第206話 『HOPE』6
「どうしたんだ? こんな所で」
「ひゃあ!? じゃ、ジャックさん!?」
俺の呼び掛けに驚いて反応したのはマイ。何故かここで独り飯を食べていた。この楽しそうな雰囲気の中、寂しそうなオーラを出しながら食べているもんだからかなり浮いていた。
その為、心配になって声をかけてしまったのだ。
「どうしたんだ? こんな所で」
「じゃ、ジャックさんこそ」
「俺達はクランを設立させてきたんだ」
「は、早いですね」
まぁ、クランを設立する宣言をした当日に設立させたわけだもんな。でもこれは出来るだけ早くやって置きたかったから良い機会だったと思う。
で、話を戻すと、気になるのはいつもこんな風に一人で食べているのかってことだ。それが少し心配になってしまった。どうやらこういう女の子を見ると俺はほっとけ無い性格のようだ。どうしてもお節介を焼きたくなってしまう。
「私は、見て分かると思いますが昼食です。ここのご飯って美味しいんですよ。特に野菜炒めが最高なんです。ほら、食べてみてください」
そう言って俺の前に箸で掴んだ野菜を差し出してくるマイ。俺はその好意に甘えて一口貰うことにして差し出してくれた野菜を食べた。
うん、これはうまい。火を通して野菜独特の臭みがなくなっていて、これなら野菜が苦手な人でも食べられそう。更に焼いたけど野菜のシャキシャキとした食感が残っていて、その食感が楽しい。
更に野菜の旨み、甘みが染み出してきてこれは食欲を掻き立てる味だろう。
確かにマイの言う通りこれは美味い。
「美味いな」
「でしょ? 美味しいんですよ」
「で、一人で食べていたのか?」
「はい……この街では友達が居ませんので」
なんとも悲しい回答。その回答に少し俺は可哀想になった。なのであの食堂の列に並ぶことにした。どうやら冒険者なら割引などもしてくれるようだ。冒険者の方がここは色々と便利のようだ。こういうことも含め、冒険者登録をしたのは間違いではなかったようだ。
そして適当に買った料理を持ってマイと同じテーブルに座る。その行為に対してマイは随分と驚いた顔をする。そんな俺を見てユキも同じことをして俺の隣に座った。
しかし、そのユキはとてもどす黒いオーラを放っていた。
(私のパートナーと関節キスをしたこと、忘れませんからね)
そんなユキを見てマイはものすごく怖がっているようだ。何をそんなに怒っているのかは知らないけど機嫌を直してもらう為に俺は自分の料理を一口箸でつかみ、そしてユキに向けた。
「これで機嫌を直してくれ」
「うん!!」
なんでかこれくらいでものすごくご機嫌になった。俺としては助かるのだがそれでいいのか?
ユキは俺の箸から料理を食べるとさっきまでのイライラが嘘のようにご機嫌になって一安心だ。
「でも、これでマイは一人じゃない。だろ?」
「ジャックさん……はい!」
とても嬉しそうな声。その声に安心した俺はそのまま自身の料理を食べ進める。
「……クラン、ぬけてきました」
「え?」
それは食事中にポロリと零してはいけない話のような気がした。でもその話はとても気になるものだった。マイはどんな事があっても絶対に『ブレンド』を抜けず、みんなを支えてきた。
その間にはダントに数え切れない程の嫌がらせを受けたはずだ。だけど、そんなんでも絶対に抜けなかったはずなのに……マイは『ブレンド』を抜けてきたってのか?
「何があったんだ?」
「実は……ダントに追い出されまして、私も意地になってもう戻ってこないって言ってしまったので抜けてしまったんです」
なるほど、いつも支えてくれているのはマイなのに、そんなマイを追い出すってなんでやつだ……許せない。
でもこれでよかったかもしれない。あんなクラン、抜けて正解だ。そしてもう戻ることもない。
しかし、そうするととある問題が出てくる。マイの帰る場所がなくなってしまう。今までは『ブレンド』が帰る場所だったが、そこを抜けたってことは実家はあるだろうけど、帰る場所、仲間たちが居なくなってしまったのだ。
「うーん、ジャックお得意のたらし技術を使えばいいと思うけど」
「たらし技術ってなんだよ。たらしたことなんてないぞ」
「む、無自覚……っ!?」
ユキが驚いてのけぞってしまった。
でも、たらし技術ってのはちょっと分からないけど解決方法は何となくわかった気がする。
「マイ、俺たちのクランに入らないか? 今の所人数は俺とユキの二人だからまだまだ空いてるぞ」
「え、いいんですか? 迷惑じゃありませんか?」
「いやいや、迷惑なんてあるもんか。マイは他人を気遣える、その能力は誰にでも備わっているわけじゃない。その能力は俺たちにも必要だ。だから俺はマイが欲しい」
「わ、私が?」
俺も何を言っているのかだんだんわからなくなってきた。マイを元気づけるために言っているが、俺はだんだん混乱してきたぞ。
しかもなんだかマイが顔を真っ赤にしているし……ユキに至っては俺に冷たい目を向けてくるし。なんだか「たらし……」と呟いた声が聞こえた気がする。
「ああ、必要だ。だからなってくれ」
「え、えぇ!?」
俺はいつの間にか手を握っていた。その手に今更気がつくも、今更引けないとそのまま続ける。
「お願いだ」
「いいんですか? 私、戦闘面でもあんまり役に立てませんよ」
「力じゃないんだ。俺には君という存在が必要なんだ」
「なんかだんだん強引な勧誘になってきてない?」
わかってるけど……もう引けないんだよ!
「分かりました……よろしくお願いします!」
「いいのか?」
「はい! むしろ皆さん楽しそうで、私からお願いしたいくらいです」
マイが俺たちのクランに入ってくれることになったので再びカウンターに向かった。
まさか、マイが仲間になってくれることになるとは思わなかったが、これで俺たちのクラン人数は3人に増えた。
サキとスイが入ってくれると仮定したら人数は5人か。これくらいのこじんまりとした集まりの方がいいからこれでもうクランの勧誘はしなくていいだろう。
さて、サキとスイは今頃何をしているんだろう。




