孤児だった
いつも読んでくださってありがとうございます。
2人を連れて帰ったら、家令のスミスがびっくりしていた。
2人もまさか領主邸に連れて来られるとは思っていなかったらしく怯えている。
「ただいま、スミス。この子たちを綺麗にして何か食べさせてあげて」
「お嬢様この子たちをどうされるつもりですか?」
「2人には勉強をして貰って私付きにしようと思っているわ。エラちゃんは病気みたいなの。食事は柔らかな物からにしてね。お医者様を呼んで診て貰って。心細いだろうから2人は同じ部屋にしてあげてちょうだい」
「…お嬢様…、畏まりました。ですがこの子たちが病気を持っていないか、どれくらい出来るようになるかで判断させていただきますぞ。お嬢様も診察を受けていただきます」
何でも拾って来る仕様のないお嬢様だとため息をついているような顔だった。
お父様が小さい頃から勤めているのだ。
私を孫の様に思っているのも仕方がない。
私はこの間死にそうな子猫を拾ってきている。
最初は懐かなかった猫が今では邸のアイドルだ。
私は今にも死にそうなものに弱かった。
「…おじょうさま…、だったんだ。失礼な口を聞いてすみませんでした」
「フローラとしか言わなかったんだからいいのよ。お風呂で綺麗にしてもらって食事をしてね。エラちゃんはゆっくり寝てね。後で顔を見に行くね」
「「ありがとうございます」」
2人並んで深々とお辞儀をした。可愛い!
「こっちへおいで」メイドがお風呂に連れ去った。
お医者様の話だと2人共栄養失調だそうで、エラちゃんは特に酷く抵抗力が無くて熱があった。
おじいちゃん先生は子どもの扱いが上手で、母親が男といなくなったことを聞き出していた。ビリー君が近所の手伝いで小銭を稼ぎ食いつないでいたらしい。
よく生きていたものだ。無事で良かった。
これは是が非でも栄養のある物を食べさせて勉強を教え近くで見守りたい。
お父様にお願いしなくては。
出来れば専属の使用人にしたいが、王都に一緒に行くかどうかは本人たちに決めさせようと思う。
周りの者は無駄だと思っているが母親が戻ってくるのを待ちたいかも知れない。まだ母が恋しい小さな子どもなのだ。
だが2人は王都に行きたいと言った。
やはり母親に捨てられたのは心に深い傷を残していた。
あの子たちはもっと食べて元気になってから王都に来ることになった。
今のままでは体力が保たないとおじいちゃん先生の指導があった。
私達が帰った後は邸の者達が面倒を見てくれる。元気になったら王都行きの便に乗せてくれる手筈になった。
私は優しい邸の者たちが誇らしくなった。
★☆★
林檎を見ながら、いつの間にか領地にいた時の事を思い出していたようだ。
「おじょうさま?…お嬢様アレン様がお見えです」
というミラの声で我に返った。
そうだわ、今日は美術館デートの日だった。
朝から張り切ったメイド達に着飾らされていたのだ。
まだ子供っぽさが抜けない私に似合うワンピースをあれこれ見つけて着せてくる。
まるで着せ替えのように楽しんでいる。まあ良いんだけど。メイド達の楽しみになれば。
病気だった時はどれだけ邸の中が暗かったことだろう。そのお詫びだと思ってその時間を過ごしている。
今日は薄紫色でコーディネートがしてある。アレンの瞳の色だ。
「わっ、僕色のフローラだ。可愛い!」
玄関を入るなりそう言うとアレンがじっとこちらを見つめてくる。
――フローラはかぁっと頬が熱くなるのを感じた。(こんなに綺麗な紫水晶のような瞳だったんだ。綺麗)
「アレンもかっこいいわ」
白いシャツに黒いパンツと上着だけなのに、素敵だなんてずるい。
アレンが手を差し出して、フローラに近づいてきた。
瞳に囚われるように言葉が出た。
「ねえさっきのもう一度言って」
「何て?」
「もう一度、『可愛い』って言って」
「―――可愛い、可愛い僕のフローラ」
胸の奥がきゅーんとなった。熱がじわりと広がり全身を駆け巡って2人で真っ赤になった。
周りの空気が砂糖をぶちまけたくらい甘くなったが本人達が気が付くはずもない。
メイド達はこの恋愛劇場を悶えそうになりながら耐えた。
美術館に行くまでに心臓が持つだろうか?長い付き合いなのに。
フローラは付き合い初めの恋人のように胸が鼓動を打つのを感じた。
アレンは夢見るような笑みを浮かべ、彼女を見つめていた。




