強行軍からの穏やかな時間
「本当は、お粥とか、うどんとかが良いんだろうけど……走行中の車内で食べさせるのは危険だから、これで我慢してね。
熱いから、ふうふうしながら、ゆっくり飲むんだよ。」
【カチリ】
嫁は、そう言いながらムンナちゃんに、
異空間ハウスの中に入って取って来た、ボトル缶に入った、アツアツのコーンポタージュを手渡す。
「旨いのう……優しい甘さじゃ。」
ボトル缶のコーンポタージュを、一口、飲んだムンナちゃんが、笑顔で呟く。
僕はオニギリとお茶を、
嫁とレイヒちゃんはサンドイッチとコーヒーを、
ナシアタ君はハンバーガーとコーラを食べている。
他に同行者が居ない為、トイレ休憩を何時でも、気兼ねなく取れるのが有難いところだ。
窓の外を見れば、トラックが2台、すれ違えるぐらいの道端になっているようだ。
脇道のような道も見えたが、その道も同じようにトラックが2台、すれ違えるぐらいの幅があるように見える。
伐採した木材をスムーズに運べる道端で作られたのだろうな。
『この世界に来てから、一番、走りやすい道だわ。
注意するのは、所々にある、凍った水溜まりぐらいだよ。』
ナシアタ君の上機嫌な声が携帯電話から聞こえてくる。
■■■
【ユサユサ】・【ユサユサ】
「パパ。起きて。
そろそろ、夕方になるぞ。」
嫁が僕を揺らしながら起こしてくる。
いつの間にか、爆睡していたらしいな。
【ガチャッ】
「ただいま。
木こりさん達と一緒に夜営させて貰える事になったわ。
ただし、飯は別々。
向こうさんは、めっさ気い配ってくれはってて、朝までしか居いひんウチ達の為に、歓迎会的なんが出来んくてゴメン。って言われてもうたわ。」
「そうなんですよ。
見た目は、ヤ○ザみたいな人ばっかりだったんですが……
めちゃくちゃ、気の良い人達でしたよ。」
レイヒちゃんとナシアタ君が、そう言いながらキャンピングカーのダイネットの中に入ってくる。
窓の外に見えるトラックの荷台に載せられている頑丈そうなコンテナの中身を、なんとなしに鑑定したら、【移動式 通信装置】だという事が分かった。
レイヒちゃんとナシアタ君が喋ったという木こりさん達は……誰に対しても気の良い人達なのだろうか。それとも……
って、失礼な事を考えるのはよそう。
少なくとも彼等は、僕達にとっては良い人達みたいなのだから。
■■■
「キムチ鍋や、スキヤキなんかも良えぇけど……
やっぱ、最強の鍋は、水炊きやね。」
レイヒちゃんが、そう言いながら、満面の笑みを浮かべている。
「えぇ?
食べるのに時間はかかるけど……最強なのはカニ鍋でしょ。」
嫁が、そう言いながら、鍋の具材をポン酢の入ったお椀に入れる。
「次に、木こりさん達の居はる場所で夜営する時は、カニ鍋にしよか。
ちょっと早いけど、気分転換に正月を前倒しするんもありやな。」
「うん。」
レイヒちゃんの言葉に嫁が力強く頷いている。
【ボリボリボリ】・【クチャクチャクチャ】
ワンゾウとシャーコは、茹でた手羽先と手羽元を一心不乱で食べている。
「やはり、主達の世界の飯は旨すぎる。」
ムンナちゃんが笑顔で話す。
「正月気分ねぇ……
おせちも良いけど、カレーもね。が出来ないところが悲しいよね……」
「この世界の貿易網は貧弱やさかい、イランツ カバー帝国から離れれば、離れるほど、香辛料がバカ高くなりはる。
せやから、香辛料を大量に使うカレーは、
最低でも、ギルドのシュルスム支部の縄張りに入るまでは、カレーは封印すべきや。
ちゅうたんは、兄さんやん。」
僕の言葉に、レイヒちゃんが苦笑いしながら、ツッコミを入れてくる。
「その前に、クリマスがあるでしょ。
フライドチキンとケーキで、パーティーもしないといけないと思いますよ。」
ナシアタ君が、そう言いながら、目をキラキラとさせていた。
■■■
「〆の雑炊が出来たぞ。
お椀を寄越せ。」
ナシアタ君が、そういいながら、レイヒちゃんの方へ手を差し出す。
「待ってたで。」
ムンナちゃんと、皆より、少し前に箸休めをしていたレイヒちゃんが目をキラキラさせている。
「レイヒよ。
主に言われるままに、満腹になる前に箸休めをしておったが……
雑炊とは、そこまでしてでも食うべき、旨き物なのか。」
「せやで。
心の底から、ウチに感謝する思うで。」
小首を傾げながら話すムンナちゃんに、レイヒちゃんが自信たっぷりな顔で返答を返す。
◇◇◇
ムンナちゃんは、夢中で雑炊を食べている。
食レポをする余裕すら無い程、気に入ったようだ。
「嬉しい反応だな。」
そんなムンナちゃんを、ナシアタ君が満足そうな顔で見つめている。
「こんだけ、あちこちで焚き火を焚いてくれてはったら、流石に幽霊も出てこやんね。
お陰で、鍋を美味しく食べられたわ。」
「油断するな。
木こりさん達のリーダーが、幽霊対策として焚き火を増やす。って言ってたじゃん。
焚き火を焚いてあっても幽霊が出てくる事がある。って事だろ。」
レイヒちゃんの話を聞いたナシアタ君が窓の外をジッと睨みながら話す。
「けど、今のところ、幽霊は居ない。
とりあえず、後片付けはしとくから、ナシアタ君とレイヒちゃんは、食べ終わったら、トイレを済ませて寝て。」
「了解。」×2
嫁の言葉にレイヒちゃんとナシアタ君が素直に頷く。
■■■
「ただいま。」
異空間ハウスの扉からピカピカになった鍋やお椀を入れた、透明な収納ケースを抱えて嫁が出てきた。
「ご苦労様。」
僕は嫁に声をかける。
レイヒちゃん。ナシアタ君。ムンナちゃんは、既にバンクベッドで就寝中で、
ワンゾウも運転席の横の助手席に置かれたドライブ ボックスの中で就寝中だ。
大きなイビキが聞こえてくるところをみると、相当、疲れが溜まっていたようだ。
2人には、かなり無理をして貰っている自覚はある。
替えの利かない2人だからこそ、無理をさせすぎないようにしないといけないな。
◇◇◇
「もっと薪をくべろ!
絶対に火を絶やすなよ!」
「はい!」・「おう!」・「分かった!」
「了解!」「うっす!」・「へい!」
「合点。承知!」・「畏まり~!」
大きな声が窓の外から聞こえてくる。
「慌てすぎにゃ。
幽霊の一団から、殺気が放たれて無い事ぐらい、確認すれば簡単に分かると思うんにゃがね。」
シャーコが溜息をつきながら呟くが、大量の幽霊達が、こっちを見ているんだ。
幽霊を祓う魔法や魔術を使えたり、僕のような幽霊を殺せるような異能を持っていなければ……恐怖を感じるのも無理は無いだろう。
「そうなの。
だったら、静かにして欲しいものよね……
折角、皆、寝てくれたのに。」
嫁が溜息をつきながら窓の外を見ている。
「霊道は、どうしてパンクしたんだろうね。」
「さぁ……
レイヒちゃんも、脳の半分を休ませながらだったから、ナシアタ君のサポートでいっぱい・いっぱいだったらしく、
霊道が何故、パンクしているのかについては調べられなかった。って言ってたよ。」
嫁が淡々とした口調で話す。
「そうなんだ。
まぁ……取り急ぎ、行軍に支障は無いみたいだし、
最悪、僕の異能ならば幽霊達を殺す事も出来るから、
優先順位をつけて、途中で限界を超えて倒れたりしないように調整してくれたんだろうね。」
「だと思う。
本当、頭が下がる思いだよ。」
僕の言葉を聞いた嫁が、
申し訳なさそうな顔をしながら、頭上にあるバンクベッドを見上げていた。
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