【サイドストーリー】各々の思惑
「殿下。グンヨ殿下。
起きて下さいまし。」
執務室の不眠番 兼 通信機器を使った連絡の確認をさせていた侍女のイレナが真っ青な顔をしながら、私を揺らす。
「何事ですか?
てか……何時ですか?」
「5時でございます。」
「朝礼の時の報告ではダメなのですか?」
私はイライラを抑えつつ、イレナに質問をする。
「東の砦に居る、我々の派閥の者からの連絡です。
グンフ様の調査団から外された事に堪えた第2近衛連隊の第20中隊の連中が、グンヨ殿下にお願いをして、自分達を鍛え直す為にクビタゴ盆地へ演習をしに行かれた事になっているのにも関わらず、
ネギハタ高原国 第2近衛連隊の第20中隊の鎧を着込んだ悪霊や、
少数だがスケルトンやリッチなどのモンスターなどが、瘴気の靄もやの向こう側に居る。
という報告が、3時間前から、宰相が大臣を兼任しておられる内務局に、多数、上がっているようです。」
イレナが真っ青な顔で報告をくれる。
「3時間前ですか……
不眠番が、このような事で、父上(ネギハタ高原国王)や宰相を叩き起こす事はないでしょう。
至急、私付きの【王家の暗器】をチョカ家の当主のビョファに送り、
ご子息と、私とのやり取りの痕跡を消すように。
という伝言を伝えさせて下さい。
そうすれば……
チョカ・ズクダニのスタンド プレーで片付けられる筈です。」
「それは……
グンヨ殿下付きの【王家の暗器】の者に、この件をお話しする。という事ですか?」
イレナがポカンとした顔で質問をしてくる。
「私としては、その必要はないと考えます。
チョカ家の当主である彼女もバカでは無い筈です。
私からの伝言を聞けば、皆まで言わなくても、状況を察しって、私の望む動きをしてくれる筈です。」
「分かりました。
私が行かなくても宜しいのですね?」
イレナが心配そうな顔で質問をしてくる。
「後、2時間で交代の時間ですよね?
どうしても気になるようであれば……その後、行って下さい。
まぁ……貴女の危惧するような事は起こってはいない筈ですよ。」
私はイレナに微笑みながら答える。
全く、この人は心配性にも程がある。
まぁ……だからこそ、安心して護衛を任せられるのだけど……
ーーーーーー
「成る程。
もしかしてですが……
ネギハタ高原国 第2近衛連隊の第20中隊の鎧を着込んだ悪霊や、
少数だがスケルトンやリッチなどのモンスターなどが、東の砦付近の瘴気の靄もやの向こう側に居るという事案に、
グンヨ殿下やマキジコ家。チョカ家などが関わっていらっしゃるという事ですかね?」
陛下の直属部隊である【王家の暗器】のメンバーの1人、カベショウが氷のように冷たい目で、アタシを見ながら、質問をしてくる。
「イレナ様。
グンヨ殿下に関わらず、4人の殿下には、各々、お付きの者を、ご用意させて貰ってはいますが……
我々【王家の暗器】は陛下の部下です。
ですから、その……
色々と、お聞きしたい事がありますので、ご同行を願えますかね。」
陛下の直属部隊である【王家の暗器】のメンバーの1人、ミミメが笑顔で話す。
だが……目だけは笑っていない。
「7時から非番となりますので、その後でしたら、その……ご協力をさせて頂けますが。」
アタシはミミメに返答を返す。
「そうですか。
分かりました。」
ミミメが、不機嫌そうな顔をしてはいるが、アッサリと引き下がる。
アタシはグンヨ殿下付きの護衛だ。
彼女の命で、彼女の側を離れてはいるが……
本来ならば、あり得ない事だ。
ミミメも、その辺りの事を察してくれたようだ。
悔やまれるのは、チョカ・ルビョと、その取り巻きの連中の妄言から端を発した、今回の件を見て見ぬフリをしてしまった事だが……
それを、今更、言ったところで状況は変わらない。
最悪の場合に備えて、
チョカ・ズクダニは、クビタゴ盆地へ演習をしに行く体で、王都を離れ、
自分達を評価しないネギハタ高原国軍を見限り、
部下と共に、傭兵団として再起を図る為に他国へ亡命した。という筋書きが出来てはいる。とは聞いてはいるが……
我が国(ネギハタ高原国)の国境を守る砦の中に併設されてたギルドの営業所や、王都のギルドの支店などが所有する【審議判定の魔道具】を上手く使われれば、その小細工は通用しないだろう。
でっ。あれば……
グンヨ殿下には申し訳なく思うが、
吹けば飛ぶような落ちぶれたゲニラ子爵家とはいえ、大事な家族の命を賭けてまで、グンヨ殿下を、お守りする気はない。
何故ならば、
幸いな事に、アタシは、この件に、直接、関わってはいないからだ。
だから、きっと……
知っている事を【王家の暗器】に包み隠さずに話せば、アタシの姉の嫁ぎ先である、ウドゥイティ トスン高原国のジージューシ侯爵家との関係を考えて、アタシの家族にまでは手を出されない筈だ。
それに、まぁ……
今回の件を主導したのはチョカ家だ。
グンヨ殿下のお母様。第2皇妃のご実家のマキジコ家に関しては、
第2皇妃と廃嫡されたレコマ様以外は、今回の件には関わっておられない。
だから、まぁ……
マキジコ家の当主であられるタツニゴ様が、グンヨ殿下や第2皇妃、廃嫡されたレコマ様を擁護し、幽閉される事はあっても、死罪は免れられるだろう。
てか……そうであって欲しい。
じゃないと……
我が身、可愛さの為に、お仕えさせて頂いている主を断頭台にエスコートした稀代の悪女にされてしまう。
アタシ自身は、人の評判など気にしないほうだとはいえ……流石に外聞が悪すぎるからな。
そうなれば、ウドゥイティ トスン高原国に居る姉や、
姉を頼りにウドゥイティ トスン高原国へ向かうであろう家族が後ろ指を指されかねない。
そうなる事だけは、なんとしても避けなければならない。
【パン・パン・パン】
アタシは頬を叩いて気合いを入れ直す。
ーーーーーーー
「ゲニラ・イレナが協力を約束してくれましたか。
マキジコ・タツニゴのタレコミにあった、
マキジコ・タゼヨやデント・ウチユが証言しているという内容の裏取りが出来そうですね。」
【王家の暗器】のミミメとカベショウからの報告を聞いた俺は笑顔で話す。
まぁ……裏取りも何も、今回の件の本当の黒幕は【拝金騎士団】。
表上の黒幕とされるチョカ・ルビョをけしかけた、【拝金騎士団】のトガリコ殿から共有された情報を頭に叩き込んでいる俺としては……
皆が懸命に推理している、
ネギハタ高原国 第2近衛連隊の第20中隊の鎧を着込んだ悪霊や、少数だがスケルトンやリッチなどのモンスターなどが、東の砦付近の瘴気の靄もやの向こう側に居るという事件の謎解きを、高みの見物させて貰っている状況だ。
まぁ……
俺が何か知っていそうだ。と思われる訳にはいかないから……
必死で慌てたフリをしながらも、後で整合性の取れない言葉だと言われないように頭の中をフル稼働させながら、皆と一緒に知恵を絞っているフリをしている真っ最中だ。
「そうですね。
では、我々、【王家の暗器】は、
一足先に逆賊の中心人物である。チョカ・ビョファの身柄を確保させて頂きますね。」
ミミメとカベショウを引き連れてやって来た【王家の暗器】の長官。フバタ・イラが淡々とした口調で話す。
「その必要はないです。
ミミメとカベショウ。
グンヨ殿下のご指示をチョカ・ビョファに伝えて来て下さい。」
「どういう意味でしょうか?」
フバタ・イラが殺気を込めた目で俺を睨む。
「グンヨ殿下やマキジコ家の罪は暴走するチョカ家などの傘下の家を抑えきれなかった事です。
たとえ事実が、どうであれ……国益を考えた場合、その結末が望ましいのです。
そして、グンヨ殿下は死罪ではなく幽閉。
マキジコ家は国外追放の沙汰が下る前に自主的に国外へ出た。
そういう結果で幕引きです。
マキジコ家に関しては、レコマ殿を含めて、今回の件に深く関わってはいないのでしょうけど……
グンヨ殿下は、どうでしょうか?
我々にとっても不都合な事実を、自分達で闇に葬って頂けるのであれば、それに越した事はないでしょう。」
「なる程。
宰相殿のご指示に従います。」
殺気を引っ込めたフバタ・イラが淡々とした口調で話す。
今のところ、リクルル様やリンゴトマド様の意向に添える形でなんとか遣り繰りが出来ている。
リクルル様が、ブレーンとしてソウソパ殿を貸し出してくれた事には感謝しかない。
半分以上は、亡き妻の助言や、献身的な支えのお陰で、この地位を手に入れられたような俺では……
今回のミッションは荷が重すぎるからな。
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