救難信号(前編)
「寒。」
「おはよ。」
僕に掛け布団と毛布を掛け直しながら嫁が話しかけてくる。
窓の外を見ると漆黒の闇に包まれていた。
「今、何時?」
「後、10分で0時よ。」
「結構、寝てたみたいだね。」
「うん。そうね。
因みに、わたしは1時間前に起きたぞ。」
何故か、嫁がドヤ顔で僕を見ている。
お昼にあまり寝れていなかった僕と嫁は、何度目かのトイレ休憩の時にダイネットをベッドモードにして仮眠を取る事にしたのだ。
「状況は?」
「トラブルは無いらしい。
それと……
念話までは分からないらしいけど、
盗聴してる会話を聞く限りでは、ウミシシさん達は雑談しかしてない。ってレイヒちゃんが言ってた。
そうそう。
先刻、ナシアタ君がキャンピングカーに給油をしてくれてるから朝まで走れると思うわ。」
嫁が笑顔で僕の質問に答えてくれる。
「取り敢えず、一安心だね。」
「うん。
インストール系の携帯電話のゲームが使えて良かったよ。
ムンナちゃんも寝ちゃってるし……
正直な話、暇で暇でたまらなかったの。」
僕の言葉を聞いた嫁がヒソヒソ声で話す。
「それは申し訳なかったね。
てか……今晩も、めちゃくちゃ寒いね。」
「だよね……」
嫁が苦笑いしながら頷く。
「今のところ、わたし達の一番の敵は寒さだね。
エアコン等の暖房機器が無い中で移動しているウミシシさん達をマジで尊敬するわ。」
「言えてる。」
僕は嫁の言葉に深く頷いた。
◇◇◇
『おっ。兄さんも起きてきはったか。
姉さんの言わはるように寒さ以外、特に問題あらへんよ。』
「それは良かった。
ワンゾウとシャアーコも大丈夫そう?」
『ワンゾウは既に夢の中にゃ。
アタイはワンゾウの巣に避難してるからヌクヌクにゃ。』
僕とレイヒちゃんの会話にシャーコが加わってくる。
『幽霊の数がだいぶ減った気がするな。』
『瘴気を垂れ流してはる湖から、だいぶ離れたからやろな。
【空の目】の映像には、幽霊の代わりにモンスターや動物とかが映るようになってきはてる。
せやから、油断は禁物やで。』
『おう。
気合いを入れ直すわ。』
レイヒちゃんの話を聞いたナシアタ君の真剣な声が携帯電話から聞こえてくる。
キトナガエ帝国の方向程、高確率ではないにしろ、この森の何処でモンスター氾濫が起きてもおかしくはないらしい。
レイヒちゃんの言うように、まだまだ、油断は禁物だ。
一瞬の油断で文字通り、命を無くす。
今、僕達が居る【人外地】と呼ばれている場所とは、そういう場所らしいからね。
◇◇◇
『ネクです。
モンスター達が殺気だっている気がします。
ですから、何時、モンスター達が襲って来ても良いように、戦闘態勢を維持して下さい。』
カーゴトレーラーに移ったハウシさんの代わりに先導チームのリーダーに昇格したネクさんの緊張した声が頭の中に響き渡る。
『こちらハウシ。
ウミシシ様は昼間の番に加わわれる事になったので、お休みになられた。
それと……運航部隊のリーダーはフミナリを指名した。
皆、そのつもりで頼むよ。』
『了解。』×2
フミナリさんとレイヒちゃんが代表して、ハウシさんに念話で返答を返す。
『早めに銃を手に入れたいところだよな……』
ナシアタ君の声が携帯電話から聞こえてくる。
『せやな。』
ナシアタ君の言葉にレイヒちゃんが頷く。
「問題は……お金をどう工面するかだよね……」
嫁がタメ息をつきながら話す。
「【空の目】の映像を見ながら、
木材だけでなく、燃料や泥パックの素材とかになる泥炭とか、薬草とか、野草とか、キノコとか、通り道の近くで売れそうな物が見つけたら、【異空間加工倉庫】に、ちょこちょこ、ストックしてる。
ウミシシさん達と別れたら、ギルドに素材として売るか、高く売れそうな物に加工して売るかは別として……
銃は無理でも、銃を作る為に必要な材料を揃えて、【異空間加工倉庫】で銃を作る事は出来ると思うよ。」
『兄さん。ナイスや。』
レイヒちゃんの弾んだ声が携帯電話から聞こえてくる。
『だな。
エンクルさん。銃の材料が売ってる町まで運びますので、銃の作製、宜しく頼みますね。』
「了解。任せて。」
僕はナシアタ君に短い返答を返す。
■■■
【パァァーン】・【パァァーン】・【パァァーン】
「花火大会?」
時刻は2時。
嫁が小首を傾げながら、窓の外を見ている。
『こちらネク。
救難信号を確認しました。
我々、先導車は状況を確認しに行きます。
2号車とヤドカリ商会の皆さんは、この場で待機していて下さい。
ハウシ様。
後の事は任せます。
待機中に危険を感じられたら、我々を気にせずに移動を再開させて下さい。』
『あいよ。』
ネクさんの指示にハウシ様が頷くと、キャンピングカーのスピードが徐々に落ち始めた。
『ウミシシだ。
グンミ。迎えに行くから降りる準備をしとけ。』
『何故ですか?』
ウミシシさんの指示にグンミちゃんが不思議そうな声で質問をする。
『戦闘が出来る者を1人でも多く確保したい。
だから、クタゴタ達、キトナガエ帝国軍ミンボンの大湖の守備隊の第2伝令部隊の4名と、我々への敵対行為を行わない旨を、契約の魔術を使って契約を結んで欲しいんだ。
そうすれば、彼達に掛けている【魔力封じの手錠】を外し、戦力アップを図る事が出来る。』
『了解。
でっ。タカシュンレイ・コンファンは、どうなされますの?』
ウミシシさんの指示にグンミちゃんが頷いた後、
タカシュンレイ・コンファンの処遇について質問をする。
『クタゴタ達が言うには、
彼女は、知能も運動神経も一般的な【無能者】以下。てか……【無能者】の中でも落ちこぼれと呼ばれるレベルらしい。
だから、イラん事をしないよう、【魔力封じの手錠】と猿轡だけでなく、寧ろ足枷も嵌めておきたいぐらいだわ。』
『分かりました。
では、お迎えを、お待ちしておりますわ。』
『ぷふ。
お迎え。って……すぐそこじゃね?』
ウミシシさんとグンミちゃんの会話にハウシさんが加わる。
『ハウシ姉様は、お強いから、そんな事を言えますのよ。
私やフヤにとっては……
夜の【人外地】で、乗り物やテントの外に出る。っていう行為は、それだけで大冒険ですのよ。』
『そりゃ。悪かった。』
グンミちゃんからの抗議を受けたハウシさんが、笑い声ではあるものの素直に謝っている。
◇◇◇
『ネクです。
この先の広場で魔狼の群れをギルドのネギハタ高原国 西都 営業所の訓練生達を襲おうとしてます。
援護に入りますので、皆さんも、この先の広場に来て下さい。』
『了解。』×3
ハウシさん。グンフさん。レイヒちゃん。が念話で返答を返す。
そして、キャンピングカーがゆっくりと動き出す。
【パァァーン】・【パァァーン】・【パァァーン】
少し離れた場所から色の違う花火のような物が上がる。
【パァァーン】・【パァァーン】・【パァァーン】
僕達の直ぐ側でもの違う花火のような物が上がる。
『魔狼どもに殺気をぶつけて追い払ってやるにゃ。』
携帯電話からシャーコの声が聞こえてくる。
『こちらネク。
我々に気がついたのか魔狼達が逃げ始めました。
本格的な援護に入る前に逃げ出すとか……群れのボスはかなり頭の良い奴だと思われます。
これから、広場で訓練生を率いてる教官と話をしますが……
不用意に乗り物から降りず、
また、周囲の警戒も怠らないよう、お願いします。』
『了解。』×3
ハウシさん。グンフさん。レイヒちゃん。が念話で返答を返す。
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