立ち入り制限林道の関所
「『回収』」
僕は異能【異空間加工倉庫】の能力を、ただの封印の魔術に見せかける為のダミーの小瓶をキャンピングカーに向けながら、呪文を唱える。
時刻は22時。
僕達は立ち入り制限林道の入り口に設けられた関所に着いた。
因みに、僕が異空間加工倉庫の中にキャンピングカーを入れたのは、
関所の責任者から、夜間に関所の正門は開く事が出来ず、特例で徒歩でのみ抜けられる幅と高さの裏口ならば開ける。と言われたからだ。
それで、関所の裏口を通り抜けるのに邪魔になるキャンピングカーを異空間加工倉庫の中に入れたのだ。
「ご理解、ご協力、有難うございます。
では、裏口を開きます。」
関所の責任者が、そう言うと裏口の扉が上に引き上げられた。
裏口の出入口に向けて、数十人の衛兵達が、魔力弾のライフルの銃口を一斉に向ける。
「ご苦労様にゃ。
アタイ達は、関所の外に出るにゃ。」
嫁の左肩に乗っているシャーコが笑顔で話す。
◇◇◇
【ブヒュュー】・【ブヒュュー】・【ブヒュュー】
【ブヒュュー】・【ブヒュュー】・【ブヒュュー】
【ブヒュュー】・【ブヒュュー】・【ブヒュュー】
関所の裏口を抜けた途端、強烈な風が吹き荒れていた。
関所の裏口は、大人が1人、通れるぐらいの横幅しかない。
ナシアタ君。レイヒちゃん。嫁 & シャーコ。ワンゾウ。ムンナちゃん。僕の順番で関所の外に出た。
僕達の居る立ち入り制限林道の最北端は、林道とは名ばかりの低木や草本、高山植物しか生えていない、森林限界を超えた場所になる。
その為、ここに来るまでに通っていた高原と同様、雨や風。雪などを遮ってくれる木々がない。
「寒すぎにゃ。
レインコートを着せて貰ってにゃかったら凍え死んでたにゃ。」
「毛は飾り?」
「お洒落にゃ。」
シャーコと嫁がワチャワチャしている。
因みに、ナシアタ君はキャンピングカーから持ち出した、大盾の形にした異空間ハウスの扉を左手に持ち、
右手には魔力弾のソードオフ・ショットガンを持ち、
頭にヘッドライトを装置し、臨戦態勢に入っている。
「立ち入り制限林道に続く階段を発見したわ。」
レイヒちゃんが、そう言いながら、懐中電灯を漆黒の闇に向ける。
レイヒちゃんが懐中電灯を向けた場所に階段らしき物が見える。
「ナイス。レイヒ。
じゃあ、行きますか。」
「了解。」×6
僕達はナシアタ君の言葉に頷く。
◇◇◇
「階段が凍ってますね。
ムンナちゃんとワンゾウを背負った方が良いんじゃないですかね?」
「そうして貰えたら有難い。」
ナシアタ君の言葉にワンゾウが返答を返す。
「なら、わたしがムンナちゃんを背負うよ。
パパは、ワンゾウをお願い。」
「うん。」
嫁は僕の返答を聞くと、ムンナちゃんをおんぶする為にしゃがんだ。
「『活性化 肉体』×2」
僕は、自分の肉体と嫁の肉体のリミットを外す。
「パパ。皆にもお願い。」
「うん。
『活性化 肉体』×6」
嫁に言われて、皆の肉体のリミットも外す。
「絞め殺してしまわぬように気をつける。」
ムンナちゃんは、そう言いながら、嫁の背におぶさる。
「お願いね。」
嫁は短い返答を返しながら、頭に着けたヘッドライトの電源を入れていた。
◇◇◇
【ブヒュュー】・【ブヒュュー】・【ブヒュュー】
【ブヒュュー】・【ブヒュュー】・【ブヒュュー】
【ブヒュュー】・【ブヒュュー】・【ブヒュュー】
階段に容赦なく風が吹きつけている。
救いは、風が階段にぶつかるように吹いているのと、雪がパラパラとしか降っていない事だ。
【サク・サク・サク】・【サク・サク・サク】
【サク・サク・サク】・【サク・サク・サク】
【サク・サク・サク】・【サク・サク・サク】
小気味良い音が鳴る。
僕とワンゾウは一番、最後だ。
皆が踏み固めた部分を慎重になぞりながら階段の手すりを手を持って横向きに降りていく。
因みにワンゾウは、僕の肩から背にかけて結界魔法を使って背負子のようなもの作り、そこに座っている。
その為、ワンゾウの重さを除けば、1人で階段を降りているのと変わらないのは有難い事だ。
因みに、背負子のような結界魔法を肩から背にかけて張られているのは、ムンナちゃんを背負う嫁や、シャーコを運んでいるレイヒちゃんも同じだ。
ナシアタ君は盾代わりにしている異空間ハウスの扉を背負い、右足に装着したホルスターの中に魔力弾のソードオフ・ショットガンをしまっている。
【ブヒュュー】・【ブヒュュー】・【ブヒュュー】
【ブヒュュー】・【ブヒュュー】・【ブヒュュー】
【ブヒュュー】・【ブヒュュー】・【ブヒュュー】
階段に容赦なく吹きつけている風は止まる気配がない。
結局、普通なら2~3分で降りられるような長さの階段を、僕達は10分以上もかけて降りる羽目になってしまった。
■■■
「疲れたぁ……」
嫁は額に汗を光らせながらヘタリ込んでいる。
「だね。」
嫁の隣でムンナちゃんもヘタリ込んでいる。
ナシアタ君とレイヒちゃんとシャーコは周囲の警戒をしてくれている。
「お待たせ。」
「パパ。
早くキャンピングカーを異空間加工倉庫から出して。
汗まみれの中で、こんな寒い場所にいたら風邪を引いちゃうよ。」
「了解。
『解放』」
僕は異空間加工倉庫からキャンピングカーを出す。
「給油は終わってます。
急いで乗り込んで下さい。
エンクルさん。申し訳ないのですが……これの設置をお願いします。」
ナシアタ君が、僕に大盾の形をした異空間ハスウの扉を渡してくる。
何時もの位置に大盾の形をした異空間ハウスの扉を戻すには、運転席側からよりもダイネット側からの方が楽だ。
だけど……いつもならば自分で元の場所に戻してくれるナシアタ君が、わざわざ、僕に渡してくる程、この場所を早く離なれたい。って事なのだろうか。
「了解。
『回収』」
僕は笑顔で大盾の形をした異空間ハウスの扉を異空間加工倉庫の中に入れる。
◇◇◇
「『解放』
設置が完了したよ。」
『有り難うございます。
こちら側からも設置がちゃんと出来ている事を確認しました。』
ナシアタ君が返答を返してくれる。
時刻は23時。
漆黒の闇が辺りを包み込んでいる。
大盾の形をした異空間ハウスの扉を、一旦、異空間加工倉庫にしたのは、
キャンピングカーの中に持ち込んで、何時もの場所に素早く設置するには、手を使うよりも早い。と判断したからだ。
【ブヒュュー】・【ブヒュュー】・【ブヒュュー】
【ブヒュュー】・【ブヒュュー】・【ブヒュュー】
【ブヒュュー】・【ブヒュュー】・【ブヒュュー】
【カタカタカタ】・【カタカタカタ】・【カタカタカタ】
【カタカタカタ】・【カタカタカタ】・【カタカタカタ】
【カタカタカタ】・【カタカタカタ】・【カタカタカタ】
時刻は23時。
キャンピングカーの窓から、風だけでなく雪がぶつかる音もし始めた。
『やっぱり降ってきましたか……』
『やっぱり。って自分……天候が分かりはるようになりはったんか?』
『雨が降る前のような匂いがしたから、ひょっとしたら。って思っただけだよ。』
レイヒちゃんの質問にナシアタ君が淡々とした口調で答える。
『でっ。どんな感じだ?』
『【空の目】の映像を見る限りやと、北西の方。
ネギハタ高原国の方から雪雲が近づいて来てはるわ。』
『でっ。ここに止まるべきだと思うか?
それとも……進むべきだと思うか?』
『進むべきやろな。
上手く行けば、雪雲に追い付かれはる前に森の中に入れる。
無理そうやったら、そん時に野営すれば良えんちゃうかな。』
『了解。
出しますよ。』
ナシアタ君がレイヒちゃんに短い返答を返すと、キャンピングカーが、ゆっくりと動き出し始めた。
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