第229話 過去と現在、そして未来へ5
『それでは次に参りましょう! 続いての試合は――』
こんな感じでどんどんと試合が進んでいく。しかし、俺が楽しめるのはここまでの様だ。
確かにこのあとも興味深い対戦も盛り沢山なのだが、俺は気がついてしまっている。この集落に招かれざる客が近づいてきていることに……。
馬車に乗って居た時に少しだけ索敵を使ったんだが、ギリギリのタイミングで引っかかったのだ。魔物が近くにいる反応が、しかし今の俺の索敵は8秒にも膨れ上がっていた。そのため、範囲はかなり広がっていたので問題ないかと思っていた。しかし、今見て見たら明らかにこちらに近づいてきていたのだ。それも10や20では無い。この魔物の大群はまずいな……。いつここまで来るかは分からない。
今は誰も気がついていないか……。行くなら今が最適か……。
俺が行く義理はない。ここに居る大多数の人々は俺と関わったことのない人だ。俺が命を張って助ける必要は無いだろう。しかし、俺の脳裏にはカナタの姿が浮かんだ。あぁ、俺が助ける理由はそれだけでいい。いつだってカナタのことを助ける、そう誓ったから俺はカナタを助けるために行く。
「どうしましたか?」
「ジャック?」
「何かあった?」
「お兄さん?」
四人とも俺の動きに気がついて疑問を抱きながら着いてきた。正直俺一人だと厳しい。サポートを頼みたい、そう思っていた所だったのでこの四人にも頼むことにしよう。
「四人とも、手を貸してくれ。これが、クラン『HOPE』の初仕事だ」
詳しいことを話している時間はない。だから俺はそれだけ言って走り出した。そして走りながら現状を説明する。
ここに約50の魔物が迫ってきていると説明した時のみんなはとても驚いた顔をしていたが、逃げる気は毛頭ないようで覚悟を決めた戦士の表情になっている。
まぁ、この反応だったら一体一体の強さはそんなにない様だ。この程度だったらデスワイバーン二体来た方が大きな被害になるな。
「でもヒロトがこれを倒しに行くって明日の天気は大荒れかしらね」
「俺だって守りたいものだってあるさ」
今は俺たち以外には誰もいないのでヒロトと呼んだのはツッコまないでおこう。
俺は濁して言ったが、その反応を見てわかったのか、スイはニヤニヤとし始めた。
サキはあんまりピンと来ていないようだが、スイには隠し事は出来ないな。スイの勘は良すぎる。
でも問題はこの数をどうやって倒すかだな……。サキ、スイ、ユキ、マイ。みんなの力を合わせても倒すのが間に合わないな。ならばごり押すしかないか。
俺の魔力が足りるか分からないけどやってみるしかないよな。
「みんな、あいつらを出来るだけこっちに近づけさせるな!」
それだけ言って俺は魔物の群れに駆けて行く。この数だ、ちまちまとした魔法で倒していても殲滅力が足りなくて押し切られてしまう。これは俺の持っている全ての魔法で言えることだ。このクランは全体的に殲滅力が足りない。でもこれなら行けるかもしれない、その可能性に賭けてやるしかない!
「聖光よ、我が力に答えてその力を発揮せよ『聖光の波動』」
貫通力のあるこの魔法で倒していくしかない。修行した今、魔力もかなり増えているだろうが、足りるかは勝負になる。そしてこれだけでは殲滅力が足りなくて俺は囲まれてしまう。だから俺はそう思ってみんなに足止めを頼んだのだ。
不安要素といえば、俺の魔力が足りるかどうか、賭けだって事だ。
だけど、流石にこの人数じゃ、足止めにも間に合わないか。
スイもこんな場所で最悪の災害を使ったら大変なことになるとわかっているため、殲滅力があるとはいえ、使えないのだ。
最悪の災害は殲滅力もあり、破壊力があるとはいえ、そこまで所構わずホイホイと撃てるものでは無いのだ。
く、囲まれた……。やっぱりこんな人数で殲滅するのは無茶だったか……。
ダメージ覚悟で撃ち続けるしかないのか……。その時、視界の端にドラゴンがこちらに飛んできているのが見えた。
この状況に加えてドラゴンかよ……勘弁してくれ。
「やるか、スキル発動『身体強化』」
そして俺はこの三ヶ月で発見した。この身体強化は一部に絞って効力をあげることができると。
「身体強化、足」
まず足を身体強化してこの包囲網を抜け出す。この状態じゃあのドラゴンとは戦えない。
そもそもとしてドラゴンに勝てるのか? 確かに俺は強くなったが、ドラゴンに今戦って勝てる自信がない。
「雪平」
「うん、私はヒロトに全てを捧げる」
いつものように権になるユキ。手に強く握って構える。
この魔物たちだけならどうにかなるだろう。しかし、あのドラゴンはかなり強いようだ。ものすごい魔力を感じる。
って待てよ? あのドラゴン、ブレスを放とうとしていないか?
ここに居たらまずい、どれほどの出力なのか分からないけど逃げないといけない。
「みんな、逃げろ!」
しかし、その指示は遅く、俺達が逃げ始める前にブレスを放たれた。万事休すか……。
もうダメだ。そう思ったその時、そのブレスは軌道が狂ったのか魔物たちの方に放たれた。
魔物たちはブレスによって焼け、鳴き声を上げる。どんどんと倒れて行き、今の一撃で半分以上の魔物が倒されたようだ。
直ぐに俺たちに射線を合わせれば俺たちを焼き焦がすことが出来たというのに、ドラゴンは知能があるのだから、これくらい考えたら直ぐに機転が利くはずだ。
そこから考えると、もしかしてあのドラゴンは俺らを助けてくれたのか? でもどうして、俺はドラゴンに助けられる覚えは――もしかしてあいつは!
その数分後、そのドラゴンの活躍によって全ての魔物の殲滅が完了した。そのままドラゴンは俺たちの前に降りてくる。
みんなは何が起きているのかわからなくて唖然としている。このドラゴンが俺らを倒す気ならば俺らは既に消し炭になっているはずだからな。
でももうなんでこのドラゴンが俺らを襲わないかが分かっていた。そのドラゴンの目を見て俺は確信した。
『大丈夫か?』
「……助けてくれたの?」
『そーだ』
スイの質問にドラゴン状態で答えていく。そのドラゴンの様子を見て余計に意味がわからなくなってしまったようだ。
だから俺が一歩前に出てお礼を言うことにした。
「おつかれ、そしてありがとうな。ルル」
「「ルル!?」」
俺のその言葉にサキとスイは弾かれるようにドラゴンを見た。
ドラゴンは一瞬、驚いたような表情をしてから諦めた様に肩をすくめると光り出した。
そのまま光はどんどんと小さくなっていき、やがて人の姿になる。
するとその人型は俺の方へゆっくりと歩いてくる。何か嫌な予感がする。少しずつ後ずさるが、追いつかれてしまって光が消えた瞬間に俺はその人物に上から拳を振り下ろされていた。
「いてっ!」
「よく私だとわかったわね」
「「ルルさん!?」」
そういえばこの二人にはルルがドラゴンになれるって説明していなかったっけか。
しかし、久しぶりに会ったってのに人の頭を殴りやがって……。バカになったらどうするんだ。
でもルルが来なかったらはっきり言って厳しかったから、そこは感謝だな。




