勾玉と祠と【ギルドの作業道】(前編)
『【空の目】の映像を見てたら、魔石が剥き出しになってはる場所を発見してしもうたわ。
確か、エンクルさんの【異空間加工倉庫】で魔石を簡単に回収する事が出来はるんよね?』
「出来るみたいだよ。」
『さよか。
でっ、【異空間加工倉庫】を使うて魔石液は作れはるん?』
「材料になる魔石さえあれば作れるみたいだよ。」
『ほな、明日の昼に魔石液を作って貰うて、
ウチん家にあるガスストーブ用の20L入る灯油缶の中に満タンに入れてくれへん?
これで、ガス欠で立ち往生してはる車とかの人達に、魔石液を売って欲しい。って言われても何とかなる思うねん。』
「了解。」
『それと……ウチが魔法で木を切り倒したら木箱とかも作れはるんやろ?』
「出来るみたいだよ。」
『ほな。明日の昼は薬草探しやのうて、
木箱を作って貰うて、そん中に集めた魔石を入れるんと、20L入る灯油缶に作って貰うた魔石液を詰める作業をしよか。』
「了解。」
僕はレイヒちゃんの提案に頷く。
「わたしとムンナちゃんとナシアタ君とシャーコは留守番で良いんだよね?」
『せやね。
シャーコ。周囲の警戒とか頼むで。
姉さんは何かあったら、取り敢えず、キャンピングカーを走らせて、安全な場所まで逃げといてな。』
「了解。」・『うにゃ。』
レイヒちゃんの言葉に嫁とシャーコが頷く。
戦闘という意味では嫁とムンナちゃんの異能は、あまり役に立たない。
オリンピック選手も真っ青な身体能力や動体視力も手に入れたというナシアタ君と、
化け猫の妖のシャーコが居るとはいえ、
可能な限り、戦闘は避けて欲しいところだ。
それに、僕の異能と、
様々な魔法や魔術。呪術の知識も得ているレイヒちゃんと、
分裂狼の妖のワンゾウのチームならば、
徒歩で森を移動しながら、先に逃げた嫁達と合流する方が皆で生き残れる確率が上がるのも確かだ。
まぁ……そんな事にならないのが一番だが、何か起こった場合の事前の打ち合わせをしてくれると安心感があるな。
「レイヒ。
主の言う場所にギルドの旗は立てられておるか?」
『ギルドの旗?
緑色の布に、ギルドの紋章が描かれた旗が立ってるわ。』
「緑色の旗じゃな。
ならば、ギルドの登録者ではない、妾達が採掘しても問題無い筈じゃ。」
レイヒちゃんの返答を聞いたムンナちゃんが、ホッとした顔をしている。
『そう言えば、0時を過ぎれば、周りに居る幽霊達の力が倍増するんだったよな?
そろそろ、キャンピングカーに給油をして、ガソリンを満タンにしておいた方が良さそうだな。』
時刻は11時30分。
ナシアタ君が、そう言うとキャンピングカーがゆっくりとスピードを落とし始めた。
■■■
『さっぶ。』
レイヒちゃんの震える声が携帯電話から聞こえてくる。
『差し入れ、有難うございます。
出しますよ。』
ナシアタ君が、そう言うと、再び、キャンピングカーが走り始める。
嫁は、キャンピングカーに給油してくれたナシアタ君や、外で見張りをしていたレイヒちゃんの為に、
ダイネットと運転席の間の移動スペースを開いて、運転席と助手席の間にあるカップホルダーの中に、ペットボトルに入ったホットコーヒーを置いてくれていたらしい。
多分、ナシアタ君は、
その事に対して、お礼を言ってくれたのだろう。
ナシアタ君は、レイヒちゃん達に話す時と、嫁や僕と話す時の話し方が全く違う。
ただ、単に上下関係に煩いだけなのなら良いけれど……
嫁や僕に変な気を使わせているのならば、
彼に変な気を使わさせないように何か考えないといけない気がするな。
◇◇◇
『プハァ。
五臓六腑に染みわたるわぁ……』
『レイヒ、お前……
居酒屋のカウンター席とかで昼間っから酒を飲んでる、酔っぱらいのおっさんかよ。』
レイヒちゃんの言葉を聞いたナシアタ君がツッコミを入れている。
『一瞬、リトル アース ドラゴンちゅう、火炎魔法と風魔法を使いはる、恐竜図鑑に載ってはるディノニクスちゅう恐竜のような姿をしはったモンスターの群れが、こっちに近づいて来そうになりはって焦ったわ。』
『特別な獣や、妖のように、人間と遜色のない頭脳を持たぬモンスターや獣にとって、乗り物と生き物の区別がつかにゃいにゃ。
にゃから、キャンピングカーが止まった時に、
キャンピングカーが自分達の追跡のせいで疲れ果ててしまった。と思い、襲おうとしたのにゃろうにゃ。
にゃけど……再び、キャンピングカーが走り始めた事で、襲撃を断念し、追跡を継続して、キャンピングカーの体力を削り続る事に決めたのにゃろう。
今の付かず離れずの距離感を保ってくれるのであれば、あいつ達を恐れて、他のモンスターや動物を寄って来にゃいにゃろうから……良い厄除けににゃるにゃ。
そして、これ以上、距離を詰めて来たら、アタイが殺気を放って追っ払ってやるにゃ。
にゃから、お前達は、あいつ達の事を気にしにゃくて良いにゃ。』
レイヒちゃんの話を聞いたシャーコが有益な情報をくれる。
◇◇◇
「了解。
リトル アース ドラゴンっていうモンスターの事は、シャーコに任せるね。
パパも、ご苦労様。
でっ。外は、どうだった?」
嫁が、そう言いながら、ペットボトルに入ったホットコーヒーを渡してくれる。
「滅茶苦茶、寒かったよ。
スーツの上にジャンパーを着たり、黒とか茶色とかのスニーカーを履くのはギリ セーフだとして、
流石に、スノーシューズを履いて、ニット帽を被るのは変かな?なんて思ってたけど……
そんな些細な事を気にせずに外に出て良かったよ。」
『それ分かるわぁ。
部活のベンチコートを着て、
スカートの下にジャージとウインドブレーカーを履いた、はにわスタイルにして、
革靴やのうて、スノーブーツを履いてて正解やったわ。
革靴を履いて、スカートの下に穿いてるんがタイツだけやったら、多分、凍え死んでと思うわ。』
『それ言えてる。
スーツの上に、冬にバイクを走らせて夜釣りをする時のアウターを着たり、スノーシューズを履いてて正解だった。
姉さんとムンナちゃんも、もしもの場合に備えて、防寒着やスノーブーツを脱がないで下さいよ。』
「了解。」・「うむ。」
ナシアタ君の言葉に嫁とムンナちゃんが頷く。
■■■
『そろそろ0時や。
幽霊の力が増す時間の始まりや。
それと……リトル アース ドラゴンの群れがウチ達から離れて行きよったで。
今までのように幽霊がウチ達を見てはるだけやのうて、何らかのアクションを取って来はる前兆かもしやんから……
幽霊がキャンピングカーやカーゴトレーラーに入られへんように結界を強化したわ。
せやから、ナシアタ。幽霊がウチ達の進路を塞ごうとしはったら躊躇せずに轢くんやで。』
『おう。』
レイヒちゃんの指示にナシアタ君が短い返答を返す。
「寒さが増してきたのう……
外の気温が更に下がってきたのか、幽霊達の影響力が増してきた影響なのか……
微妙なところじゃな。」
ムンナちゃんが、ボソッと呟く。
『幽霊の影響力や思うで。
理由は、【空の目】の映像を見てると、ウチ達が明日、魔石を採掘しよう思ってた場所の近くで夜営してはった、複数の冒険者らしき一団も移動の準備を始めはったり、移動を始めはったりしてはる。
せやから、ナシアタ。
茂みから出てきはるんが、モンスターや動物。幽霊とかだけやのうて、この世界の人達が乗ってはる乗り物もある。ちゅう事も頭に入れといてや。』
『おう。』
レイヒちゃんの指示にナシアタ君が短い返答を返す。
◇◇◇
「そう言えば、ナブサモの持っておるガラス板のような物でも【空の目】の映像が見えるのじゃろ?
妾達が出会うた場所の近くにある大きな湖の真ん中に浮かんでおるように見える小島の映像を見せてくれぬか。」
ムンナちゃんが真剣な顔で嫁を見る。
「了解。
大きな湖の中にある小島の映像ね。
これであってる?」
嫁が、そう言いながらタブレットをムンナちゃんに見せる。
「うむ。
この島には、アマトティとプスアーを封印し、この世界を閉じた世界にする為の術式が刻まれた2つの勾玉が奉納されておった祠があるのじゃが……
どうやら、その祠がある島を覆う結界の強度を上げる為に、湖を覆う結界が切られた事で、
湖から発生する瘴気を吸収し、浄化する力を持つ土で出来ておる祠のある小島で瘴気が吸収されなくなった事で、
今までとは比べ物にならない量の瘴気が、この森に流れ始めておるように見えるのう……
幽霊達の力が増しておるのは、十中八九、そのせいじゃろうな。」
ムンナちゃんが、ボソッと呟く。
『この世界を開くには、その勾玉が必要になるんか?』
「うむ。
じゃが……あの小島にある祠に行く必要はないぞ。
何故なら、あの小島にある祠に奉納されておった勾玉は、既に2つとも妾が盗み出して、所持しておるからじゃ。」
レイヒちゃんの質問にムンナちゃんが得意気な顔で答える。
「あの小島の祠以外にも、
アマトティ様とプスアー様を封印し、この世界を閉じた世界にする為の術式が刻まれた2つの勾玉が奉納されている祠があるの?」
「エンクルは勘が鋭いのう。
同じような祠は、後、5つほどある筈じゃ。
でっ。そこに奉納されておる勾玉を全て回収すれば、この世界を開いた世界にする事が出来る筈なのじゃが……
悔しいがな、他の祠のある場所を妾は知らぬのじゃ。」
ムンナちゃんが悔しそうな顔をしながら、僕の質問に答えてくれた。
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