第207話 『HOPE』7
裕斗とユキがクランを設立していたその頃、サキとスイは?
「ねぇ、スイちゃん。あのお店を見に行ってみようよ」
「ちょ、さっきーちょっと待って!」
珍しくテンション高めのサキにスイが振り回されていた。
サキは普段こんなにテンションが高いことはそうそうないので、スイは少し訝しむが「さっきーが楽しそうならいいや」とすぐについて行った。
確かにサキはオシャレが好きで、服屋なんかに行くとテンションが高めなことはよくあるけど、ここまでは高くはない。スイも三年近く一緒にいるが、こんなにテンションの高いサキは初めてだというくらいだ。
「スイちゃん、これなんかスイちゃんに似合うんじゃないかな?」
サキはスイに似合いそうな服を見ている。そして見つけたらスイに見せるのだ。だけどスイは渋い表情をする。
その服が嫌なわけじゃない。サキが選んでくれているってのも悪い気はしていない。寧ろこうやって歩いているだけでもスイにとっては楽しい。ではなぜ渋い表情をしているのかと言うと。
「こんなヒラヒラなスカート、私には似合わないんじゃないかしら」
「そんなことないよ! スイちゃん、可愛いもん。絶対に似合うよ!」
スイは自分に似合わないと思って渋い表情をしているのだ。
一般的に見たらスイは充分に可愛いのだが、本人はそうは思っていないのだ。男勝りで可愛くない、それがスイの自己評価だ。
「いいわよ、私はこういうのの方が性にあってるんだから」
そう言ってスイが手に取ったのはいつもローブの下に来ているホットパンツだった。
それはそれで可愛いのだが、いつも通りなのでインパクトに欠けるのだ。
「だめ、お兄ちゃんを驚かすにはその程度のインパクトじゃ」
「インパクトって……さっきー、あなたそんなことを考えていたから無駄にテンションが高かったのね」
「だって面白そうじゃん」
そう言われてスイはこのスカートを履いて裕斗の前に出て驚かすことを想像してみる。
「ヒロト」
「ん? どうした……って、どうしたんだその服」
スイが呼びかけると裕斗はいつものようにスイの方へ振り返る。そしてスイを見ると驚いた様子で服のことについて聞いてくる。
「驚いた?」
「驚いたってか、まぁ……」
「それならよかった。で、この服どう?」
本来は驚かせるだけで終わりなのだが、脳が勝手にこう聞いてしまった。しかもモジモジしながら聞いているため、スイは自身の妄想でも恥ずかしくなってきてしまった。
「えっと……普段見ない格好だからか、その……可愛く見える。うん、すげー可愛い」
その答えに妄想の自身だけじゃなく、現実のスイまで赤くなってサキに訝しむ用な目で見られる。しかし、妄想に夢中になっているスイは気が付かない。
とても恥ずかしいが、それと同時に嬉しくなった。
しかし、スイはなんで裕斗に可愛いと言われただけで嬉しくなったのか全く理解できなかった。
サキにもよく可愛いと言われている。確かにそれも嬉しいのだが、嬉しいのベクトルが少し違うような気がしたのだ。
(この気持ちはなんだろう……)
「おーい、スイちゃん?」
「あ、さっきー。ごめん少しぼーっとしてた」
サキが声をかけたことによってやっと元に戻ってきたスイ。そんなスイをサキは心配した。
急にぼーっとして顔を赤く染めているんだから。
(なんでこんな気持ちになるのよ、だってあのヒロトよ? でも、どんな反応をするのかしら……もしかして可愛いとか言われちゃったり? でも私は可愛くないからそれはありえないわね)
でもやって見てもいいかもと思ったスイはサキの選んだ服を手に取った。
「とりあえず、あいつの驚いた表情を見てみたいから買ってみるわ」
そう言ってスイは購入したが、サキはそれを見て驚いていた。今までサキが奨めた服は可愛すぎると言って一度も買ったことがなかったのに、今回はそこまで強引に進めていないにもかかわらず買ったのだ。
(明日、槍でも降るのかな?)
サキは少し不思議に思いながらもスイが自分の選んだ服を手に取ってくれたことが嬉しかったので、そんな些細なことは気にしなかった。サキもスイと長いこと一緒に居るがどういう気持ちで買ったのか予想もつかなかった。
「このあとどうする?」
「あ、スイちゃん。あそこでお茶にしない? 少しお腹も空いてきたし」
「そうね」
二人は近くの飲食店に入っていく。
とてもオシャレな内装で、アルケニアよりも財政的余裕があることがうかがえた。何に関しても発展しているのはバスタガの方だ。
それはおそらくバスタガの方が色んなイベントがあって色んな国から客が来るからであろう。
街でよく配っているパンフレットによればクラン戦はもちろん、たまに剣魔法王者決定戦の舞台になることもある。だから外国から色々な催しを観戦するためにくるのだ。
サキとスイは席に着くとすぐに注文を済ませた。
「お待たせ致しました」
すぐに注文は届いた。それを食べながら雑談に花を咲かせる。それだけで数時間が過ぎ、集合時刻となった。




