【サイドストーリー】分岐点(中編)
「小隊長殿!
やはり固まって行動するのは効率が悪すぎるのではないでしょうか?
それに…店舗何故、ずっと【ギルドの作業道】を北上されているのでしょうか?
薪を探されるのであれば、森の中に分け入った方が宜しいかと思うのですが……」
チョクが不思議そうな顔をしながら質問をしてくる。
小隊の連中とは、最悪の場合、死を偽装して脱走する事になるかもしれない。と言う話はしていたし、
彼等も、その事については納得はしてくれている。
ただ……ズグダニ様にリカカを人質に取られている現状で、逃げてるんだよ。とは言えない。
その現状を打破する為に、俺の従魔からリカカの従魔になる事を了承してくれたクイヨをリカカに預けたのだが……
頼むからクイヨ。
早くリカカと従魔契約をしてくれ。と願うばかりだ。
【集合リス】は人間よりも遥か遠くに居る仲間と念話が出来るだけでなく、家族を召喚しあえる。
彼女達の認識している家族とは、
血を分けた血族や、血族と婚姻をした者。そして……ごく稀にだが自分達の主人を召喚する奴も居る。
俺が、今も従えているルクヨと、リカカに預けたクイヨは姉妹だ。
そして、2匹は、自分達の主人を召喚する希少種だ。
つまり、リカカとクイヨが従魔契約を済ました時点で、リカカをズグダニ様の元から救い出せるのだ。
「坊ちゃま。
まさかとは思いますが……
脱走計画を遂行している訳ではないですよね?
脱走計画に賛成したのは我が小隊、全員で。って話だったからです。
リカカは、現時点では命の危機に陥っておりません。
ですから、リカカを置いて逃げるなど賛成しかねますわよ。」
俺の乳姉弟であり、この隊の副小隊長でもあるセリが、怪訝な顔で俺に意見してくる。
『クイヨちゃんとリカカが従魔契約を結んだわよ。
ズグダニ達は、交尾中らしいから、隙だらけみたい。
呼び寄せちゃう?』
『頼む。』
俺はルクヨの念話に即答する。
『リカカ。クイヨ。シトイ。コシイ。
集合!』
ルクヨは何故か、リカカやクイヨ。実家に預けてきたシトイだけでなく、
あの惨劇の場に見張りとして残していた、コシイまで集合させた。
◇◇◇
「リカカ!
ウマシカ家の若奥様になってくれる決心がついたのね!」
目の前に現れたリカカにセリが抱きつく。
従魔である【集合リス】を介して、他人を召喚する希少種は、
【集合リス】を、代々、使役している俺の家系でも、今代は、俺が使役している4匹だけだ。
ただ、俺は……その事を誰にも喋っていない筈なんだがな。
因みに、リカカだけでなく、ウス。 チョク。ラナは、状況を把握する事が出来ず、ポカ~ンとしている。
「セリ。
俺が希少種のルクヨとクイヨを使ってリカカを召喚した事に良く気がついたな。」
「だてに、ウマシカ家に奉公させて貰ってませんよ。
ですが……坊っちゃまも人が悪いですわ。
もう少し、若奥様の召喚が遅れていたら、乳姉弟の姉として、
若奥様を、お見捨てになろうとしている不出来な弟の心根を正そうと、半殺しにして差し上げるところでしたのよ。」
セリが、大笑いしながら不穏な事を口走る。
【賢者】のジョブ補正を受けているセリが、本気になれば……
【物情を繋ぐ者】のジョブ補正を受けている俺を瞬殺する事など朝飯前だ。
本人は冗談のつもりかもしれないが……
そういうのマジで止めて欲しいわ。
「セリ副小隊長。
これから、あたし達は【祈祷師】のジョブ補正を受けているラナに、名とは別に登録されている姓の登録情報を外して貰い、他国で平民として生きていく予定です。
ですから、その……
確かに、あたしはクサワラのプロポーズを受け入れて、彼の妻となりましたが、若奥様。ってのは、その……
色々と不味くないでしょうか?」
リカカが、顔を真っ赤にしてモジモジしながら、セリに文句を言っている。
「リカカとも合流する事が出来た事ですし、歩きながら話さないっすか。
身体を動かしてないと寒くて凍え死にそうっすよ。」
「ウスさんの言う通りです。
我々の脱走にエハ副官が勘づかれて追いかけて来られたら面倒です。
ですから……ズグダニ様の居られる場所から、少しでも離れるべきです。」
【斥候】のジョブ補正を受けているウスと、【武聖】のジョブ補正を受けているチョクが、先を急ごうと急かしてくる。
◇◇◇
「まぁまぁ。落ち着け。
シトイを実家に預けて来たのは体調不良なんかじゃない。
こいつを持って来て貰う為に置いてきたんだ。」
俺は、そう言いながら、シトイが両手に抱えた、シトイとほぼ同じ大きさの小瓶を拾う。
この小瓶には魔石が埋め込まれていて、3回~4回はマナを消費せずに、大きな物を封印したり、取り出したりする事が出来る優れ物だ。
「『封印解除』」
俺は、皆の前方に予め小瓶に封印しておいたクアッドと、
荷台にアコーデオン式幌を架装したダブルキャブのピックアップトラックと、
水や食糧を満載に積込み、天井にルーフテントを設置したカーゴトレーラーを出す。
「『封印』」
俺はクアッドを、再度、小瓶に封印し直す。
大雪の日に、走行風をもろに受けるクアッドでセリとウスに先導をさせるのは、2人に死ね。と言っているようなものだ。
流石に、そんな命令を出す事は出来ないが、
クアッドでの先導が有るか無いかで行軍の安全性やスピードは大きく変わってくる。
だから、クアッドを、ここで捨てるわけにもいかないので、クアッドを小瓶に封印し直す事にしたのだ。
「運転は俺がする。
リカカは助手席に、ウスとラナは2列目に乗れ。
セリとチョクは荷台だ。
牽いているカーゴトレーラーの事は気にせずに、幌を全て閉じておけ。」
「坊っちゃま。やるぅ♪」
「流石、隊長。
俺。隊長に、一生、ついて行くっす。」
「流石です。隊長。」
「上出来よ。」
セリ。ウス。チョク。ラナが、口々に褒め称えてくれる。
「お前は褒めてくれないのか?」
「妻の身の安全を確保するのは、旦那として当然の事でしょ。
けど、まぁ……よくやった。」
リカカは、そう言いながら、頬にキスをしてくれた。
「ほら。
ボサッとしてないで、さっさと動け。」
リカカにキスされた幸せの余韻に浸っていると、
彼女から軽く蹴りを入れられてしまった。
◇◇◇
『坊っちゃま。
幌は全て閉じました。
何時でも、出して頂いて構いませんよ。』
『了解。』
俺はセリの念話に返答を返すとピックアップトラックのアクセルを踏む。
『でっ。ルクヨ。
何故、コシイまで集合させた?』
『ネギハタ高原国 第2近衛連隊の第20中隊の連中の少数がスケルトンやリッチなどの死霊系のモンスターになり、
その1/3が、悪霊となった第2近衛連隊の第20中隊の連中を引き連れて、アタイ達の居る方へ走りだしたのをコシイが見た。って言ったからよ。』
俺の質問にルクヨが答える。
「チョク君の予想が最悪の形で当たっちまったかぁ……」
「チョクの予想が当たった。って……どういう意味?」
リカカの呟きを聞いたラナが不思議そうな顔で質問をする。
ここに居る連中で、俺以外にルクヨと念話での会話が出来るのはリカカだけだ。
だから、ラナが、リカカの呟きの意味が分からないのは当然だ。
【ブォォォー】・【ブォォォー】・【ブォォォー】
【ブォォォー】・【ブォォォー】・【ブォォォー】
【ゴロゴロゴロ】・【ピカッ】・【ズドォォーン】
【ブォォォー】・【ブォォォー】・【ブォォォー】
【ブォォォー】・【ブォォォー】・【ブォォォー】
【ゴロゴロゴロ】・【ピカッ】・【ズドォォーン】
【ブォォォー】・【ブォォォー】・【ブォォォー】
【ブォォォー】・【ブォォォー】・【ブォォォー】
【ゴロゴロゴロ】・【ピカッ】・【ズドォォーン】
時刻は、もう少しで0時30分になる。
外は吹雪になり、雷も酷くなり始めた。
シトイを召喚し、乗り物を手に入れてなかったら、
たとえ、元仲間(ネギハタ高原国 第2近衛連隊の第20中隊)達の少数が、スケルトンやリッチなどの死霊系のモンスターになり、
その1/3が、悪霊となった者達を率いて、俺達を追って来てるのに気がつけていたとしても……
動くに動けない状況だっただろうな。
『皆、聞いてくれ。
元仲間(ネギハタ高原国 第2近衛連隊の第20中隊)達の少数がスケルトンやリッチなどの死霊系のモンスターになり、 その1/3が、悪霊となった者達を率いて、俺達を追って来てるのを、
元仲間(ネギハタ高原国 第2近衛連隊の第20中隊)達の死体を見張らせていたコシイが確認した。
ただ、だからといって、セリ。チョク。
幌の後ろを開け放つのはギリギリまで待って欲しい。
この寒空の上、俺達は、安全圏まで少人数での移動を強いられる。
だから風邪なんか引かれた日にゃあ……
確実に詰むからな。』
『畏まりました。』・『了解しました。』
セリとチョクが、同時に返答を返してくれる。
まだまだ綱渡りが続く状況にも関わらず、皆、落ち着いたものだ。
不安に駆られていいるのは……
ひょっとして俺だけなんじゃないだろうか。
「なに、時化た顔してんのさ。
皆、自分の意思で、あんたに命を預けてるんだ。
死んでも誰も恨まない。
だから……堂々としときな。」
リカカが、満面の笑みを浮かべながら、サラッと重たい話をする。
後は……俺が皆の期待に応えられれば、万事、OK。つう事かよ。
はぁ……胃が痛くなってきたわ。
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