出会い(後編)
「旨すぎて、手が止まらぬぞ。」
ムンナちゃんが、箸ではなく、フォークやスプーンを器用に使いながら、
親子丼やうどんがメインの某チェーン店のお持ち帰り用のうどんや親子丼に舌鼓を打っている。
時刻は19時。
僕達はキャンピングカーのダイネットで夕食を取っている。
ナシアタ君の家のキャンピングカーは、小型トラックをベースに作られた悪路走破性に優れた物らしい。
また、天井にはソーラーパネルが取り付けられていて、それとは別にダイニングの床下収納の中にはサブバッテリーまで積み込まれている。
その為、ダイネットやキッチンスペースのエアコンや電子レンジなどの消費電力を気にせずにいられるらしいのもポイントが高いところだ。
それと、牽引するカーゴトレーラーも悪路走破性に優れている物になるらしい。
ある程度、重い物を載せていた方が走りやすいらしのが……今は空っぽの状態だ。
「しかも、風呂に入れて貰い、寒さを感じさせないような上等な服まで与えて貰い、
妾だけでのうて、妾の友まで受け入れて貰えるなんて……
今日は、生まれてから一番の良い日じゃ。」
ムンナちゃんが、そう言いながら涙を目に溜めている。
ムンナちゃんはアマトティ様とは別の個体となった後、
異能を使って幽霊になって、この森の中を彷徨いながら、モンスターなどに殺された冒険者などの衣服を剥ぎ取ったり、野草やモンスターの死骸を食べて生活をしていたらしい。
定期的に、この森に湧いている温泉に入り、身体や衣服を洗ったりしていたらしく、臭いこそなかったが、ボロボロの衣服を着ていたので、
晩御飯にする前に、嫁が【異空間ハウス】で再現した僕達の家の風呂にムンナちゃんを入れ、
その間に、嫁が【異空間ハウス】で再現しなおしたナシアタ君のご実家から、バツイチになって実家に出戻っているというナシアタ君のお姉さんの子供さん(女の子)の冬服を何着かナシアタ君に取ってきて貰った服の中の一着をムンナちゃんに着せたのだ。
「はぁ……
こんなんでイチイチ感動してたらチョロい女だってバカにされるぞ。」
嫁が、目に涙を浮かべながら、ムンナちゃんの頭を撫でている。
因みにムンナちゃんの言う友とは、
人の言葉を話したり、祓い魔法と風魔法と神遊観(分身の術)と念力と結界魔法が使える、小型犬サイズの分裂狼と呼ばれる狼系のモンスターの妖のワンゾウと、
人の言葉を話したり、無能者の人間や様々なモンスターや動物に化けたり、念力が使えたりする、化け野猫と呼ばれる猫系のモンスターの妖のシャーコだ。
僕達はムンナちゃんと一緒に居たいというワンゾウとシャーコと、
僕達のお手伝いをして貰う代わりに食事と寝床を提供するという契約を結び、仲間に加わって貰う事にした。
そして、ナシアタ君の家では、ラップポントイレを置き、トイレとして使用されていたマルチルームからラップポントイレを撤去して2匹の部屋にする事にした。
更に、進行方向側に猫と小型犬を飼っていたというナシアタ君のご実家を再現した【異空間ハウス】から持ってきたクレートを2個づつ提供した。
1個は寝床として使用し、もう1個はトレイとして使用する事が出来るようになっている。
4個のクレートは縦と横にそれぞれ、2個づつ並べ、
下の段の2個のクレートはワンゾウが、上の段の2個のクレートはシャーコが使用する事に決まった。
その代わりと言ってはなんだが、
マルチルーム内にある外へ繋がる扉から侵入しようとする者が居たら、僕達に知らせる仕事を追加でお願いした。
因みに、マルチルームの進行方向とは逆側の壁は、
僕達の家などを再現した【異空間ハウス】の扉を展開するスペースとなっている。
ただ、僕達以外の人に【異空間ハウス】を見られるリスクを減らす為に、
【異空間ハウス】に【マナの貯蓄】を付与して、常時展開する事を止める事にした。
【ガチャ】
ダイネットとマルチルームを繋ぐ扉が開く。
「ワンゾウとシャーコが、ドッグフードとキャットフードを完食してくれましたよ。」
「2匹とも餌だけやのうて、寝床やトイレも気に入ってくれはったで。」
一足先に夕御飯を食べ、ワンゾウとシャーコのお世話をしてくれていたナシアタ君とレイヒちゃんが満面の笑みを浮かべながら報告をしてくれる。
「ご苦労様でした。」
嫁がレイヒちゃんとナシアタ君に笑顔で返答を返す。
■■■
『うわ。外は-5℃まで下がってるみたいやん。
しかも、雪まで降ってきはったで。
ホンマ、勘弁して欲しいわ。』
時刻は20時。
キャンピングカーのダイネットの机の上に置いてある、この世界でも通話が可能なように設定をしてくれたスピーカー モードにしてある携帯電話から、
キャンピングカーの助手席に座っているレイヒちゃんの声が聞こえてくる。
『気温は日が昇るまで下がり続けると思います。
寝られる時は毛布を掛けるのを忘れないで下さいよ。』
運転手のナシアタ君が、僕達を気遣ってくれる。
「有り難う。」
嫁がナシアタ君にお礼を言う。
『どういたしまして。
では、出ます。』
ナシアタ君の嫁への返答と同時に、キャンピングカーが、ゆっくりと動き始めた。
◇◇◇
車内の灯りが届かない場所は漆黒の闇に包まれて何も見えない。
窓の外を見ると雪がパラついてはいるが、吹雪いてはいないように見える。
この森の肉食のモンスターや動物達の殆どが夜行性らしい。
また、悪霊達も日が暮れてからの方が活発に行動するらしい。
僕達は自分達の身の安全を考慮して、この森を出るまでは、朝に寝て、昼間にチョロと薬草等の採集をして、夜に移動をする事にした。
「ムンナちゃん。何時でも寝て良いんだよ。」
嫁が笑顔で話す。
「主達は優しいのう。」
ムンナちゃんが、そう言いながら、嫁に持たれかかる。
『索敵魔法や【空の目】の映像から得られた情報やと、モンスターはウチ達を避けてくれてはるみたいやね。
せやけど……マナの殆どあらへん動物は索敵魔法に引っかかり難い性質があるから、キャンピングカーから不用意に出はるんは不味い思うわ。
そんでもって悪霊は……
ウチ達の周りをウロチョロし始めてはる。
せやけど、今んとこ何かしてきはる気配もあらへんから、とりあえず、祓い魔法で攻撃とかせずに無視っとくわ。』
「了解。」×3・『了解。』×2
レイヒちゃんの言葉に僕達は頷く。
マルチルームに置いた携帯電話からワンゾウとシャーコの返答も聞こえてくる。
正直な話、今のところレイヒちゃんの判断が正しいのか、否かの判断はつかない。
僕と嫁だけでなく、レイヒちゃん・ナシアタ君・ムンナちゃんの肉体と脳を活性化させているとはいえ……
それが、僕達の安全にどれだけ貢献しているのかも分からない。
肉体や脳を活性化した事で、視力や動体視力などが上がっただけでなく、感覚が研ぎ澄まされた事で、なんとなく近場の状況が分かっている気になってはいるが……
気のせいだと言われたら否定しようもない。
今のところ、エアコンや、尻に敷いている電毛布や、被っている毛布のお陰で、そこまで寒さは感じないが……外は極寒の地だ。
嫁の異能などのお陰もあって穏やかな時間を過ごしてはいるが、
何時、どうなるか分からない危険な状況から抜け出せたわけではないので、直ぐに外に出られるようにジャンパーや靴を脱いでいない。
「ワンゾウとシャーコも寒くない?」
『床に敷いてくれている暖かい布(USB給電のペット用のホットカーペット)と、毛布とやらのお陰で、ヌクヌクにゃ。』
『寝床の中は春のようじゃ。
飯も旨かったし、水も飲み放題の最高の待遇じゃ。
この待遇に応えられるよう、しっかりと働かせて貰うつもりじゃ。』
『アタイも頑張るにゃよ。』
嫁の問いかけに、シャーコとワンゾウが元気な声で答えてくれる声が携帯電話から聞こえてくる。
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