第340話 師匠3
俺とバイトは木刀を構えて向き合う。お互いに相手の出方を観察する。とはいえ、これはバイトの力を見極めるための戦いだ。能力を攻めても意味が無いだろう。
なので、俺はバイトが俺に攻撃を仕掛けてくるのを待つ。
そしてついに――
「オラァっ!」
痺れを切らしたのか、さっきまでは俺の動向を見ていたバイトだったが、木刀を構えて俺に突っ込んできた。
でも、かなり隙だらけの構え。俺は突っ込んできたバイトをひょいと躱して首に木刀を当てた。これが本番だったらバイトは確実に死んでいる。
しかし、これは殺し合いでは無いので、本当に傷つける一撃は与えない。
「く、そ……」
「まだやるか?」
悔しそうにしていたので、俺はもう一回チャンスを与えることにした。
いつもなら面倒くさがってもう一回チャンスなどやることは無いのだが、今回は特別だ。なにせ、俺はバイトと自分を重ねてしまったのだ。
俺がユーザに修行をつけてもらった時、そしてハバロンさんに修行をつけてもらった時。恐らく俺もこんな感じだったのだろうと思ってしまったのだ。
「やる」
俺からまだ続けるようだ。
でも、今の一発で大体、バイトの改善点を見つけることが出来た。次の一戦は、どれだけその改善点をバイトが自分で見つけることが出来、どう直していくのかを見ていくことにする。
そう思った矢先の事だった。
なんと、バイトはしっかりと脇を締め、全く無駄のない構えをしだしたのだ。
それだけじゃない。バイトは走ってくる時も、躱しやすいような動きだったのだが、ちゃんと躱しにくいような動きになっている。
……まさか、この一回で自分の改善点を見つけてそれを直してきたというのか?
「バイトくんは私も最初見た時には驚いたよ。最初は近くの弱い魔物すら倒すことが出来なかったけど、一回戦っただけでその敵の動きを観察して、その敵ごとにベストな動きで戦う」
さっきの俺の躱し方を参考にしてそれを対策してきたって言うことか。
だが、まだ大丈夫だ。このくらいの攻撃なら避けることが出来る。しかし、続ければ続けるほどこいつはどんどんと強くなっていく。
こいつは戦いの中で強くなって行っているのだ。
恐らくバイトは最終的に俺よりも強くなれる。俺にはこんな芸当、出来ない。
しかも、戦いの中で俺の動きを自分のものにして俺の攻撃を回避したりもしている。
こいつもこいつで敵に回したくない人物の一人になったな。
「終了だ」
暫く戦った。おかげで俺はヘトヘトだった。
もう少し早く終わろうと思っていたのだが、如何せんバイトが全く諦めてくれなく、次々と俺に攻撃を加えてくるので、かなり必死に回避していた。
この短時間でバイトはスキルを使っていない俺に攻撃を当てられそうなところまで来ていた。
「昔から俺は人の動きを見るのが得意でさ。一度見れば分かるんだ、相手の特性が」
「なるほど……かなり凄い力だな」
「いや、俺はこれはなんど無くなればいいと思ったか……見えてしまうんだ。余計なところまで……人の嫌なところまで」
そういうことか。
バイトのこの力は人並み外れた動体視力と言ったところだろう。そうなると、人の嫌なところも見えてしまうのか……。
俺の人の嫌なところは知っているので、この感情は理解出来る。そして、人に失望したのだろう。バイトの目からはそのような感情が読み取れる。
恐らく、このバイトは俺と同じタイプだろう。こっちでの振る舞い方だけでなく、元の世界での人物像も。
「なるほどな……」
でもまぁ、これ以上の事を突っ込んでも仕方が無いだろう。
恐らくもうあの世界に戻ることは二度とない。あの世界のことは忘れてしまうのが吉というものだ。
俺は最初こそは戻りたがっていたけど、今ではこっちの方が断然いいからな。
「んじゃ、今日はここまでにして明日はここで特訓だ」
「特訓と言っても戦い方を見せてもらえれば――」
「世の中それで全て上手くいくわけじゃない。臨機応変に対応しなくてはならない時がきっと来る」
この戦い方は俺のような頭で戦うタイプはペースを崩されるだろうが、オーライのようなタイプには恐らくどれだけやっても勝てることは無いだろう。
せっかく教えることになったんだから、せめてオーライを倒せる力を身につけさせたい。
それにはかなり時間がかかるだろうが、今の俺は気が向いている。
「で、どうでしたか?」
キラさんがバイトの実力について伺ってくる。
「かなりいいですよ。相手の力を自分のものにできるってことは、かなりの身体能力はあります。鍛えればかなり強くなれるのは間違いないでしょう」
まぁ、偉そうに言ってはいるものの、そんなに俺は人に教えたことが無いので、勝手が分からないのでとりあえずそれっぽいことを言っている。
でも、これは本心だ。恐らくバイトは鍛えればかなり強くなれる。
「ありがとうございました」
キラさんがお礼を言ってきた。
恐らく、キラさんはカナタが俺に対して抱いていた感情に近いものを持っていたのだろう。
だが、今はかなり安心している様子だ。
「面倒だが……このまま負けっぱなしってのも気に食わない。いつか絶対に斬ってやるからな」
「宣戦布告か……」
少しだけ面白いと思った。恐らくこれはヒーローブラッドによるものだろう。
だから俺は近くに置いていた紫翠を腰に提げ、手を紫翠に翳しながらバイトに言う。
「出来るならな」




