第338話 師匠1
「もう、関わらないで」
俺の耳の中をこだまする。
目の前にいる青髪の少女は涙を流しながらも俺に気が付かれまいと背後を向いて必死に気丈に振舞っている。
肩を震わせている少女の事が俺は見ていられなくなり、手を伸ばす。しかし、その手は届くことはない。見えない壁のようなものに阻まれて少女に触れることは出来ない。
それどころか、
「おい、何があったんだよ!」
声をかけても反応がない。まるで俺の言葉までもが聞こえていなく、俺を別の世界に隔離されているかのような感じだ。
そこでどんどんと視界が闇に染ってきている。
顔が見えなかったからよく分からなかったけど、何やら俺は彼女の事を知っているような気がした。
救いたい。少しでも力になれるのなら力になりたい。
そう思いながら俺は意識を闇の底に沈めた。
☆☆☆☆☆
俺は飛び起きるかのように目を覚ました。
起きると俺はものすごい汗をかいており、息が切れていた。
「はぁ……なんだったんだあの夢は」
俺はため息をついた。
なんだか今日は変な夢を見てしまって寝起きが悪い。
それにしても、なんであんな夢を見てしまったんだろうか。不思議な夢だった。
なんだかあの少女は見た事があるような気がして、そして大切でもある。カナタたちと同じで守りたいと思ってしまう。
でもまぁ、夢は夢だ。正夢とかいう言葉もあるが、あんな不思議な状況になることはそうそう無いだろう。
そうは思うが、夢として見たものは人の心理として暫く気になってしまうもので、暫く考え込んでしまう。
もし自分があの状況に至った場合、俺は何をするのだろうか――いや、答えはもう決まっている。
対象が俺の知り合いで、大切な人なのだとしたら俺はお節介でもなんでもいいから助けたいと思ってしまう。だから、俺は助けるために奔走するだろう。
そんなことを考えていると、部屋の外から声がしてきた。
「ヒロ、もうご飯ですよ」
どうやら朝飯ができたので起こしに来たようだ。いつもはもっと早く起きているのだが、今日は少し寝坊をしてしまったらしい。
「あぁ、もう行くから待っててくれ」
俺はローブを羽織ると腰に紫翠を提げ、部屋から出る。
すると、俺の元までものすごく美味しそうな匂いが漂ってきた。
リビングまで行くと、もう料理を運び終えたあとのようで、俺を待っていた様子の二人が座っていた。
「この時間まで寝ているのは珍しいですね」
「うーん、疲労でも溜まっているのだろうか」
でも、確かにここ最近はゆっくりと休めていないのは確かだ。ここいらでゆっくりと休みたいところなのだが、この後は何故かパイプに呼び出されてしまっているのだ。
昨日の夜遅くに手紙が届いて、そこには明日――つまり今日のことだが、道場に来てくれと書いてあった。
同情というのは今現在パイプが管理している旧クラタガ道場である、アライスタ道場だろう。
今回は俺を呼び出してなんのようなのかは分からないけど、でも呼び出されたので行かない訳にもいかないだろう。ということで、これを食い終わったら行くことになっている。
ゆっくりもさせて貰えないのか……。
そして、カナタの作ってくれた美味い飯を食い終わった俺はアライスタ道場に向かう。
そう言えばこの道場に来るのは久しぶりだ。こっちに帰ってきてから一度もこの道場に来ていなかった。
俺は扉をノックする。
すると、内側から誰かに開けられる。
「はい……はい?」
「……はい?」
俺らは同じ反応になってしまった。困惑の反応だ。
それはそうだろう。なにせ、扉が開いたと思ったら、その扉を開けた人物はパイプではなく、別の人物だったのだから。
その人物も何故俺と同じく困惑の反応をしたのかは分からないけど、とりあえず今回呼び出したのにこの人物が関わってきそうだと言うのは理解した。
そして、奥の方へ目を凝らしてみるとパイプが座布団を強いて座っていた。
「よく来たな。ヒロト」
「お前……本当にパイプなのか?」
「失礼っすね! 俺は正真正銘のパイプっすよ!」
あ、本当だ。パイプだった。
なんかパイプがいきなり堂々とした風格を醸し出しているから、一瞬だけだがパイプの偽物を疑ってしまった。
しかし、この一年半でパイプも変わったようだ。以前の少し自信が無さげだったが、空元気でその感情を押し殺していたパイプはもう居ないようだ。
しかも、この前の大会でパイプがどれだけ強くなったかは見ることが出来たしな。
「で、今回はなんの要件なんだ?」
「そうだな。今回はこいつ、バイトに剣を教えてやって欲しい」
「剣を?」
確か、バイトって言ったら今年召喚された勇者だったよな。
よく見てみるとあの時強制的に勇者に就任された奴だった。鎧やらなんやらを見につけているせいで印象が変わっており、直ぐに気がつくことが出来なかった。
「なんでこんなひょろひょろに教わらないといけないんですか!」
ひょろひょろ、その言葉が俺の胸に突き刺さる。
確かに俺はひょろひょろだ。でも、これは着痩せしているだけだからな!
「ふむ、確かにヒロトはひょろひょろだ」
ぐさぐさっ!
俺はもう既に瀕死状態となっていた。
もう帰りたい。カナタに泣きつきたい。俺もユキと一緒にアスタンガに残ればよかったかな。
「だが、これでも一応は精鋭部隊となっている。強いはずだ」
「ねぇねぇ、一回頼んでみようよ」
「……キラ」
バイトが俺に教えを乞うのを渋っていると、奥の方から一人の女性がでて来た。
おっとりとした雰囲気で、優しそうだ。
その人物をバイトはキラと呼んだ。恐らくあの女性が――
「初めまして、キラ・スレートルと言います。よろしくお願いしますね。あ、それと私は魔法使いで、そこにいるバイトを召喚しました」




