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第228話 過去と現在、そして未来へ4

 ダントは控え室へ、そしてライクは医務室へ運ばれた。どうやら酸欠によって倒れたようだ。となるとあいつは周囲の酸素を抜くことも出来るのか……。だから、強すぎるんだよ! 勇者は要らないじゃないか!

 そして観客たちはライク選手があんなに簡単に倒されたのは少し意外だったようで、ザワザワしている。どうやらあのライク選手はかなりの実力で有名の様だ。剣士としての腕前も上位のはずなんだとか。

 しかし、俺が考察した限りは相性が悪かったようだ。こればっかりは仕方がない。これだけ強力なスキルだ、魔法だけでどうにかなるとは思えない。


『お次の試合はパイプ・アライスタ選手対イデン・ジャンク選手です!』


 ついに俺が舞っていた人の試合の番になった。パイプがどれだけ強くなっているか楽しみだ。

 確かパイプの属性は火属性だったはずだ。そしてあいつは剣士だ。俺もこの三ヶ月間、ハバロンさんのもとで修行を続けてきた。パイプはどれだけ剣術が伸びたか楽しみだ。師弟の考えで言うと親戚に当たるからな。


 アナウンスとともにパイプとイデン選手が控え室から出て来た。その両者ともに剣を持っている。今回の剣魔法王者決定戦は前回よりも出場者が多いが、どうやら剣士が多いようだ。

 でも剣士の俺としては色んな戦法を見ることが出来て楽しいからいいがな。

 だが、鎧を着ずに上半身裸で出場するバカは他には居ないだろうがな――なぁ、パイプ?


 そして二人の試合は始まった。

 とりあえず二人は牽制として火属性の下級魔法、『フレイム』を放った。その魔法はぶつかり合って相殺した。どうやら魔法の出力に関しては互角の様だ。

 その直後、同時に走り出して剣を交えた。それにより、金属同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り響いた。ここまでは定石通りだ。でもパイプの真価はそこではない。パイプは剣同士の押し合いにはそこまで強くない。強い点は――するとイデン選手がパイプ選手を押し切ってパイプに斬りかかった。

 しかし、その剣がパイプの体に傷を付けることは無かった。なにせ、パイプはその自分の肉体で剣を弾いたからだ。俺は何度も見たことがあるが、この光景は想像を絶するものだろう。

 決して派手な魔法を使っている訳でもない。ただ、剣を弾いただけだ。それも生身の肉体で……だからこそとんでもない騒ぎになる。


「なんだよあいつの肉体!」

「あの硬さは異常じゃねぇか!」

「反則級の強さだ! まさか剣撃が効かないほど固い肉体が存在するなんて!」


 剣なんて鍛え抜かれたパイプの肉体の前には棍棒同然だ。斬撃などほぼ意味を成さない。

 しかしまぁ、見てみたら以前より固くなっているようだ。あいつは何を目指しているんだよ。剣を使って火を扱い、剣撃がほとんど効かない肉体なんて機動要塞もびっくりな鍛え方だな。

 あいつの将来の夢は機動要塞そのものになることなんじゃないか?


「どうだ、俺の鍛え抜かれた肉体は! 俺の肉体には魔剣でも傷一つ付けることは出来ない!」

「剣がダメなら魔法ならどうだ!」


 剣がダメならと次に考え出したのは魔法の様だ。イデン選手は詠唱を開始する。しかし、パイプにはちょっとやそっとの魔法では剣撃と同じ運命しか辿らないだろう。パイプの体を傷つけるなんてフレイムなら300発程放って漸くパイプの体に擦り傷を与える程度だろう。

 それは恐らく最初の一発でイデン選手もわかっているはずだ。ならば今度の魔法の威力はさっきの魔法の威力とは桁違いだろう。

 さて、イデン選手はどんな魔法を使ってパイプを倒すのか。

 ついに詠唱は終わったようで、イデン選手は掌を空に掲げた。その先にドでかい炎が出来上がる。あれはかなりやばい魔法だな。観客席のこの結界がなければ俺たち諸共灰になる威力とみた。流石にパイプも厳しいんじゃないか?


「ほう、それはすごいな」

「そうだろう。これで俺の勝ちとさせてもらう!」


 イデン選手はそう言い放つとその炎をパイプに対してはなった。しかし、パイプは微動だにしない。他の観客は気がついていないようだが、パイプの口が小さく動いている。この歓声によって掻き消されているが、パイプも対策を打っているようだ。

 そしてその炎がパイプに直撃しようとした瞬間だった。その炎の出力が弱くなったのだ。そしてパイプに全く近づけていないようだ。

 やっぱり思った通り、異常な程に強くなっていたようだな。


「くそ、なんだよお前の防御力は!」

「昔俺に戦友が居てね。その人が俺の魔法を使うとしたらこう使うかなと考えた迄だ。俺の戦友は魔法を使うのが上手いからな。これくらいやって退けるすごい人だったからな」


 へー、魔法を使うのが上手い戦友がいたのか。そいつとは気が合いそうだ。あの魔法がどんな魔法かは知らないけど、俺も同じように魔法を――ってもしかしてこれって俺の事か? 俺なんてすごくないと思うんだけどパイプはそんな風に思っていたのか。

 でもすげぇな。まさかここまで魔法の腕も上達しているとは思わなかった。


「これは『火炎吸収魔法』だ。火属性の魔法を吸収して己の力に変える」

「吸収? まさか!」


 そのまさかのようだ。パイプは(おもむ)ろに剣をイデン選手のいるであろう方向に向けると、火属性魔法を吸収したからなのであろう赤々しく光った剣に魔力を注ぐと、その剣からこれまで吸収した炎の倍の出力であろう炎を放出した。

 そんな炎に出力が弱くなっている炎が勝てるはずもなく、簡単にイデン選手の放った炎は掻き消されてイデン選手に襲いかかった。

 結局パイプにイデン選手の力では傷一つ付けることは叶わなかった。

 パイプの放った炎はイデン選手に直撃。これを受けて平気でいられるはずもなく、炎が消えるとそこには地に倒れているイデン選手の姿があった。


「なんで、なんでそこまで強いんだ」


 イデン選手が聞くとパイプは一瞬だけ悩む様な表情をしたあと、静かに語り始めた。


「少し前まで俺は強いと思っていた。剣術に関してもトップクラスだと思っていた。しかし、そんな俺の鼻を折ったのは昔の戦友だった。戦友と共に戦って気がついたのだ。俺にはスキルの才能も、魔法の才能もない。そして残された剣術に関しても中途半端。じゃあ、俺には何があると考えた時、俺にはこの鉄壁の肉体があった。この肉体をずっと鍛え続けた。だけど魔法に対しては弱かった。だから俺は弱い頭を鍛えることにした。こうして俺は今の力を手に入れた。自分の弱点を乗り越えた、これが俺の強さの秘密だ」


 そうか、それで火炎吸収魔法を会得して自分の弱点を克服して……。

 これにはものすごい努力があったのだろう。

 今の俺から見たらパイプはものすごく強い、アルケニア最強の精鋭部隊であるカラタさんの後を充分に継いでいると思う。

 こりゃ、今の俺でも勝てるかどうかだな。


「そうか、じゃあ俺には勝てる相手じゃないってことだな。降参(・・)だ」

『イデン選手から降参が入りました! よって只今の勝者は、パイプ・アライスタ選手!』

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