一抹の不安
「主達の世界の食い物にハズレは無いのう。」
ムンナちゃんが、そう言いながら、肉まんを頬張っている。
時刻は14時。
僕達は早めの夕食に入ったところだ。
今日のご飯は肉まんと、ピザまんと、あんまんを各1個づつだ。
昼夜が逆転している僕達にとっては朝ごはんのような感覚だ。
なので、ガッツリした物ではなく、食べやすくて腹持ちの良いメニューにしたのだ。
隣のマルチルームではワンゾウとシャーコには、嫁と一緒に、
トイレとして使用しているクレートのペットシートを変えたり、ご飯を与えてたりしている。
2匹は各々の餌皿にドッグフードやキャットフードを入れたとたんに、ガツガツと食べ始めたので、
2匹も僕達の世界の食べ物を気に入ってくれているようだ。
「気に入ってくれたようで良かった。」
嫁が、ムンナちゃんを見ながら、目を細めている。
■■■
『出るよ。』
時刻は15時。
ハウシさんの念話が頭の中に響き渡ると同時に、キャンピングカーがゆっくりと動き始めた。
先頭を走るのはスナギさんが運転するダブルキャブのピックアップトラックだ。
助手席に座るフミナリさんと、2列目に座るハウシとネクさんがサポートしながら先導をしてくれている。
その後ろをコロツラさんが運転手する、全長が約9メートルの巨大なダブルキャブのトラックが続く。
助手席に座るグンフさんと、2列目に座るグンミちゃんがサポートに入り、
同じく2列目に座るウミシシさんが全体の指揮を取る。
それと、グンミちゃんやウミシシさんと同じく、2列目に座っている、ツネさんとフヤちゃんは、朝~昼の仕事に備えて座ったまま仮眠を取っているらしい。
そして、最後尾が、僕達のキャンピングカーとなる。
昨日、会ったばかりだというのに、そんな気が全くしない。
僕にとって、それだけ、濃密な時間だったのだろう。
まぁ……それは……
一昨日、会ったばかりのレイヒちゃん。ナシアタ君。ムンナちゃん。ワンゾウ。シャーコにも言える事でもある。
レイヒちゃん曰く。この世界の文明の水準は、
魔法や魔術。呪術など技術を除けば、日本の感覚で言えば、
近世(江戸時代 )から、近代 (明治・大正・昭和前半)の初頭。下手すれば中世(鎌倉時代・室町時代)レベルの部分もある身分制の社会で、
特に平民の命なんて、羽のように軽い世界らしい。
元の世界でも、自分なりに頑張っていたつもりではあるが……
常に命の危険と隣り合わせの、この世界とは比べ物にならないぐらい、平和な国で温々(ぬくぬく)と過ごしていた僕にとって、
この2日間は……人生で一番、濃い2日間だという事も事実だ。
人間には適応力があるというから、そのうち、この環境にもなれるのだろう。
だけど……そうなった時、僕達は、
この世界で得たチートな能力を手土産に、元の世界に戻った後、
平和な世界の感覚や価値観に順応する事が出来なくなっていたらどうしよう?って、少しだけ不安を覚えてしまう自分がいる。
◇◇◇
『姉さんが展開してくれた、俺の実家を再現した【異空間ハウス】からガソリンを持ってくる時に、ついでにサングラスも持って来て正解だったわ。』
ナシアタ君の得意気な声が携帯電話から聞こえてくる。
『せやな。
ナシアタが、1個だけやのうて、ご実家を再現しはった【異空間ハウス】から、サングラスを有るだけ、持ってきてくれはったんで助かったわ。
兄さんも、ナシアタが持ってきてくれはったサングラスを【異空間加工倉庫】を使って、ウチ達にピッタリ合うサイズに加工してくれはって有難うな。』
ヨロズコちゃんの嬉しそうな声も携帯電話から聞こえてくる。
「日中は雪が日の光を反射のせいで、目が痒くなったり痛くなったりする事があるからのう……
マナも使わずに目を守ってくれる道具とは、恐れ入った。
主達の世界には、妾の知らぬ便利な物で溢れておるようじゃな。」
ムンナちゃんが、尊敬の眼差しで、僕と嫁を見る。
「わたし達の世界を褒めてくれるのは嬉しいけど……
わたし達は、この世界風に言えば、ド平民。
だから、その……
ムンナちゃん。わたしやパパを尊敬の眼差しで見るのは止めて。
罪悪感を感じるわ。」
嫁が苦笑いしながら話す。
『確かに。
ウチ達が凄い訳やないもんな。』
『言えてる。』
嫁の話を聞いたレイヒちゃんとナシアタ君が、大笑いしている。
「いつか……主達の世界に行ってみたいのう……」
「この世界が開いた世界になって、わたし達が、元の世界に戻れる事になったら、着いてきても良いし、
この世界に残るのなら、何時でも遊びに来れば良いじゃん。」
『せやせや。
遊びに来はるんは、何時でも、大歓迎やで。
何泊でも止まっていったら良えよ。』
ムンナちゃんの話を聞いた嫁とレイヒちゃんが笑いながら話す。
今のところ、2人とも、この世界に残るつもりはないらしい。
まぁ……僕も……
元の世界に戻りたい派だから問題は無いか。
『ナシアタは、誘ったらんの?』
『俺達の世界で、大人の男だけで、戸籍上、何の関係も無い幼女を連れ回すんは、色々と不味いだろ。
勿論、俺だってムンナちゃんが、俺達の世界に来るのは大歓迎だ。
だから、そうなった時は、
俺も姉さんの家や、レイヒの家に遊びに行かせて貰うから連絡をくれ。』
ナシアタ君の苦笑いしながら話す声が携帯電話から聞こえてくる。
■■■
『止まるよ。』
走り出してから1時間ぐらいが経過したところで、ハウシさんが念話を使って行軍を止めた。
『どうした?』
ウミシシさんのドスの効いた声が頭の中に響き渡る。
『この先の広場で、
雑食道造り飛蝗喰い鳥の繁殖地である、この森の中心部の大湖の小島にニンムシュが勝手に建てた祠の見張り番であるキトナガエ帝国軍 ミンボンの大湖の守備隊の旗を掲げた一団が、救援を求める旗を振ってますの。
ここは小高い丘で、あいつ達を見下ろせる場所になるから……無視する訳にもいかない。
でっ。皆に、どうするかを相談しようと、ハウシに行軍をストップするように指示を出して貰ったのです。』
フミナリさんの声が頭の中に響き渡る。
『変に恨みを買って、雑食道造り飛蝗喰い鳥に何かされたら……キトナガエ帝国の西側が雑食道造り飛蝗の猛威に晒されかねない。
それは……キトナガエ帝国の西側の一部の領主達を除いて、関係性が冷え込んでいるネギハタ高原国にとっては困る事です。
それに……ヤドカリ商会とフヤを除く、ここに居る者達は皆、
ネギハタ高原国と良好な関係を保てている、キトナガエ帝国の西側の一部の領主達の親族や関係者でもあります。
そういう意味でも……彼等を無下にする訳にはいけないです。
とはいえ……雑食道造り飛蝗喰い鳥の保護の為に、永らく禁足地とされていた、あの場所に祠を建設したニンムシュと、彼女の言いなりとなったキトナガエ帝国政府は、我々にとって許せるような相手ではありません。
勿論、大湖の畔で、あの小島を監視しているキトナガエ帝国軍 ミンボンの大湖の守備隊の方々は、
ただ、キトナガエ帝国軍から命令された職務についているだけの人達だという事も分かってます。
ですが、その……我々にとっては難しい話ですよね。』
コラツラさんの声が頭の中に響き渡る。
『取りあえず、私情を抜きにして、
出来る支援は行う。という【人外地】の暗黙のルールに従って行動するしかないと思いますわ。
ウミシシや、お姉様が難しいのならば……
人見知りの激しい兄に代わって、私がファースト コンタクトを念話で取る。という大役を果たさせて貰いますわよ。』
グンミちゃんの声が頭の中に響き渡る。
『頼む。そうしてくれ。
頭に血が上って、イラん事を言ってしまったら……
その失言を突いて、ギルドに大金を積み、
【審議判定の魔道具】を用いた公開裁判でも起こされた日にゃあ……面倒な事になるからな。』
ウミシシさんの声が頭の中に響き渡る。
『オッケー。出すよ。』
ハウシさんの念話が頭の中に響き渡ると同時に、キャンピングカーがゆっくりと動き始めた。
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