【サイドストーリー】幸せの予感 / 転落の始まり
「やばぁぁぁい!
寝過ごしたぁぁぁ!」
「何を寝ぼけた事を言っておりますの?
私が起こすまで寝てて良いと言ったでしょうに。」
グンミ殿下がキツイ言葉とは裏腹に、
大笑いされながら、アタシの肩をバシバシと叩いて来られる。
そうだった。そうだった。
アタシは、今……グンミ殿下達とともに人外地に居るのだった。
「寒。」
「寝ぼけて毛布を剥ぐからよ。」
グンミ殿下が大笑いされながら、アタシの肩をバシバシと叩き続けられる。
「全く、貴女という人は……
そそっかしいのにも程がある。
風邪を引いてしまったら、しんどいのは貴女なのですよ。」
「もっ。もっ。申し訳ございません。」
ツネ様が、溜息をつかれながら、アタシに毛布を掛けて下さる。
「はぁ……
グンミ殿下への対応とは、ほど遠いですね。」
「なんたって、フヤは私の初め作った自前の妹分ですから。」
グンミ殿下がドヤ顔をされながら、ツネ様に、ご返答を返される。
グンミ殿下から妹分と呼ばれると、
擽ったいような、嬉しいような、そして……強縮してしまうような不思議な気持ちになる。
もしも、身分の差がなければ……
たとえ、身分の差があったとしても、ここまでの差でなければ……
アタシも彼女の事を堂々と胸を張って、お姉様とでも呼ぶんだろうな。
いかんいかん。
彼女は皇女殿下。雲の上のお方だ。
たとえ、アタシ達、平民から熱狂的な支持を集められていたとしても、敬うべき存在であり、
気軽に、お姉様なんて呼んで良いような、お方ではない。
だけど……この旅を通して、その畏敬の念が、前よりも、もっと和らいだ気がする。
この森。というよりも……
人外地では、身分の差なんてものは関係無い。と仰られていたウミシシ様のお言葉の意味を、昨晩の恐怖体験で、改めて思い知った。
てか……良く、そんな中で熟睡してたな。
疲れとは……本当、恐ろしいものだわ。
◇◇◇
『こちらスナギ。
休憩をする予定の広場が見えて来たわ。』
スナギ様の念話が頭の中に響き渡る。
腕時計を見ると、長針が8時を指そうとしていた。
『了解した。
予定通り、不測の事態が起こらない限りは、
飯を14時から食い、15時過ぎから再び移動を開始する。』
『了解や。』
ウミシシ様の念話でのご指示に、ヤドカリ商会のレイヒちゃんが返答を返す。
『ツネとフヤ以外は、広場に着いたら携帯食を食べて寝ろ。
雪が止みそうにないから、昼飯は乾麺入りのスープとする。
フヤ。14時から乾麺入りのスープが飲めるように準備をしておいてくれ。
ツネ。14時までに俺達の乗り物の給油を済ませおいてくれ。』
『畏まりました。』
ウミシシ様のご指示に、
今度はツネ様が返答を返される。
「今日の、ご飯も楽しみにしておりますわよ。」
グンミ殿下は、涎を垂らしそうなお顔でアタシに話しかけてくる。
アタシが皆様のお役に立てる事は少ない。
そう。昨晩の危機的な状況の時も、アタシは何の役にも立てていない。
だからこそ、アタシは、
出来る事だけでも、何時も以上に、しっかりとやらなければならない。と意気込んでいたが……
普段と変わらない、グンミ様のお顔を見ると、そんな気負いが良い意味で吹き飛んだ。
難しく考えずに、取り敢えず、何時も通りやろう。
どうあがいても、アタシには、それ以上の事は出来ないのだから。
「畏まりました。」
「ようやく。
この調査団に召集される前の表情に戻りましたね。」
グンミ殿下に返答を返した直後に、ツネ様の笑う声が背中から聞こえてきた。
確かに、アタシは料理ぐらいしか出来ない。
だけど……アタシは、アタシなりに頑張ってるのだ。
なのに……嫌味を言ってくるとか酷いんじゃな……
【ドキッ・ドキッ・ドキッ】
ツネ様を睨みつけてやろうと思って振り返ったアタシの心臓の鼓動が早くなる。
だって……
世間では、氷の貴公子などと呼ばれているいるツネ様に、優しい笑みなんて浮かべながら見つめられてしまったら……
思わず、勘違いしそうになっちゃうじゃない。
ーーーーーー
「はぁ……
貴方はバカですか?」
チョニチ傭兵団のリーダーのキュドンが、ズグダニ様の事を汚物でも見るような目で見ている。
「何故、私が馬鹿にされるのだ!
私は……貴方達がグンフ殿下達を殺してくれたら、
グンヨ殿下から、少なくとも、ネギハタ高原国からは恩赦を与えられるように便宜を図って貰えると言ってるのだぞ!
泣いて感謝される事があっても、馬鹿にされる謂われなどないわ!」
「兄者さぁ……
グンヨ殿下のご許可も得ずに勝手に褒美の話をしても……流石に彼等の信を得られないと思うぞ。
彼等の信を得たければ、
グンフ殿下達を殺害してくれた暁には、チョカ家が総力を上げて彼等の身の安全と衣食住を保障する。という契約を交わすぐらいの事をしないといけないんじゃねぇか。」
ビキアラ様が溜息をつかれながら、諭すように話される。
「2人とも不合格にゃ。」
【スパッ】・【ゴロン】
【スパッ】・【ゴロン】
ウツメが2振りの小太刀を振るい、ズクダニ様とビキアラ様の首を刎ねた。
ジョブ補正の接続を切られているとはいえ……
全く、反応が出来なかった。
この腕前で、戦闘系のジョブ補正ではなく、商人系の【物情を繋ぐ者】のジョブ補正を受けているとか……
やっぱり、亜人や亜人混じりは嫌いだ。
奴等の身体能力は、私が血反吐を吐きながら研鑽を積んできた努力を簡単に凌駕しやがる。
「あらまぁ……
私の性欲と物欲を満たしてくれる、エッチなお財布がなくなってしまいましたわ。
これは……困りましたわ。」
ビンショが溜息をつきながらビキアラ様の死体を一瞥した後、キュドンに下卑た笑みを浮かべながら話かける。
彼女を知る、多くの人達は、彼女が泣き叫びながらビキアラ様に縋りつくイメージだろうが……
これが彼女の本性だ。
「お前は群れに不和を呼ぶ寄生虫みたいだな。
虫酸が走る。」
【ドスン・ドスン・ドスン・ドスン】
「ギャァァァー。」
スジノウが魔力弾のショットガンのバットプレートの部分を戦鎚の鎚の部分のような感じで使用して、ビンショの手足を叩き潰す。
「はぁ……
皆さん。血の気が多すぎますよ。」
キュドンが、そう言いながら、
クズダニ様とビキアラ様の死体に聖水をかけている。
「何にをしてるにゃ。
死霊系モンスターにさせたくにゃいのであれば、死体に火をかけたら終わりにゃろ。
聖水は高級品にゃ。勿体にゃい事をするにゃ。」
ウツメがキュドンを睨む。
「各国の軍やギルドの精鋭が、この騒動が落ち着けば、ここら一帯の被害の調査に入る筈です。
でっ。そうなれば……ここも見つかる筈です。
だから……こいつ達は、死霊系モンスターになって貰い、持ち出せなかった宝を守る守り人的な存在になって貰んです。
まぁ……ここに戻って来れそうにない、僕達が、その恩恵に預かれる訳でもないし、
こいつ達は雑魚だから守り人的な仕事を果たせはしないでしょうけど……
何れ、ここに来る奴達に嫌がらせの1つぐらいは残しておいてやりたいじゃないですか。」
キュドンがニヤリと笑いながら、ウツメに自分の行動の意図を話す。
「でっ。エハさん。
君は……【賢者】のジョブ補正を受けているにも関わらず、人族の【無能者】の戦士並みに動ける身体をしてるますね。
何故、君が動ける【賢者】を目指したのかは分からないですけど……ここで殺すのは惜しい人です。
スジノウの性奴隷になるのならば仲間に加えてやっても良いですよ。
勿論、断るのは自由です。
だけど、その場合……
殺して下さい。と、何度も、何度も、何度も、何度も、叫ばしてあげますので、そのつもりで。」
キュドンが、氷りのような冷たい目で微笑みながら、私に問いかけてくる。
「スジノウ様の性奴隷となり、
チョニチ傭兵団の末席に加えて下さい。」
私は、そう言うと、キュドンに土下座をした。
「宜しい。
ただ、歓迎会は申し訳ないが今はしてやれない。
契約魔法を使って、君をスジノウの性奴隷にしたら、僕達は旅立たないといけないからね。」
時刻は3時。
ズグニダを虜にして、下級貴族から上級貴族にステップアップする事を目論んでいた私は……
一夜にして犯罪者の性奴隷となってしまった。
「でっ。この女は、どうするにゃ?」
ウツメが汚物を見るような目でビンショを見ている。
「ミンボン連邦の闇オークションに売ります。
彼女はネギハタ高原国のグンヨ殿下のご乱心を知る貴重な人材です。
それに……
グンヨ殿下が、ニンムシュ様を崇拝なされている事や、
グンフ殿下の奥方様やグンミ殿下の婿様のご実家は、キトナガエ帝国で反ニンムシュ様派だという疑惑が持たれている名家。
きっと……様々な思惑で彼女を欲する人は沢山、居るでしょう。
つまり、ミンボン連邦の闇オークションの連中が、表に出れない我々の足元を見た金額でしか買い取って貰えないにしても、
元々の金額が高くなろうであろう彼女を、ミンボン連邦の闇オークションに売れば、それなりの大金を得られる。って事です。」
キュドンが、そう言いながら、
ビンショをニヤニヤした顔で見ている。
まぁ……悪名高いチョニチ傭兵団に捕まって、奴隷落ちするだけで済んだ私は、ある意味、運が良かったのかもしれない。
彼女の未来を想像すると……
負け惜しみではなく、本気で、そう思えてくる。
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