【サイドストーリー】救難信号(後編)
『いやぁ……世の中は広い。
化物クラスの同世代が居るなんて……想像すらしたことなかったわ。』
念話で話す、副リーダーのホンミの声が頭の中に響き渡る。
『シルバーウルフのオギンとギンマルがビビってましたものね。
あの方達が、ウミシシ様やハウシ様とかと同格。ってのは嘘ではないのかもしれないですわね。』
ホンミの双子の姉で、俺達、ホンイ団のリーダーのホンイが念話で返答を返す。
ホンイ団のメンバーは、
若くして【物情を繋ぐ者】のジョブ補正を受けている将来有望な貿易商人のホンイと、
【使役師】のジョブ補正を受け、銀狼貿易商会の一族の中で【使役師】のジョブ補正を受けた者が代々、引き継ぐという、銀狼と呼ばれる魔狼の上位種のモンスターを使役するホンミと、
何度もネギハタ高原国軍から何度も勧誘を受けている、人族と熊系の獣人のハーフで、【武聖】のジョブ補正を受けているキヤリキと、
シルバーウルフのオギンとギンマル。それと……
【戦闘工兵】のジョブ補正を受けている俺。カンレツだ。
因みに、ホンミとホンイのドライバーとしての腕は、ホンミがC~Bランク相当で、ホンイがBクラス~Aクラス相当だと教官が言っていた。
そして、ネギハタ高原国から兵士として何度も勧誘を受けているキヤリキの戦闘力は10年に1度の天才と言われるレベルらしい。
それに対して俺は……
教官達が言うには、物作りへの理解度が上がれば、受けているジョブ補正が【匠の職人】にランクアップする可能性が高いとは言われているものの……
俺だけが天才ではなく、秀才だと思い、勝手に劣等感を募らせていた。
ただ……今ならばホンミの言っていた、
受けているジョブ補正の優劣は、あくまでも指標。と言う言葉だけでなく、
アタシ達は等しく、凡人に毛が生えたような者。と言う言葉にも納得が出来た。
確かに、ウミシシ様達や、ヤドカリ商会の連中からすれば等しくモブだわ。
訓練所に入る前から、2年もの間、銀狼貿易商会の見習いに混じって実務経験を積んでいたというホンミは、こういう化物を何人も?何人か?兎に角……こういう化物を既に見た事があったのだろうな。
訓練所を卒業したら銀狼貿易商会への入社が内定しているという事で、ホンミやホンイ。キヤリキほどじゃないにしても、モブ平民から、エリート平民に成り上がれた。なんて……天狗になってる場合じゃねぇな。
「おっ。
良い顔するようになったじゃん。」
トラックを運転するホンミが、念話を使わずに助手席に座る俺に話しかけてくる。
「前を見ろ。前を。」
「心配するな。
視界の端にあんたを捉えてるだけよ。」
ホンミがケラケラと笑いながら、俺に返答を返す。
「動ける錬金術師は、それだけで貴重な存在なんだ。
なんたって【人外地】に居ながら、武器や乗り物のメンテが出来るからね。」
「何が言いたい?」
「姉さん(ホンイ)やキヤリキに気後れして劣等感に苛まれるな。って事さ。
あんたは、あんたで凄いんだ。
アタシの……その……婚約者になれるぐらいにね。」
ホンミが笑顔で、恐ろしい事をサラリと話す。
ホンイとキヤリキが、そういう関係になった事もあり、俺とホンミの仲は急速に縮まった気はしていたが……
ホンミも俺と同じく姓を持たない平民ではあるが……
下手な貴族よりも、権力も財力も武力も上の銀狼貿易商会の会長のお嬢様のホンミと、
生粋のド平民の俺とでは、本来、タメ口で話す事すら不敬と言われかねないぐらい身分が違う。
同じ、ド平民でも……エリート?いや……
モブの最上位以上には成れるであろうキヤリキが、ホンイとの婚約を認められたのとは訳が違うぞ。
「そう。難しく考えるな。
あんたが、アタシのスキンシップで、オッ立ててるのを知っている。
そして……そんなあんたを見て、アタシは密かに濡らしてる。
それ以上……何が必要?」
「俺も……俺の実家も問題ねぇが……」
「はぁ……
ウチの親が、そうなる可能性も込みで、訓練中だけの前提とはいえ、若い男の子とパーティーを組む事を許可したのよ。」
ホンミが、そう言うと、ケラケラと笑う。
「でっ。
アタシの事が……欲しいの? 欲しくないの?」
ホンミがドキッとするような妖艶な笑みを浮かべながら質問をしてくる。
「欲しいです。」
「ならば生涯、堪能させてやろう。」
ホンミは、そう言うと何時もの表情に戻り、ケラケラと笑っている。
本当……ズルいだろ。
人生とは、何が起こるか分からない。
そして……俺は世間知らずだという事を改めて思い知らされた。
恐怖。挫折。幸福。欲望。色んな感情が爆発した濃密な今を、生涯、忘れる事は無いだろう。
ただ、今は……幸福に浸るのは止め、欲望を捨て、生き残る事に専念しよう。
折角、ホンミとの関係が進展したんだ。
ホンミへの欲望を果たせぬまま人生が終わるとか……あり得ないからな。
ーーーーーー
『キュチョロウ君。
悔し涙を流してる暇なんてないぞ。
君はドライバー 兼 薬師なんだろ?
そんな暇があるのならば……
ミイサの運転を目を皿のようにして観察しとけ。
フハコタ。
リーダー 兼 ドライバー 兼 事務だという、イココちゃんの様子は、どんな感じだ?』
キトナガエ帝国軍ミンボンの大湖の守備隊の第2伝令部隊の隊長さんだという、
俺達の乗るピックアップトラックの前を走っている、キュチョロウが運転していたピックアップ トラックに乗ってくれているクタゴタさんの声が頭の中に響き渡る。
『うら若き美人さんに熱視線で見つめられて、テンション爆上がりっすよ。』
『これこれ、フハコタ君。
その娘さんは、勉強熱心なだけでしょうが。
誤解を招くような事を言うんじゃないわよ。』
俺達の乗るピックアップ トラックを運転してくれている、フハコタさんの念話での返答に、
俺達の乗るピックアップトラックで、索敵についてのレクチャーをしてくれているコトユエさんが、素早いツッコミを入れる。
『コトユエ。
そっちは頼むぞ。
こちとら、【魔術師】のトンタカ君への索敵などといったサポーターとしてのレクチャーと、
クールビューティーのミイサがキュチョロウ君に、上手く教えられるようにサポートするので、
正直なところ、アップ・アップなんだ。』
『クールビューティー。って……
ミイサちゃんは、ただのコミュ障でしょうが。
けど、まぁ……索敵のレクチャーだけでなく、
女誑しのフハコタ君が、イココちゃんやナツムちゃんにイラン事をしないように見張ってもおきますので、ご安心下さいな。』
『おう。
宜しく頼むぞ。』
クダコタさんのホッとしたような声が頭の中に響く。
◇◇◇
「フハコタさん。
先刻からスポーツモードにせずに、Dレンジに入れっぱなしにされていますが、何故ですか?
スポーツモードの方が自分の意思でシフトをチェンジする分、車の運動性能を引き出せると思うのですが……」
「俺が思うに、
運び屋としての腕前がBランク相当以上ならば、スポーツモードにした方が、車の運動性能を引き出せるだけでなく、燃費の向上も見込めるとは思うっす。
だけど……
それ以下の奴の場合、ハンドル捌きとアクセルとブレーキの操作だけに集中した方が、車の運動性能を引き出せるっす。
確かに、俺レベルになれば、スポーツモードにした方が、この車の運動性能をより引き出せるとは思うっすよ。
だけど……
それをしたら、現時点でのイココちゃんが夜間移動をする為の手本にはならないっす。
だから、コトユエの姉御から本気を出せ。って命令が下るまでの間は、
スポーツモードにはせず、Dレンジに入れっぱなしで、この車を走らせながら、イココちゃんの手本になり続けるつもりっすよ。」
「そうだったのですか。
勉強させて貰います。」
イココが真剣な顔をしながら頷いている。
「コトユエさんは、アタシと同じ、狼系の獣人で【無能者】なのですよね?
【無能者】ならではの索敵のコツとかがあるのでしょうか?」
狼系の獣人で【無能者】のナツムが興味津々な顔で質問をする。
「目や耳や鼻だけに頼らずに、索敵の魔術も併用して使う事だね。」
「索敵の魔術ですか……
マナが少ないので、覚える気も無かったのですが……
必要なのでしょうか?」
「マナの少なさを補う方法は、回復薬を飲む。と思われがちだけど……
ギルドの営業所とかで、二束三文で売られている屑魔石を握りしめておくだけでも、ある程度は、補えるんだよ。
特に窓を閉めきった状態のピックアップトラックの中とかだと、耳や鼻は、あまり役に立たない。
だからこそ、屑魔石を握りしめながら、索敵の魔術を展開するノウハウを身につければ、索敵の能力が大幅にアップするのよ。」
「有り難うございます。
系統は違いますが、同じ獣人のキンバカと、ギルドの訓練所に戻ったら訓練します。」
ナツムが、チラリと俺を見た後、コトユエさんに頭を下げる。
教官が下した判断は、
ホンイ団はCランクの貿易商会に認定する為の飛び級試験を、
Bランクへの飛び級試験に変更した上で、飛び級試験が続行され、
俺達、イココ団は、Dランクの冒険者のパーティーとして認定される為の試験を優先的に受けられるという条件付きではあるものの……
飛び級試験は中止され、FランクからEランクへステップアップという事で確定された。
そして……
ヤドカリ商会という、同年代の連中は、グンフ様達の調査団と同格として扱われている。
ふざけんな。って、腹が立ってしかたがなかったが……
不貞腐れてる場合ではないと思い直した。
この森の今の状況は……
俺達の試験が始まった時には、教官達ですら想定していなかった程、最悪な状況らしい。
ただ、そんな状ではあるが、
教官達よりも格上となる、キトナガエ帝国軍ミンボンの大湖の守備隊の第2伝令部隊の方々に直接、指導を受けながら、
更に彼等よりも格上となる、グンフ様達の調査団に同行させて貰っている。
この状況は……
ある意味、ギルドの訓練所以上の学びの場である。
こんな贅沢な時間を無駄にする訳にはいかないな。
俺も、イココやナツムを見習って、
臨時の教官になってくれている、コトユエさんとフハコタさんに食らいついていくとしよう。
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