わらず会いに来てくれる。
とても誠実な婚約者だった。
ベッドから離れられない時は本を読んでくれたり、具合が良い時は庭を散歩したりした。
それが当たり前のことだと幼い私は何の疑いも持っていなかった。
いつも読んでくださりありがとうございます。




