キマベクの村での特許申請(前編)
『ゼンゾウだ!
キマベクの村に着き次第、16時30分まで休憩に入る!
ツネ殿!
申し訳ないですが、例の報告を頼みます!
16時30分以降の指揮権は、イココ団に返す予定だ!
そのつもりで頼む!
では、フヤ殿!
飯の指示を頼みましたぞ!』
時刻は7時。
ゼンゾウさんの声が頭の中に響き渡る。
『キマベクの村に着き次第、30分程度で出来る、簡単な麺入りのスープと麺無しのスープを作ります。
出来ましたら、お呼びしますので、私がお呼びしましたら、全員、飯盒を持って集まって下さいませ。
朝は麺入りのスープを食べて下さいませ。
それと……
後程、握り飯を配りますので、夕食の時に、麺無しのスープと一緒に食べて下さいませ。
以上です。』
『了解。』
フヤさんからの念話で送られた指示に、
乗り物を運転するドライバー達とレイヒちゃんが念話で短い返答を返す。
■■■
『サンスジ商会と、その関係者の皆さんとツネ。
こっちに来て下さ~い。』
チャラい感じの男の人の声が頭の中に響き渡る。
『その声は、ケイゴロウですか?
領主様、自ら最前線に来られるとは……
ご苦労様です。』
『嫌味か!
明るいだけが取り柄の俺への嫌味か!
それとも……領の経営はピカイチだが、極度の人見知りの為、慰問とかが全く出来ない、引きこもりの嫁へ対する嫌味か!
けどな。
世間の常識になんて縛られてたら……俺の領地は、秒で滅ぶわ。
経営者として不適格な脳筋領主様と、
表情筋がフリーズしている領母様なんて……
誰も求めてねぇわ。
領民、居なくなるわ。
秒で居なくてなるわ。』
『オモメも、相変わらずの【氷の才女】様みたいですね。』
『相変わらずじゃねぇ。安定のだ!
身内と仲間内と魔猫の前では仕事以外はポンコツで……
そんでもって、2人っきりの時は……って……
言わすなよ!
相変わらずの聞き上手だな。』
『自滅でしょ。
勝手に話したの君でしょが。』
『自滅じゃねぇ。
ギリギリ踏みとどまったわ。
2人きりの時の嫁さんを……独り占め出来てるわ。
あっ。そうだ。ツネ。
婚約したんだってな。
おめでとさん。
落ち着いたら、嫁さん連れて、こっちにも顔を見せに来いよ。』
『了解です。』
『そうそう。
夕方ぐらいから、マジで吹雪きそうだぞ。
まぁ……外が見えねぇ程、雪は降らねぇとは思うが……
防寒対策だけはしっかりとしとけ。
じゃないと……マジで死ぬぞ。』
『了解です。』
『おう。
ほんじゃ。俺は行くけど、着いて来るなよ。』
ゆっくりと動いていたキャンピングカーが止まる。
『待って下さい。
ギルドの出張所で通信機器を借りたいのですが……
村の中に立ち入っても宜しいですか?』
『徒歩で村に入るのは許可する。
門番に何か言われたら、俺の名前を出してくれ。
後、見てわかる通り、避難民やら、兵士や冒険者。運び屋や商人なんかで、ごった返している。
これは、村の中も同じ状況だ。
だから……ちゃんと見張りは残しとけよ。
それと……村の中に入ったら、スリとかに気をつけるんだぞ。』
『了解です。母上様。』
『はい。良い子です。って……
俺は、お前の母上じゃねえわ。
てか、せめて、そこは父上だろ。
って……まぁ……いいや。
じゃあ、またな。』
『えぇ。また。』
ツネさんと、ケイゴロウという人の念話で会話が終わったようだ。
窓の外を見ると1台の荷台が剥き出しのピックアップ トラックがゆっくりと通り抜けていくのが見える。
そのピックアップトラックの剥き出しの荷台の上に、笑顔で大きな旗を振る大男がチラっと見えた。
◇◇◇
『ゼンゾウだ。
キマベクの村にはツネ殿と俺が入る。
他の者は、トメイ家の愉快な若旦那様が確保してくれていた、この場所で休息に入ってくれ。』
『了解。』
ゼンゾウさんからの念話で送られた指示に、
乗り物を運転するドライバー達とレイヒちゃんが念話で短い返答を返す。
◇◇◇
「外は寒いわね……」
「うん。」・「せやね。」・「じゃな。」・「うむ。」
嫁の言葉に僕・レイヒちゃん・ムンナちゃん・ワンゾウが頷く。
今、僕は嫁達と一緒に車外に居る。
僕が外に出た理由は、ワンゾウの日課となってきた回し車を出す為だ。
因みに、
ナシアタ君は、僕達の乗るキャンピングカーに給油をしてくれていて、
シャアーコは、キャンピングカーのバンクベッドの上でウツラウツラしながら、ニャルソック中だ。
「今日も宜しくお願いしま~す。」
「バフ。」×2
ホンミちゃんがオギンとギンマルを連れて来た。
■■■
時刻は8時。
ワンゾウ・オギン・ギンマルは、楽しそうに回し車を交代で回している。
僕達は、それを見ながら、フヤさんの作ってくれた朝ご飯を食べている。
フヤさんは、僕達のご飯だけでなく、
ワンゾウ・シャーコ・オギン・ギンマルと、サンスジ商会の2匹の雷豹のアラレゾウとオカキコの為に鶏の鳥モモ肉を茹でて渡してくれた。
フヤさんから受け取った、
茹でた鶏の鳥モモ肉をキャンピングカーの中に居るシャーコに届けたら、目をキラキラさせていた。
それに対して、ワンゾウ・オギン・ギンマルは……
回し車の順番待ちの間に、食事こそしてはいるが、その目は回し車に釘付けだ。
いつの間にか、ギャラリーも集まって来ている。
子供達の手を引く大人達の殆どが、武器を持たず、革の鎧等も着ていない。
そこから察するに、暇を持て余した避難民達が見に来ているのだろう。
「そういえば……
あれ、エンクル君の自作だったわよね?
この村のギルドの出張所で、9%の特許使用料金で特許申請をしてきてあげましょうか?」
ホンイちゃんが、僕ではなく嫁に話しかける。
「9%の特許使用料金で特許申請?」
嫁が小首を傾げながらホンイちゃんに逆質問をする。
◇◇◇
「成る程な。
簡単な作りやさかい、特許使用料を払わずに製造しはったもんを売買しはる人をギルドに優先的に調べて貰いはる特約を付けた方が良え。ちゅう事やな。
特許使用料に関しては、ギルドからの明確な指定はあらへんけど……通常は6%。
特許申請に必要な手数料とかをケチリたい零細商会や、ウチ達のようなギルドに登録をしてへん者が、大手商会に代理で特許を申請して貰う場合、手間賃の代わりに特許使用料を2%増やす。
そんでもって、先刻、言った、
特許使用料を払わずに製造しはったもんを売買しはる人をギルドに優先的に調べて貰いはる特約を付けたら、更に、特許使用料が2%ほど増える。
せやから、9%の特許使用料金で特許申請をしたろか。って聞いてくれはったんやろ?」
レイヒちゃんが、嫁とホンイちゃんの会話にサラリと加わり、僕達の疑問点をさり気なく教えてくれる。
「そこまで……凄い物?」
「凄い物だぞ!
是非、我が領内のギルドの出張所で、ホンイ団の方々に、9%の特許使用料金で特許申請をして欲しい。」
そう言いながら、笑顔で大男が近寄ってくる。
「てっ。済まねぇ。
俺は、この村を含めた幾つか村と町を1個ほど納めさせて貰っているケイゴロウ。って者だ。
今回の騒動で、暫くの間、冒険者達はミンボン山脈の樹海の奥まで狩りや素材の収集に行けなくなる筈だ。
そうなると……そいつ達だけでなく、
職人達や宿屋の仕事も連鎖的に無くなっちまう。
でっ。だ。
この回し車は売れる。絶対に売れる。
だから……職の無い冒険者を木こりの護衛として雇えば、負のスパイラルから逃れられる筈だ。
因みに、先刻、嫁さんに連絡して話をして、この案に賛同して貰えたんだ。って……
すまん。すまん。話が逸れたな。
取り合えず、その回し車とやらを特許申請して欲しい。
宜しく頼む。」
ケイゴロウさんが、そう言いながら、深々と頭を下げてきた。
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