夢 / 回し車
『こちらネク。
休憩をする予定の広場が見えて来ました。』
ネクさんの念話が頭の中に響き渡る。
携帯電話を見ると9時と表示されていた。
『了解した。
予不測の事態が起こらない限りは16時過ぎから再び移動を開始する。
行軍の1時間前には飯を食い始めて、出発までには用を足しておいて欲しい。
宜しく頼むぞ。』
『了解や。』 ・『畏まりました。』×2
ウミシシさんの念話での指示に、
レイヒちゃんと教官のリーダーとクタゴタさんが念話で返答を返す。
◇◇◇
「運転席とダイネットを繋いでるトンネルのような場所に【異空間ハウス】を展開したよ。
ナシアタ君。
運転席側の【異空間ハウス】の扉を盾の持ち手のようにしたけど……持てる?」
『はい。完璧です。』
嫁の質問にナシアタ君が答える声が携帯電話から聞こえて来る。
「それは良かった。
開ける時は、『開け。』って念じながら、シャッターのように下から上に持ち上げてね。
閉める時は、『閉まれ。』って念じながら、シャッターのように扉を上から下に下げてね。」
「了解。」×2・『了解。』×3
嫁の説明に、僕・ナシアタ君・レイヒちゃん・ワンゾウ・シャーコが短い返答を返す。
「じゃあ、実際に入って、ご飯とか必要な物を取り出しましょう。
因みに、展開している部屋は昨日と一緒だよ。」
嫁は、そう言うと、ダイネット側の【異空間ハウス】の扉を持ち上げた。
■■■
「今日の飯も旨かった。
もう。主達の世界の飯しか食えそうにないわ。」
「なら、ウチん家の子になる?」
幸せそうな顔で話すムンナちゃんに、嫁が笑顔で話す。
「もし、元の世界でも、本当に異能が使えたら、
【古物商許可】を取得して、リサイクルショップでも開業するかな。」
「パパ。
ついに、ニート以外の目標が出来たのね。
じゃあ……古き良き昭和の時代に存在したという【何も専務】に就任してやろう。」
嫁が笑顔で話す。
「それ、オトンから聞いた事ある。
『出世すれば、【何も専務】とかに成れるから。って、若い頃に、上司に媚びへつらいながら、ガムシャラに働いて出世した。
せやのに、時代が代わりはった結果、
【何も専務】が絶滅しただけやのうて、
専務。言うか……残業の付かない経営側の人間の役割は、部下が規定の時間に終わらせられなかった仕事の肩代わりまでせなアカンような、ハードワークを求められるようになりはった。
結局、俺の人生、最初から最後まで働き詰めやん。
若い頃は、上司の仕事まで肩代わりしてやって……
年取りゃ、部下の仕事の肩代わりかよ。』
って、ボヤいてはったわ。」
「それ分かる。」
僕はレイヒちゃんのお父さんが言ったという話に頷く。
「分かる。って……
パパは、平社員に毛が生えたようなもんじゃん。
しかも、出世はしてない癖に、サービス残業までしていた日もあるじゃん。」
「少しでも査定を上げたいからね。
上司に仕事を丸投げする事が出来る時代にはなったけど……
それをすると、ボーナスの支給額とかが、滅茶苦茶、下がっちゃうんだよねぇ……」
小首を傾げながら話す嫁に、僕がタメ息をつきながら話す。
「なんか……社会人。ってのは大変そうですよね……
とりあえず、俺は、ナブサモさんとエンクルさんが作られるというリサイクルショップに就職させて貰って、トラックを操って出張買い取りに行かせて貰いますよ。」
「ほな。
情報収集と経理は、ウチが担当させて貰うわ。」
元の世界では就活生だったという、ナシアタ君の売り込みにレイヒちゃんが便乗してくる。
「元の世界に戻っても宜しく頼むわね。」
「了解や。
商会長様。」
嫁の言葉に、レイヒちゃんがおどけたような感じの返答を返す。
■■■
「これは良い!凄く良いぞ!」
ワンゾウが叫んでいる。
犬系のモンスターで一般的に使役されているモンスターは魔狼と魔犬。
大きな違いは、魔狼は人語を話せないが魔犬よりも戦闘能力や索敵能力が高く、
魔犬は人語を話せるが魔狼よりもよりも戦闘能力や索敵能力が劣るらしい。
何が言いたいかと言えば……
ワンゾウが人前で喋っても、この世界の住人からすれば、違和感が無い。という事だ。
【ガラ・ガラ・ガラ】・【ガラ・ガラ・ガラ】
【ガラ・ガラ・ガラ】・【ガラ・ガラ・ガラ】
【ガラ・ガラ・ガラ】・【ガラ・ガラ・ガラ】
【ガラ・ガラ・ガラ】・【ガラ・ガラ・ガラ】
【ガラ・ガラ・ガラ】・【ガラ・ガラ・ガラ】
【ガラ・ガラ・ガラ】・【ガラ・ガラ・ガラ】
【ガラ・ガラ・ガラ】・【ガラ・ガラ・ガラ】
【ガラ・ガラ・ガラ】・【ガラ・ガラ・ガラ】
【ガラ・ガラ・ガラ】・【ガラ・ガラ・ガラ】
ワンゾウは、僕が【異空間加工倉庫】を使って作った木製の巨大な回し車の中を軽快に走り続けている。
雪こそ降っていないが、曇天の曇り空。
周囲の 見回りよりも、何時でもキャンピングカーに戻れる距離で運動した方が良いと思い、軽い気持ちで作ってみただけなのだが……
思ってたよりも喜んでくれている。
因みに、右手には小瓶を握りしめている。
この小瓶は、異空間から出し入れしているのを知られたく無い為、巨大な回し車を封印していた風に偽装する為の小道具となる。
「楽しそうじゃのう……」
ムンナちゃんが目をキラキラさせながらワンゾウを見ている。
「ふぁ……元気よね……
ブランコや滑り台ならまだしも……
回し車に関しては、
既に強制参加させられている、人生と言う名の巨大な回し車だけで、お腹が一杯だわ。」
嫁が欠伸をしながら、走り続けるワンゾウを笑顔で見ている。
「これから、高い山の上にある国に行くんだったよね……
幼女と可愛い女の子達。そして、巨大ブランコに崖。
バズりそうな予感がするな。」
「S○Sなんてもん、この世界には無いでしょ。
てか……仮にあったとしても、
【ばえる】からのイイね!を貰う為に、命を賭けるつもりも、賭けさせるつもりもないぞ。」
嫁がジト目で僕を見てくる。
■■■
「俺の名前はカンレツ。こっちの大きいのはキヤリキってんだ。
そして、そこの魔狼。ぽいのがシルバーウルフのオギンとギンマル。
もし、差し支えなければだが、その……
その変わった装置をオギンとギンマルにも使わせて貰えないか?」
「儂は、十分な運動が出来た。
まずは、そこのお嬢。その後は、ボウズが使えば良い。」
ワンゾウが、何故か、誇らし気な顔でカンレツと名乗る男の子に返答を返す。
「バフ。」・「バフ。バフ。バフ。」
2匹の大型犬サイズの狼が嬉しそうな顔で尻尾を振っている。
「感謝する。」
カンレツと名乗る男の子と、キヤリキと呼ばれていた男の子がペコリと頭を下げてくる。
「寒。
それ、出発前に回収するから、飽きたら、そのままにしておいてね。」
嫁が、そう言いながら、立ち上がると、ムンナちゃんの肩をポンポンと叩く。
「家に戻ったら、ブランコと滑り台とやらについて教えてくれ。」
「了解。」
嫁は、ワクワクした顔をしながら話すムンナちゃんの頭をポンポンと軽く叩きながら返答を返す。
思いつきで言っただけだけど……
責任重大だな。
まぁ……【異空間加工倉庫】の情報に誤りがないのならば、材料込みで滑り台の方は作る事が出来るらしい。
「滑り台だけでも作っとくか。」
僕は、誰に話す訳でもなく呟いた。
ムンナちゃんもだけど……
なんやかんや言いながら、ガッツリ期待していそうな感じの嫁を、ガッカリさせたくはないからね。
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