勾玉と祠と【ギルドの作業道】(後編)
「ムンナちゃんが持っているという、その2つの勾玉を奉納している祠の結界の強度を上げた人が何者なのかは分からないけど……
少なくとも、ムンナちゃんが、祠から2つの勾玉を持ち出している事には、今のところ気がついてなさそう。
っていう認識で合ってる?」
「その認識で合うておる筈じゃ。
妾がアマトティの欠片からムンナという別個体になった為、出来ない事や知らない事が増えた。
じゃが、幸いな事に、
この勾玉を所持しておる事を認識させない事ぐらいは、妾にも出来る。
まぁ、他の勾玉を探すのは難義じゃとは思うが……
妾は、皆の協力があれば何とかなると信じておる。」
ムンナちゃんが、僕が質問した以上に、色々と教えてくれる。
『一カ所に留まるつもりはあらへんけど、闇雲に動き回るんも効率が悪い。
せやから、暇を見つけて、【空の目】で、世界中のあちこちを探して、この祠みたいなんを探してみるわ。』
「今、レイヒが言った仕事は、ナブサモの持っておるガラス板のような物の使い方をナブサモに教わり、妾がやらせて貰う。
じゃから、レイヒには、
この森の中に作られておる【ギルドの作業道】を【空の目】で探し出し、
早急に、この森の外に出る為のナビゲートする仕事に専念して欲しい。」
レイヒちゃんの話を聞いたムンナちゃんが、真剣な顔で話す。
◇◇◇
『【ギルドの作業道】ってなんや?』
「レイヒは、どうやって移動ルートを決めておるのじゃ?」
『【空の目】の映像から得られたデータを元に、
ウチ達のキャンピングカーが通れる場所を表示する事が出来るアプリを作ってん。
でっ。そのアプリの情報を元に目的地にナビゲートしてくれはるアプリも別に作ってん。
そんで、目的地までナビゲートしてくれはるアプリにジハリマの町を設定してん。
一応、それらのアプリに問題が無いかチョイチョイ確認はしてるけど……
基本、ルートの設定は、それらのアプリにお任せしてる。』
レイヒちゃんがムンナちゃんの質問に答える。
「ガラス板のような物は、妾が思ってた以上に優れた道具のようじゃな。
まぁ良い。
【ギルドの作業道】について教えておこう。
この森に関わらず、
今どきの者達はバイクやクアッドを使い、古くは馬に騎乗したり徒歩などで、
山や森にモンスターや動物を狩りに行ったり、木を伐採したり、薬草や山菜などを採りに行ったりしておるの者が一定数、居るのじゃが……
山や森の奥で仕事をする為に必要な量の道具や食糧などの物資を持ち込み、
尚且つ、山や森の奥から採算が合う程の量の素材を回収する為に、
回収した素材を一度に大量に運ぶ事が出来る、トラックやピックアップトラック。古くは馬車などを仕事場の近くまで持ち込みたいと考えた。
でっ。そうした経緯で作られた道が【ギルドの作業道】と呼ばれておるのじゃ。」
ムンナちゃんが、ゆっくりとした口調で【ギルドの作業道】について、分かりやすく説明してくれた。
◇◇◇
『へ~。そうなんや。
ジハリマの町まで、キャンピングカーが走れるぐらいの幅の獣道が途切れる事なく続いててラッキー。って思ってたんやけど……
別にラッキーでもなんでもなかったんやね。』
レイヒちゃんの声が携帯電話から聞こえてくる。
『そう凹むなよ、レイヒ。
運任せの旅よか、全然、良いじゃんかよ。
お前さんだって、キャンピングカーを走らせられるような道が無いから、途中から徒歩で移動しないといけなくなる。ってのは……嫌だろ?』
『確かに、こんな寒空の中、キャンピングカーが通れる道があらへんから、途中から徒歩での移動になるんは勘弁やね。』
ナシアタ君の言葉に、レイヒちゃんが素直に頷く。
『だろ。
それは、そうと、この森。つうよりも……この世界にも、俺達の世界みたいに四季みたいなもんがあるのか?
それと……一年中、寒い場所や暖かい場所とかもあるのか?』
『この世界の気候は、ウチ達の世界の気候と、あんま変わらへんみたいやで。
因みに、この森は温帯に属してはるみたいで、四季とかもあるみたいやで。』
ナシアタ君の質問にレイヒちゃんが答える。
「この森は冬こそ極寒の地になるが、それ以外の時期は比較的、過ごしやすい気温じゃぞ。
まぁ……その代わりと言ってはなんじゃが、
冬以外の時期は、今、この森で出会う生き物だけでなく、
今は、冬眠したり卵や蛹の状態で越冬しておる昆虫や蜘蛛やサソリ。ヒルやヘビや、それらの系統のモンスターなんかも、うようよ出てくる。
じゃから……
寒さ以外の部分では、この時期が一番、過ごしやすいかもしれぬな。」
ムンナちゃんが眉間にシワをよせながら、ナシアタ君とレイヒちゃんの会話に加わる。
「虫は、ありえん。
朝になったら、ソッコーで我が家の【異空間ハウス】を展開して、
電池式の虫よけ・蚊取り製品を持って来ないといけなさそうね。」
『姉さん。
この森の季節は冬で、春になるまで虫は出て来うへん。って、ムンナちゃんが言うてはったやん。』
レイヒちゃんの大笑いしながら話す声が携帯電話から聞こえてくる。
「レイヒちゃんは甘い。甘すぎる。
奴等を甘く見てはダメ。念には念を入れとくべきよ。」
嫁は、そう言いながら、窓の外を睨みつけていた。
■■■
『にゃあ。
レイヒが言うジハリマの町とは平地にあるのかにゃ?』
『この森を北側に抜けた場所にあるミンボン山脈の山裾って感じの場所やね。』
『にゃる程。
そこには、どうしても行かにゃいといけにゃいのかにゃ?』
『どうしても行かなアカン。って事は無いけど……
どないしはったんや?』
『瘴気の濃度が上がり過ぎてるにゃ。
このままだと、この辺りに居るモンスターや動物の多くが森の外縁部に向けて移動を開始する可能性があるにゃ。
にゃけど……移動した先には、元々、住んでいるモンスターや動物が居るにゃ。
そこで縄張り争いが起こり、負けた者が更に森の外縁部から、平地にゃどに押し出されたモンスターが、環境が変わった事で凶暴化し、モンスター氾濫に発展する可能性があるにゃ。』
『それ、滅茶苦茶、ヤバい奴やん。
でっ。何処に逃げれば良えんや?』
『モンスター氾濫は、この森の外縁部から、この森の周辺部で起きる筈にゃ。
にゃかや、モンスター氾濫の影響を受けない方法としては、敢えて、ここに残るか、
何故か、今まで一度として、この森から発生したモンスター氾濫の影響を受けた事のにゃい、大木が育たないぐらい高い場所まで逃げるかのどちらかににゃるにゃ。』
「ならば、大木が育たないぐらい高い場所まで行くべきじゃな。
アマトティとプスアーの魂の欠片を封印しておる祠の本来の役割は、あの湖から発生しておる瘴気の量を抑える為に建てられたものじゃ。
じゃから、その内、この辺りを仕切る神仏の代理人のニンムシュが祠の調査という名目で、やって来るじゃろうな。
勿論、そうなれば、妾が勾玉を盗んだ事もバレる可能性が高い。
とはいえ、ニンムシュは妾だけでなく、主達の存在も知らぬ筈じゃ。
じゃから、ニンムシュは、勾玉を盗んだ者を探し出す為に、調査団を立ち上げ、自らが、その調査団を率いるやもしれぬ。
でっ。もし、ニンムシュと妾達が、直接、顔を合わせるような事態にでもなれば……
流石に、妾達が野良のアサグや妖人。妖の集団じゃと気がつかれる筈じゃ。
ニンムシュは戦闘が得意な方では無い為、逃げる事は出来るやもしれぬが……
そうなってしまえば、
ニンムシュ以外の、この世界を仕切る者達、全員から命を狙われる事になるやもしれぬな。」
レイヒちゃんとシャーコの会話にムンナちゃんが加わる。
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