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ヤドカリ姫は異世界の扉をひっそりと開ける  作者: モパ
【第1章】小さな波紋
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【サイドストーリー】明暗(後編)

「撤退せずにいて正解だったぜ。

これでグンヨ殿下(ネギハタ高原国の第3王女)も、お喜びになられる。ってもんだぜ。」


ネギハタ高原国 第2近衛連隊の第20中隊の隊長のチョカ・ズクダニ様がニタニタと笑いながら話される。



「正気ですか?

グンフ殿下達が、何故、あそこを通れたのかは分かりませんが……

我々も、あそこを通れる保証はありませんよ。」


【祈祷師】のジョブ補正を受けている、我がトリース団のリーダーで、俺の実姉でもある姉さん(トリース)が苦言を呈してくれる。



「道案内は黙ってろ。

役目を放棄するならば、グンヨ殿下に恩赦の破棄を上申させて貰うぞ。」


「ふざけるな。


撤退の判断も道案内の仕事だと契約書にも書かれているだろ?


アタシ達に違法薬物の売買っていう冤罪をかけただけでは飽きたらず、

契約内容にまで詐欺を、かましてくれる気かい?」


「これだから、平民は……

大事の前の小事。って言葉を知らんのか?」


姉さん(トリース)の返答を聞いたズクダニ様が呆れた顔で見られている。



「良いか。良く聞け。


この調査団の護衛は、我々、第2近衛連隊の役目だと相場が決まってるんだ。


それを……今年に限って王族の婿がトップだという理由で特務部隊の連中が掻っ浚いやがった。


その過ちを世に知らしめる為に、グンヨ殿下は我々に策を与えて下さった。


それなのに……

この森の急激な異変か何かしらんが、

臆病風に吹かれたマキジコ・レコマ殿が撤退する。と、お決めになられたせいで、正攻法では、何の成果も挙げられない事が確定したんだ。


だから、我々は、結果を出す為に盗賊紛いの事をしなくてはいけなくなったのだ。



そこで、俺は道案内のお前達に、

我々がグンフ殿下達を襲撃するのに適した場所まで連れていく命令を出した。



ただ、それだけの事なのに、詐欺師呼ばわりとは……


お前達が使えない者だったら、俺への不敬で首を刎ねていたところだぞ。」


姉さん(トリース)の返答を聞いたズクダニ様がタメ息をつきながら話されておられるが、

俺には子供(ガキ)が癇癪を起こしているようにしか見えない。



そもそも、今回、第2近衛連隊が調査団の任を与えられなかったのは、

あろうことか、グンヨ殿下が仕掛けた、グンフ殿下 & グンミ殿下との政争に対して、

『近衛は中立であれ。』と仰られた陛下やグンヒ殿下のお言葉を無視してグンヨ殿下側につかれたから。


この話は、俺達、平民まで知っている公然の秘密だ。


そんな状況の中、

グンヨ殿下の婿であられるウミシシ様が、調査団の護衛を、

グンフ殿下が取り仕切られている開発局の護衛と、

フミナリ様が取り仕切られている外交部の護衛や密偵と、

自らが率いられる特務部隊の合同チームで行うべきだという上申書を陛下に提出され、

それを陛下が認められた事で第2近衛連隊が調査団の護衛から外されたのが、この件の顛末だ。



この陛下の決定に対して、

ウミシシ様の行動を出すぎた真似だと陰口を叩いておられた貴族や民も、それなりに居た。



ただ、第2近衛連隊の第20中隊の連中は、

グンヨ殿下の母方のご親戚のマキジコ家が輩出された学者の卵であり、天才【錬金術師】と呼ばれているレコマ様を伴って、

コッソリとグンフ殿下達よりも精巧な調査報告書を提出し、そのメンツを丸潰れにされる計画をお立てになり、それを実行に移しただけでは飽きたらず、

あろうことか、グンフ殿下達を襲撃し、彼等を亡き者にして、彼等が作成した調査結果を横取りなされようとされている。



もし、この事が、明るみに出れば、

ウミシシ様の行動を出すぎた真似だと陰口を叩いてる者達も、手の平を返してウミシシ様の行動を褒め称えるだろう。


そして、そんな事になれば、

自分達の命だけでなく、グンヨ殿下の政治生命にすら大きな汚点を残す事になるであろう事を、この(ズグタニ)は理解しておられないようだ。



■■■



「クーリ。スーの義兄貴。


魔石を追加で渡す。


外套に付与しされている結界の魔術の強度を上げたり、

姉さん(トリース)が皆に作ってくれた、回復の魔術が付与されたペンダントの効果を上げたり、

魔弾のライフルの弾丸を生成したりするのに使用してくれ。」


「ペニー。

あんた、こいつ達の言う事を聞くつもりなのかい?」


俺の指示を聞いた姉さん(トリース)が俺を睨みつけてくる。



「このままじゃ、生きた人間達に殺されるよ。」


俺は姉さん(トリース)が皆に作ってくれた、祓いの魔術が付与された腕輪を擦りながら返答を返す。



「ズグダニ様。

取り乱しました事、お詫びします。」


姉さん(トリース)は俺の意図に気がついたのか、ズグダニ様に頭を下げてくれた。



「分かれば良い。」


ズクダニ様が下卑た笑いを浮かべながら頷かれた。



■■■



【ピィー】



ホイッスルの音が響くと、

先導を担当する俺の嫁の兎系の獣人で【無能者】のクーリが、2人乗りのクアッドが走らせ始める。


クアッドのリアシートにはドライブボックスが置かれ、彼女の従魔の魔狼のポコが乗っている。



俺は荷台が、

先頭に近いのは約2メートルのダイネット。

その後ろは約5メートルの荷室。

そして、最後尾は80センチメートルの高さのアオリで後ろと左右が囲われただけの約1.5メートルのフリースペース。

という内容で3分割されている、 約10メートルの巨大なシングルキャブのトラックのアクセルを踏む。



運転手は【物情を繋ぐ者】のジョブ補正を受けている俺。

助手席に、姉さん(トリース)が座る。



ダイネットには、俺の従魔の魔猫のタゾウと、姉さん(トリース)の従魔の魔猫のマコマコが居る。


運転席(キャブ)とダイネットやダイネットと荷室を繋ぐ小さな窓を行き来する事が出来るタゾウとマコマコは、

ダイネットや荷室の警備と、俺と姉さん(トリース)の護衛を兼任してくれている。



そして、最後尾のフリースペース居る、

姉さん(トーリス)の旦那で、クーリの実兄でもある兎系の獣人で【無能者】のスーの義兄貴と、

ドライブボックスに乗った彼の従魔の魔狼のチエモンは、

後方の警戒と荷室の番をしてくれている。




◇◇◇



『最速で、ぶっちぎって、そのまま逃げるぞ。』


『あいよ。』・『おう。』


俺の念話にクーリとスーの義兄貴が返答を返してくれる。

横目で姉さん(トリース)を見ると頷いてくれている。



隧道ずいどうが近づくにつれ吐き気がしてくる。



【チリチリチリ】



姉さん(トリース)が皆に作ってくれた、祓いの魔術が付与された腕輪が熱を持ちはじめた。



【ドォォォォーン】・【ドォォォーン】

【ドォォォォーン】・【ドォォォーン】

【ドォォォォーン】・【ドォォォーン】



断続的な爆発音が後方から聞こえてくる。



『一部のお客様(第2近衛連隊の第20中隊の一部の連中)が、悪霊に取りつかれて同士討ちを始めたようだが、作戦に変更はない。


スピードを落とすな。


予定通り、最速で、ここを離脱するぞ。』


『了解。』×2


スーの義兄貴の念話に俺とクーリが返答を返す。


クーリの操るクアッドが更にスピードを上げると隧道トンネルに吸い込まれていく。



【ゴォォォォォー】



遅れて、俺の操るトラックが、隧道トンネルの中に猛スピードで突入した。



■■■



『チエモンが吠えるのを止めて、穏やかな顔に戻った。


幽霊達が追って来る気配はなさそうだ。


因みに、レコマ様とメヨユ様が2人乗りされているクアッドを除いて、

お客様(第2近衛連隊の第20中隊)は、隧道トンネルから出て来てねぇぞ。』


『了解。』×3


スーの義兄貴の念話に、俺と姉さん(トリース)とクーリが返答を返す。



『前も左右も異常無し。

変な気配も無い。ポコも吠えるのを止めたわ。』


気配察知に優れた兎人のクーリとスーの義兄貴が言うのだから、当座の危機は脱したのだろう。



『俺達は、国(ネギハタ高原国)には戻らずに、その外周の街道を南下しながら大山脈地帯に入り、

ウドゥイティ トスン高原国を経由して、ギルドの影響力が低いナヤクラース連邦まで逃げる。


そうすれば、無理の効かない年寄りになるまでには、ギルドに登録しなくとも生活基盤を整えられるだろう。



当座はキツいだろうが、幸いにして、俺達は全員、孤児だ。


だから、俺達のせいで殺されるかも?と憂う家族も居ねぇ。



俺達を育ててくれた保護院への寄付が出来なくなるのは悲しいが……


俺達との繋がりを絶つ方が、保護院の皆にとっても幸せな筈だ。』


俺は念話で、皆に、今後の予定を話す。



『アタシはペニーと一緒なら、何処で何をしても良いわ。

スー兄ぃとトリースの姉御は、どう思う?』


『難しい事は分かんねぇ。

そういうのはペニーに任かせるのが一番だ。』


クーリとスーの義兄貴が、俺の提案に一応、賛成してくれる。



『逃げ出す事になるのは悔しいけど……

皆の安全には替えられない。


不本意だけど、ペニーの提案に従うわ。』


姉さん(トリース)が、不機嫌な顔をしてはいるものの、俺の提案には従ってくれるらしい。



【ドォォォォーン】・【ドォォォーン】

【ドォォォォーン】・【ドォォォーン】

【ドォォォォーン】・【ドォォォーン】



断続的な爆発音が後方から聞こえてくる。


まだ、安全だとは言えないものの、輝かしい未来の描が見えた気がした。



『にしても……クソ寒ぃな。


ペニーが追加でくれた魔石で、トリースが作ってくれた回復の魔術が付与されたペンダントの効果を上げてなかったら……

朝まで身体が持たねぇとこだったぜ。』


スーの義兄貴のご機嫌な声が頭の中に響き渡る。

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頂いた感想には、出来る限り答えていきたいと考えております。

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