幼馴染?
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馬車の中でアレンは隣に座った。ぴったりと寄り添ってくる。
「くっつき過ぎじゃない?」
「君が煽るからだ」
「煽ってなんかいないわ」
「無自覚なのか?天然か、やばいな」
アレンの声が色っぽい。まだ手を繋がれたままだ。しれっと膝に座らせられ両手が腰に回された。
「抱っこって!1人で座れるわ」
見た目は10才くらいにはなれたと思うけど、中身は13才だ。頬を膨らませて抗議をする。
「もっとくっつきたい」
「そ、そうなの?まぁいいわよ」
口調は強めだがまんざらでもないフローラはそのまま座っていることにした。
「こうやって距離が近くなると出来ることが増える」
そう言うと髪を掬って持て遊び始めた。
彼の指が触っているのは髪なのに何故か頬に熱を感じる。首筋がチリチリしてきた。じんわり身体が火照ってくる。こんな気持ちは初めてだ。
「赤くなって可愛い」
「意地悪言うと降りるわ」
「ごめん、あまりにも可愛い過ぎるフローラが悪い」
「ええっ、悪いのは私?」
「うん、可愛すぎて食べたくなる。結婚式までは我慢するけど」
食べたいって何?私は食べ物ではないわ。まだお子ちゃまのフローラにはよく分からない言葉だった。
それからもアレンは髪にキスを落とした。お陰でフローラは振り回されてへとへとになった。真っ赤でまるで林檎のようだった。
でもアレンにすっぽり包まれるのは気分が良い。何故だろう?香りかな。まあいいけどとフローラは自分を納得させた。
婚約解消をした時の辛さは何とも言い表せない程だった。もう2度と同じ間違いはしない。あれは消してしまいたい黒歴史だ。
蕩けそうな紫色の瞳を振り返って見ながらフローラはそんなことを思っていた。
2人で手を繋ぎ同じ絵を見て感想を言い合う。美術館はデートにぴったりの場所だった。
フロアに戻るとほうっと大きく息を吐いた
「素敵な絵が多かったわね」
「うん、フローラと一緒だと全て輝いて見えるよ」
「私もそうだわ。ねえまた本を読んで欲しいわ。あなたの声が好きなの。上手だし」
「読んであげるけど好きなのは声だけ?」
「声も好き。全部好き」
「僕も好きだよフローラ。愛してる」
フローラはただアレンを見つめ、そっと手を伸ばした。彼の前髪にそっと触れた。アレンはされるままになっている。
周りに控えていた護衛と侍女は砂糖を吐きそうになっていた。「なんだよこの甘さ、勘弁してくれ」と。
若い護衛は恋人に会いたくなり、侍女は帰ってから仲間たちに話題ができて大満足だった。
これから2人はお茶を飲みにカフェに行くのだ。そこでも繰り広げられるだろう展開に侍女は期待を膨らませた。
★☆★
たっぷりと時間を取りお茶を楽しんでカフェを出た時
「アレンじゃない。久しぶりね」と鈴を鳴らすような声がした。
これってデジャヴ?以前にもあったような気がする。フローラは嫌な予感がした。
「グレンダか、婚約者とデート中だ。何か用か?」
あれっ?今回は呼び捨てだ。気安そう、誰?
「そう、ご苦労さま。この前読みたがっていた本を取り寄せておいたからまたうちに寄ってね。では婚約者様、ごきげんよう」
(ゴクロウサマ?コノマエヨミタガッテイタホン?ウチにヨッテ?)
彼女の手が柔らかくアレンの頬に触れた。
一瞬だったので避けられないのは分かったが、絶対わざとだ。
アレンも払振り払えばいいものを何故ぼうっと触れられているのだろう。
婚約者が隣にいるのに喧嘩を売っているのかしら。
「ごきげんよう」
(名前くらい名乗りなさいよ。名無しさん。ご苦労さまって何よ、ご苦労さまって。私のアレンに触れないで)
ぎゅっと腕にしがみついたが挑発的な態度に気分が悪い。
「じゃあ、またね。アレン」
甘ったるい声でそう言うと彼女は勝ち誇ったような目をして去っていった。
(グレンダ?グレンダってグレンダ・モーリス侯爵令嬢だわ。アレンの何?)
「ねえあの方アレンと親しいの?私の目の前で貴方の頬を撫でたわ」
悪手だと思うのに知らずに声が低くなった。
「親しくなんてない。領地が隣なだけだよ。さっと避ければ良かったのに遅かった。不覚だ。ごめん」
「呼び捨てにする程仲が良いの?そういう間柄だったってこと?」
さっきまでの楽しい時間が嘘のように冷えていった。
今私は酷い顔をしているに違いない。
「いや親しくなんてない。小さい頃から知っているからつい。あっ、ごめん。気分が悪かったよね。今度から気を付ける」
「今度って何?彼女ご苦労さまって言ってたわ。周りからしたらそういうふうに見えるのね」
嫌われると思うのに突っかかってしまう。
きっと今私の顔は醜い。彼の前から消えてしまいたい。
「言い方が悪かった。誤解だ。彼女性格が悪いんだ。からかって遊んでいるだけだよ。挑発して動揺するのを喜んでいるだけだ。本は侯爵家の歴史書のことだ。以前父親に付いて行ったときに読んだことがあるだけだ。もう行かないから、機嫌を直して」
「私、アレンのことを何も知らなかったみたいだね。
食べ過ぎたかも知れない。気持ちが悪くなったからもう帰るね」
かっとなった頭を冷やす時間が欲しいしこれ以上醜態を晒したくない。
「そんなに顔色が悪いフローラを1人で帰せない。送っていくよ」
嘘ではない、本当に気持ちが悪い。胃がむかむかして吐きそうだ。
「アレンの服を汚すかもしれないから侍女に側にいてもらう。送らなくていいわ」
「君の体から出るもので汚れたら本望だ。送らせて」
離れたいと思っているのに私はアレンを振り払えなかった。
とんだところで痴話喧嘩に……。




