【サイドストーリー】分岐点(前編)
「全員、止まれ!
我々は、そこの洞窟で野営する!
ウマシカ・クサワラ小隊長!
リ・セリ副小隊長!
セイシャ・ウス!
カド・チョク!
ヨサ・ラナ!
お前達は、薪を集めろ!
メスム・エハ副官!
我が弟。チョカ・ビキアラ副隊長
バッ・ビンショ!
レヤレヤ・リカカ!
お前達は、あの洞窟で、俺と小休止に入る!」
いつの間にか隊列の1番後ろのほうに居られた、
ネギハタ高原国 第2近衛連隊の第20中隊の隊長のズクダニ様が大きな声を上げられる。
「隊長殿!
落ち着かれて下さい!
濃い濃度の瘴気に晒された優秀な戦士の死体はスケルトンなどのモンスターに、
優秀な魔術師の死体はリッチなどのモンスターに変異する可能性が高いと士官学校で習いました!
そして、先刻、我が隊(ネギハタ高原国 第2近衛連隊)の優秀な兵士や魔術師の多くが、その命を散らしました!
つまり、彼等がスケルトンやリッチなどの死霊系のモンスターになる可能性が高いのです!
ただ、幸いな事に死霊系のモンスターは昼間は活動しないとも士官学校で習いました!
ですから、朝まで、この場から少しでも離れる為に走り続ける事こそが、我々が生き残る為の唯一の術だと自分は思います!」
士官学校で若手のホープと言われていたチョク君が、至極、真っ当な意見を話す。
そんな君が、何故、我が隊に(ネギハタ高原国 第2近衛連隊)に配属されたと思う?
たとえ優秀でも……
第1・第2問わず、やんごとなき出自の方が多くおられる近衛には、
若くて生意気で優秀な下級貴族や平民の出の部下なんて欲しくない。っていう、やんごとなき出自の無能な上官が、君が思ってるよりも多いからだよ。
そして、その一人が、今、君が意見しているチョカ・ズクダニ様なんだよ。
そもそも、彼は……
チョカ家の威光がなければ、我が隊の隊長どころか、ネギハタ高原国軍の何処かの部隊で使いっ走りの雑魚として定年を迎えられるような、お方なのだ。
そんな彼が、朝まで武器や装備。荷物などを持って歩き続けるような地獄の行軍に身も心も耐えられる訳がないのだよ。
まぁ、それは……
ビキアラ副隊長の愛人のビンショにも言える事だけどね。
そして、エハ副官は、軍人としても事務官としても優秀な方ではあるが、
金と権力が大好きな彼女が、愛人関係にあるズクダニ様の利にならないような言動を取られるわけがない。
つまりは、君の至極、真っ当な意見は通る訳がないのだよ。
君の実直で裏表の無い素直な性格は、人としては好感が持てる。
だけど……
君を預かる隊の先輩としては、
もう少しだけ、考えてから物を言って欲しいと切に願ってしまうところだよ。
◇◇◇
「索敵魔法で見る限り、あの洞窟の奥は曲がりくねっている上に横幅が狭い!
【錬金術師】のジョブ補正を受けているレヤレヤ・リカカが洞窟の中に壁を作り、
【祓い師】のジョブ補正を受けている私が、その壁に祓いの魔術を付与すれば、
もし、貴様の言うように、我が隊(ネギハタ高原国 第2近衛連隊の第20中隊)の者達が、死霊系モンスターとなって襲って来ようとも、日が昇るまで持ちこたえれる筈だ。
勿論、貴様達、薪を拾いに行く者どもの身の安全も考えている。
何故なら、いくら外からの風が吹き込まないように工夫しようとも、この寒さの中、火を焚かずに夜を明かすのは凍死する恐れがあるからだ。
だから、ウマシカ・クサワラ小隊長が使役している【集合リス】の中の筆談が出来るという奴を我々の元に残して貰う。
そうすれば、外に居る貴様達と連絡が密に取れるようになるだろう。
つまり、貴様達が薪を拾って戻って来たら、洞窟の中に入れるように、レヤレヤ・リカカに洞窟の中に作った壁の一部に穴を開けさせる事が出来るようになるのだ。
とっ。言う事をズグダニ様は仰りたかったのですわよね?」
「その通りだ。
だが……この時間が無い中、生意気な新人君に、えらく懇切丁寧に、俺の考えを伝えたものだな。」
エハ副官の話を聞いたズクダニ様がニヤニヤしながら話される。
絶対、ズグダニ様は、エハ副官の話されたような事を考えてなかった筈だ。
「部下の軽率な発言、お詫びします。
お詫びに、私の命の次に大切な従魔達の内の一匹の、クイヨをリカカに預けさせて頂きます。」
「そうか。
ならば、此度のカド・チョクの無礼を許してやろう。」
クサワラの返答を聞いたズクダニ様がニヤニヤと笑いながら頷かれる。
状況が状況だから仕方がないとはいえ……
私の命の次に大切な従魔達。つうのはなんだよ。
「リカカ。
クイヨが暴るような事があったら、クイヨを逃がさないように、ハーネスの先に付けた輪っかに指を通してくれ。
後……これも預かっててくれ。」
クサワラは、そう言いながら、クイヨをアタシに預ける。
ほう。輪っかね。
この前、あんたがアタシにプロポーズしてきた時に突っ返してやった指輪じゃんか。
本当、あんたも懲りない男だね。
あんたは、上級貴族のウマシカ家の人間だぞ。
平民に毛が生えたような貧乏な下級貴族の出で、目立った功績も上げてもいないアタシを嫁に貰うなんて……
あんたのご実家の人達が認める訳がない。
あんたの乳姉弟のセリ小隊長が、スタンダードではなく、唯一の例外だ。
って、何回、言えば理解するの?
「ズクダニ様。
これより蒔き拾いの任務に当たります。
セリ。ウス。チョク。ラナ。行くぞ。」
「了解。」×4
クサワラの指示にセリ。ウス。チョク。ラナが返答を返す。
■■■
クサワラ達が蒔き拾いに行ってから、30分近くたっている。
蒔きに適した木は乾燥したものだ。
雪が降っている、この状況だと、薪に適した木を拾い集めるのは難航しているだろうな。
クサワラ達が蒔き拾いに出掛けたのを見届けると、
ズクダニ様。エハ副官。ビキアラ副隊長。ビンショは、アタシを見張りに残して、洞窟の奥へ移動された。
そして、その直後から洞窟の中に、ビンショの喘ぎ声や、
エハ副官の罵倒する声や、ズグダニ様の喘ぎ声が響き渡る。
てか……
ドSのビキアラ副隊長と、ドMのビンショのコンビは、イメージ通りだっけど……
ズグタニ様が、エハ副官を女王様と呼び、彼女に辱められて喜ぶようなド変態さんだったとは……想像すらしてなかったわ。
【ガシ・ガシ・ガシ】
クサワラが、ついでに。って感じで渡してきた認識票のような物をクイヨが噛んでいる。
アタシはクイヨの背中をコショコショしながら、口を開けさせると認識票のような物をサッと取り上げる。
はぁ……唾液だけでなく……血までついてるじゃん。
【カプッ】
「痛。」
クイヨさんさぁ……アタシの指先は、あんたの餌じゃないんですけど。
てか……指先から血が滴り落ちてるじゃん。
って……
クサワラから渡された、認識票のような物が、一瞬、めっち、光った?
いやいや……気のせいだよね?
◇◇◇
『ご主人様。
時が来れば、ルクヨがクサワラ様の元に召喚してくれます。
ですから、その時が来るまで、このまま、アタイを抱っこしてて下さいまし。』
頭の中に念話で誰かが話しかけてくる。
ルクヨ?クサワラ様?
誰が話しかけてきてるんだ?
『リカカ様。
お手に持ったれている認識票を見て下さいまし。
リカカ様とアタイの従魔の契約が成された事が分かる筈ですよ。』
「へっ。」
認識票のような物には、クイヨがアタシの従魔として記載されている。
『まだ、その時では、ございません。
馬鹿達に悟られないよう、念話でお話して下さいまし。』
『分かったわ。』
アタシはクイヨに念話で返答を返す。
クサワラからは、
ごく稀に 【集合リス】と従魔契約を結んだ人の中に、彼女達と会話が出来るようになる人が居る。とは聞いてはいたが……
アタシ自身が、モンスターと念話で会話をする日が来るなんて思ってもみなかったわ。
けど、まぁ……
クイヨとは、普段から筆と紙を使っての筆談はしているので、彼女の人となりは分かってるつもりだ。
そのお陰なのか、あたしが図太いだけなのかは分からんが……
モンスターと念話で会話をしているという、この摩訶不思議な状況にもかかわらず、
あたしは、自分でもビックリするぐらい落ち着いている……気がするわ。
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