【サイドストーリー】とある日の逃亡者達
「いやぁ……
無茶な行軍をしてでも、いち早く街道に出て正解だったわ。
まさか、ウドゥイティ トスン高原国が移民の受け入れを始めていたり、
テチス山脈の貿易路が崖崩れでダメになっているなんて思ってもみなかったわ。」
時刻は10時。
南東の砦にあるギルドの出張所を出た姉さん(トリース)が上機嫌に話す。
「錬金術に明るい僕と、
日中限定ではあるが、トラックの運転も任せられるメヨユを拾っといて良かっただろ?」
「えぇ。
商会長様と秘書様。今後も頼りにさせて貰いますわね。」
姉さん(トリース)が、レコマ様に上機嫌な顔で返答を返す。
「トラックで待ってるスーやクーリが知ったら喜ぶだろうね。」
「だな。」・「うん。」・「えぇ。」
姉さん(トリース)の言葉に、俺とレコマ様。メヨユ様が同時に頷いた。
◇◇◇
ウドゥイティ トスン高原国は、
国土の殆んどが高原と砂漠。 山脈の麓や鉱山には定住民が居る国だ。
また、魔石や金・銀・銅・鉄等の鉱物資源が豊富ではあるのだが……
魔石や金・銀・銅・鉄等の鉱物資源が豊富な、隣接するアウウア連邦に人が流れ、人口を減らし続けている国だ。
アウウア連邦は国土大半が砂漠の国なのだが、
国民の大半が遊牧民や貿易商人である事や、
中継貿易で栄えているサッヤード マーイズ島王国が近くにある事で、強固な販売経路を確保している為、
そういった販売経路を持たないウドゥイティ トスン高原国は、産業がカブるアウウア連邦の後塵を拝しているのが現状だ。
それもあってか、ウドゥイティ トスン高原国は、
ギルドを通して、錬金術や商売に明るい者や、輸送の護衛や運び屋の移住者を募っていた。
ミンボン山脈の樹海での仕事を何時頃、再開する事が出来るかが不透明な現状、
再開期間が延びれば延びる程、移住希望者は増えるだろう。
そうなってからだと、向こうで新参者として新たにギルドに登録する予定の俺達は不利になる。
この国(ネギハタ高原国)のギルドは訓練所を充実させ、後進の育成を重要視している。
駆け出しの頃に、その恩恵を受けた事への感謝は忘れないが、脛に傷を持つ身となった、今にとっては……
身バレする可能性が高くなる有難迷惑なシステムだ。
その為、俺達は移住希望者の受け入れが締め切られる前にウドゥイティ トスン高原国に移住の手続きを完遂させ、
万年人手不足の為、登録した時点からEランクからスタートする事が出来る、ウドゥイティ トスン高原国で新規の貿易商会を立ち上げる事にしたのだ。
個人的には、このウドゥイティ トスン高原国のギルドのやり方は間違っているとは思うが……
今の俺達にとっては、このウドゥイティ トスン高原国のギルドの無茶苦茶な運営方法が有り難い話だ。
◇◇◇
「ところで……
タツニゴ様からのご返事は貰えたのですか?」
「ミンボン連邦と領土を接している保養地に連れて行った主だった者達と、何時でもナヤクラース連邦に亡命が出来るように準備を始めるそうだよ。
爺や婆や君の家族達、後発隊へは、
保養地の祭りに奉納する為の護符を忘れたから大至急、持って来い。という撤退を指示する偽装メールを、これから出す。という返信もくれたよ。
そうそう。
それ以外の何も知らない者達への対応として、父上はギルドに大金を積み、
残された者達が何も知らないという事を証明する為に、【審議判定の魔道具】を自由に使って貰えるよう、ギルドに大金を積んだ旨を、
ギルド経由で、ネギハタ高原国政府に対してメールで連絡して貰えるように手配もする。という返信もくれたよ。」
メヨユ様のご質問に、レコマ様は笑顔で、お答えされる。
「そうですか。
陛下(ネギハタ高原国王)達は、罪無き仲間達に対しては適切な対応を取って頂ける事を祈るだけですね。」
「そうだね。
僕と君が第2近衛連隊の第20中隊の連中に協力せざる得なかったグンヨ殿下からのお願いメールも父上と共有している。
父上が、そのメールの存在の出しどころを間違えなければ、
陛下(ネギハタ高原国王)達は対応を間違えないと信じてるよ。」
メヨユ様のお言葉に、レコマ様が笑顔でお答えされる。
ーーーーーー
『後ろは、どうだ?』
『森から出て来ているモンスターは居なさそうですわね。』
俺の念話での質問にセリが念話で返答を返してくれる。
時刻は7時。
俺達は、遂に、ミンボン山脈の樹海を抜け、キトナガエ帝国領となると草原に出る事に成功した。
ミンボン山脈の樹海は円形に近い形をしているが、ところどごろ、内側に抉れている感じの場所がある。
俺達が草原に出た場所も、その内側に抉れた場所である。
なので、左右を見渡してても地平線まで草原が続いている訳でもなく、後方と同様、遠くではあるが、鬱蒼とした森を視認する事が出来る。
『坊っちゃまが、行く先をミンボン連邦から、キトナガエ帝国に代えると仰られた時は、正直な話、正気を疑いもしましたが……
仰られていた通り、ミンボン連邦を目指すよりも2~3日も早く、森を抜けられましたね。』
セリの弾んだ声が頭の中に響く。
『だろ。
後、1時間ほど走らせたら、
セリ。リカカ。チョクは12時まで休憩をして、16時までピックアップトラックを走らせてくれ。
俺とウス。ラナは、17時から、明日の7時まで、ピックアップトラックを走らせる。
でっ、明日の8時から16時までは、セリ。リカカ。チョクで運航を回して欲しい。
トイレは、誰かがしたくなったら、都度で止めて行う。
草原は山や森とは違い、道があってないような物だ。
乗り物の走らせ方と方角を知る術さえ知ってれば、腕が悪くても、乗り物を走らせる事が出来るからな。
取り敢えず、西都まで行けば、ギルドに無所属で無国籍の俺達でも運び屋の仕事にありつける筈だ。
何故ならば、今後、大量の避難民が出る筈だから……
運び屋の需要に供給が大幅に追い付かなくなる筈だからな。』
俺は、今後の予定と予想を念話で皆に共有する。
『でっ。その後は……どうされるつもりですか?
ラナさんのお陰で貴族姓を捨られたので、祖国(ネギハタ高原国)から追跡される可能性が減ったとはいえ……
キトナガエ帝国領には、我々の顔を知っている者が大勢、居ますよ。』
チョクの心配そうな声が頭の中に響き渡る。
『運び屋の仕事をしながら、徐々に南下しながら、アマズトモエ連邦を目指す。
そこで落ち着くか、更に陸路で南下するか、東側の港町からナヤクラース連邦へ船で渡るかは、状況次第だな。』
『了解しました。
そこまで考えておられるのであれば安心です。』
チョクの元気な声が頭の中に鳴り響く。
◇◇◇
【錬金術師】のジョブ補正を受けている、俺の嫁のリカカ。
【賢者】のジョブ補正を受けている、俺の乳師弟のセリ。
【祈祷師】のジョブ補正を受けているラナ。
【狩人】のジョブ補正を受けているウス。
【武聖】のジョブ補正を受けているチョク。
【集合リス】のルクヨ。クイヨ。シトイ。コシイ。
そして、【物情を繋ぐ者】のジョブ補正を受けている俺
アコーデオン式幌を架装したダブルキャブのピックアップトラックと、
天井にルーフテントを設置したカーゴトレーラーに、
先導用のクアッドに、
ネギハタ高原国 第2近衛連隊の第20中隊から支給された調査団に偽装する為の装備品。
このメンバー構成と、これらの装備がある事で、立ち上げたばかりの貿易商会としての体裁は整っている。
後は……最速で、俺達の顔を知っている奴が居ない場所まで行き、
その上で、ギルドに登録する場所とタイミングさえ間違わなければ、
理論上の話にはなるが、祖国(ネギハタ高原国)が、俺達を追って来る事はない筈だ。
『ねぇ……
行軍が止まったら、休憩に入る前に仲間達に黙祷を捧げない?』
『おう。』・『えぇ。』・『だね。』・『だな。』・『はい。』
ラナの問いかけに、皆が頷く。
あの森で死霊になった仲間達を思えば、
未来に不安を覚えている現状ですら、有難いと思えてしまうな。
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