第195話 不安
俺たちが建物から出るともう既に夜になっていた。そのため、今日は野宿にして俺たちは休むことにした。
そして翌日、俺は妙な既視感を覚えていた。その理由は、
「なんでユキが居るんだか……」
俺たちは男女で別れてテントを張ってそこで一夜を過ごしたはずだ。しかし、今はここにユキが居た。
おかしいなぁ、俺は一人で寝ていたはずなんだけどな。
でもこういうこと、以前にもあったような気がする。そうだ、俺がまだ宿暮らしだった頃にユユがよく俺のところに来てベッドの中に潜り込んで来ていたことがよくあった。
「むにゃむにゃ……」
「こいつは人の気も知らずに……はぁ」
朝からこういうのは本当に心臓に悪い。
隣にユユが居ようが、ユキが居ようがどうという事はないが、起きたら目の前に顔があるってのは本当にびっくりする。
まぁ、ユユで体制が出来ていたので今回は頭を抱えるだけで済んだ。
「だけど、この状況。誰かに見られたら確実にまずいよな」
その時、テントの外から声が聞こえた。サキの声だ。多分ユキを探しに来たのだろう。この調子なら俺のテントを見に来そうだな。
カナタだからあんなドライなリアクションで済むけど、他の人のリアクションは見たことないから怖い。
「お兄ちゃん。ユキちゃん見なかった?」
「ああ、見てないな」
俺の心臓はバクバクである。
サキは俺のテントを開けて聞いてきた。バレるかバレないかの瀬戸際だ。
だが、サキはユキには気が付かず、そのまま閉めて出ていった。
危なかった。咄嗟にザ・ファントムCを付与出来たお陰で何とかなった。
だけど、咄嗟に使うために早口詠唱をしたから少し疲れてしまった。早口詠唱は確かに早く魔法を使えるけどその代わり、消費魔力が大きくなってしまう。
こんな所で何をやってるんだという話だが、俺にとっては信頼に関わり、死活問題なのだ。
サキやスイから信頼を失ったら俺にはもう仲間が居ない。そうなったら俺はもう生きる意味を見失ってしまうだろう。
「よし、この間にユキを起こして」
そして俺はユキを起こした。
「ヒロト? ……えへへ」
すると直ぐにユキは俺に抱きついてきた。
いつものことなのでたいして気にはしないが、何やらにやけながらだらしない声を出している。
とにかく外に連れていかないと大変なことに。
そう思って立ち上がろうとした瞬間だった。真っ白な肌色が見えた。その色を俺は知っていた。
それはユキと初めて出会った時の格好そのものだった。
慌てて服を捜索してみると、案の定近くに散乱していた。
とりあえず、このまま連れ出してもアウトだろう。これをまずは着させないといけないみたいだ。
急がなくては……
「お兄ちゃんも一緒に探し……て」
それは予想外だ。まさか帰ってくるなんて思いもしないだろう。
完全に詰みだ。終わった……俺の人生終わった。
「え、お、お兄ちゃん。これ、どういう状況? ゆみ、分からない。思考が追いつかない」
本格的にやばい。サキがやばい現場を目撃してしまったと勘違いして思考停止し、幼児退行してしまった。
しかもユキは今何も着ていない状態で俺に抱きついているのだ。勘違いしない方が無理がある。
「違うんだ。お前は物凄い勘違いをしている」
「へぇ、お兄ちゃんは勘違いで女の人を食べちゃうの?」
「だから違うって!!」
ダメだ。弁明不可能だ。
そしてサキの様子がおかしくなったのを察知したのか、すぐそこでチラチラとこちらの動向を伺っているスイがいる。
あの様子じゃ、スイもアウトだろう。終わった……何もかもおしまいだ。
「まぁ、見ていたんだけどね」
「え?」
俺に見つかったことを悟るとスイはこっちに来て話をしだした。
というか見ていたって言ったか? どうやらスイはサキとは違って勘違いしていない様子だ。
「安心してさっきー。あなたの兄貴は何もやらかしてないわ」
「ほ、ほんろぉ」
サキはもう泣き出す寸前で、呂律も回っていない。もしスイが来るのがもう少し遅ければサキの信用を失ってしまうところだった。
「夜中にね、こそこそとユキが出ていったからついて行ってみたのよ。そしたら案の定あんたの部屋だったわけ。だから私はユキが何かやらかさないか監視――ゲフンゲフン、あんたが襲ったりしないが監視していたのよ」
なんか言い直す前、ユキの事を監視していたとか言わなかったか? 普通そこは俺の監視じゃないのか? 変なやつだな。
でも助かった。
漸くサキも落ち着いてきたみたいだし俺はそろそろここから出ようかな。裸の女の子が居る空間に居るのは結構きついし、外で待ってるとしようかな。
そう思って立ち上がろうとしたが、何かに引っ張られた――ユキだ。ユキが俺の服にしがみついて引っ張っているのだ。
「どこにも行かないで」
その言葉で昨晩、別れる時のやり取りを思い出した。
ユキは何度も確認してきた。俺は一人でどこかに行ったりしないかを。だから俺は「大丈夫だ。今のところ、お前らから離れていく気は無いよ」と言って落ち着かせていたのだが、やっぱり不安になってしまったのだろう。
だから俺の部屋に来てこうして俺がいることを確認しているのだろう。まるで親が近くに居ないと安心出来ない赤ん坊みたいだな。
でもそりゃそうか。この子は今まで甘えることが出来なかったんだもんな。なら存分に甘えさせてやるのが俺の仕事だよな。
「すまないが二人とも、このまま服を着させてやってくれないか? このままだと目のやり場に困る」
「はぁ、ヒロトは色々と甘いわね」
「でもそこがお兄ちゃんのいい所です」




