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第339話 師匠2

「ったく……」


 バイトは面倒くさそうな声を漏らした。

 恐らくキラさんの目の前ではあんまりさっきのような態度は取れないのだろう。逆らえない人物と言うやつなのかもしれない。

 そうだとしたらあのおっとりとした表情の中にそんな暗黒面があるなんて、もう他人を信用出来なくなるかもしれない。まぁ、元々信用していた訳では無いが。


「ヒロトさんでしたっけ」

「はい」

「バイトのこと、よろしくお願いしますね」


 なんか、急にバイトに教える流れになっているけど、俺は1度たりとも教えるとは言っていない。それに本人も乗り気ではなさそうだし、教えなくてもいいのではないかと思うけど……そうはいかないよな。

 なにせ俺は今、パイプとキラさんの二人に期待の目を向けられている。


 この目は苦手だが、なかなかこの状態で断るのは厳しいものがあるな。

 それに、これくらいの願いなら勇者になってくれよりも簡単だろう。なので、そこまで必死に断らなくてもいいかなと思っている。


「はぁ……そもそもなんで俺なんだ? 俺よりもお前の方がいいんじゃないのか? ここにいるってことはお前の客だろ?」

「まぁ、そうなんだが、ここはお前の方がいいと思ったんだ。なにせ、俺の戦い方は人に教えるのには向いていない」


 まぁ、確かにあんな風に筋トレして相手の攻撃を全て受けきる戦い方の人はそうそういないだろうな。

 確かに出来たら厄介だし、俺の攻撃力じゃ倒しきれないだろう。だが、それをできる人が何人いるかって話だ。


 そうなるとパイプの戦い方では教えるのには向いていない。というか、パイプは何ひとつとしてカラタさんの教えを受け継いでいないような気がする。というか全く受け継いでいないだろう。

 こいつはこいつで独自の戦い方を編み出している。


 カラタさんの戦い方が少しでもできるならばまだしも、あの戦い方を教えるのは確かに酷だな。


「でも、なんで俺なんだ?」

「君が頼みやすかったってのもあるし、第一、俺の感的にはお前が一番いいと感じたからだ」


 要するに感って事か……。

 しかし、面倒なことになってきてしまったな。


 もう少しで一度バスタガの方に顔を出しに行こうかと思っていたんだけど、これじゃまだ当分、バスタガに行けない。

 断りたい。


 幸い、俺とバイトの意見は合致している。


「俺は師匠って柄じゃないからものを教えるのは無理だな」

「俺も、こんなやつに教わるのは嫌だ」


 グサっ。胸を貫いてくる言葉。かなりのダメージを負ってしまった。

 だが、これで俺たちの意見は合致していることが伝わったはずだろう。


「そうか、じゃあ、一回二人で戦ってみようか」


 ……どうしてそうなった?

 俺は確かに断ったはずだ。そして、バイトも断ったはずだ。なのに、パイプは強引に話を進めようとしてくる。


「俺たちは断ったはずだよな」

「そうか、残念だな。それじゃ仕方がない。勝負で決めようじゃないかヒロト」

「あぁ、バイト。今日から俺がお前に戦闘を教える」

「折れた!?」


 仕方がないだろ!

 パイプと戦う以上に面倒くさいことはない。なにせ、あいつはどんな攻撃でも無効化できるほどの防御力の持ち主だぞ? 相手にしたくないに決まっている。


「だけど、俺の意思は固いぞ」

「ん〜バイトくんが強くなってくれないのは困るな〜」

「ぐ、キラ。それはずるいんじゃないのか?」


 全く話の流れが読めないが、俺の勘ではバイトはキラさんに何か弱みを握られていると推測する。

 恐らくあのキラさんは敵に回しては行けない人物だと思う。敵に回したら殺されるな。肉体的にではなく、精神的に。


 こうして俺はバイトに戦い方を教えることになったんだが、まずどうすればいいのだろうか。

 俺はユーザとハバロンさんに特訓をつけてもらったことがある。だから、教え方は分かる。だが、いったい何から教えたらいいのだろうか。


「とりあえず、戦ってみるのが一番早いんじゃないか?」

「「面倒だ」」


 俺とバイトの声が被る。俺からバイトは俺と同じ感性を持っているらしい。

 あの結婚式の時も思ったが、改めてそのことを確認した。

 でも、確かにパイプの言うことも一理ある。ここは面倒だが、やるしかないのか。


 俺は溜息をつきながら言う。


「じゃあ、実力を見せてもらっていいか?」

「え、本当にやるのか?」

「まず、実力を知らないと教えられないからな」


 確かに、ユーザとハバロンさんの時も俺は実力を見せた記憶がある。そのことから戦い方を教えるには実力を見ることは欠かせないことなのだろう。

 ここで断ったらパイプと戦わなくてはいけなくなってしまう。だとしたらここでバイトと戦った方が楽に決まっている。


「それじゃ、バイト。そこにある木刀で戦う」


 あの二人は素でものすごく強かった。なので、一撃でも与えることが出来ればとか言えたが、俺はそこまで強いわけじゃない。

 そもそもこんな戦いでスキルを使う気は毛頭ないからそんなに強くは無いだろう。


 だけど、一度やると決めたものは頑張り抜く。そのためにも俺はこの戦いで負ける訳には行かないんだよな。


 バイトが木刀を手に取ったのを見て俺も木刀を手に取る。

 腰に提げていた紫翠は近くに置いておき、これで準備完了だ。


「さぁ、いつでもどうぞ」

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