第192話 おかずの食べさせ合いは戦争だ
旅に出始めてから数時間が経った。
今はもう死戦の家は遠くなっており、本当に旅を再開したんだという事が実感させられる。
だが、あの頃とは違うのは俺、サキ、スイの他にユキが居る事だ。
先程まで泣いていたユキも今はすっかり泣き止み、満面の笑みで俺の隣を歩いている。
俺の左にはサキ、右にはユキ、後ろに控えめで歩いているのがスイだ。
スイにも隣を歩いたらどうだと誘ったが、この雰囲気に首を突っ込めるほど神経は図太くないと断られてしまった。この雰囲気ってどんな雰囲気なんだろう。
「お兄ちゃん。前方に敵が居ます」
「わかった。対処は頼んでいいか? 俺らじゃあそこまで届かない」
サキは遠距離で戦わなくてはいけないので遠くを見る力には長けていて、あの距離は約1kmくらいだろう。教えてもらわなきゃ俺も今、索敵も使っていなかったし、サキ以外に遠くを見ることができる人は居ないため、気が付かなかっただろう。
そして魔物も気が付いていないだろうからサキはこっちから一方的に弓矢を放ち出した。サキは気がついてないっぽいけど、その実力はかなりチートに近いものがあるぞ。
「って言うかヒロト、そろそろ昼じゃない?」
「ん? そうだな。腹も減ってきたな……じゃあ、飯にするか」
ここで一旦休憩にして飯にすることにした。
俺達はキッチンを借りて弁当を作ってきたので今日の昼飯の分までは飯には困らない。
「ヒロト、あーん」
「え?」
「あーん」
ユキが何故か箸でつまむと俺に差し出してきた。なんでユキは俺に食べさせようとしているんだ?
しかも顔を真っ赤に染めあげているし、恥ずかしいのだろう。恥ずかしいのならやるなっていうツッコミは野暮か?
「弁当くらい一人で食べられるぞ?」
「ヒロト、少しくらいは付き合ってあげたらどう? あ、あと、これ、自信作なんだけど食べてみて」
今度はスイが自分の弁当からおかずを箸でつまんで俺に差し出してきた。
そんなに自信作なら食べてみようかな。
「はい、あーん」
「じゃあ、いただくな」
そう言って食べようとしたら箸をスっと離された。これはよくあるあのパターンか? 食べさせてあげるとか言ってやっぱりあげないってやつか?
そんな事を思っていたらもう一回差し出してきた。
「あーん」
「え? どっちなんだよ」
戸惑いながらももう一回食べようと試みるもまた口に含む寸前で離されてしまった。
いや、本当に意図が分からない。なんのためにこんな事をしているのか……。
「あーん」
また来た。何がしたいの?
もしかして俺にもあーんって言って欲しいのか? 確かにこれはあーんの格好だけど、恥ずかしすぎる。そう考えると急に恥ずかしさが倍増してきた。
彼女いない歴=年齢の俺にはつらすぎる。
「わかったよ。やりゃいいんだろ? ……あ、あーん」
そう言うと今度はちゃんと差し出してくれたのでおかずを口に含んだ。
うん、美味い。なかなかの出来だ。
今までスイの料理を食べたことが無かったから知らなかったがスイは料理が上手なんだな。
「うん、美味いと思う。正直こんなに美味いとは思っていなかったけど、すごく美味しいよ。弁当でこのクオリティを出せるものなんだな」
俺が感心しながら感想を述べていくと褒められるのが恥ずかしいのか顔を染めながら、でも今回の自信作を褒めてもらって嬉しいのか誇らしげにしていた。
そうだ。貰ってばっかりなのも悪いよな。そう思って俺も箸でおかずを一品つまんでスイに差し出した。
スイも言っていたし、ここはこれが正解なのか?
「あーん」
「え?」
スイは驚いた表情をしている。まぁ、俺も似たような反応だったからどうして驚いているのかは分かる。
「貰ってばかりだと悪いからな。ほら、口開けて。あーん」
「そ、そういう事ね……。じゃあ、遠慮なく。あーん」
パクっ。
スイは俺の差し出したおかずを口に含むと味わうようにゆっくりと咀嚼し始めた。
俺のは得意な中華じゃ無いから上手く出来たか分からないから、そんなに味わわれても困る。でもスイが嬉しそうだからいいか。
「スイちゃんが自然な流れであーん&関節キスをした」
「ちょ、さっきー!? 違うから! これはそういうあれじゃないから!!」
「そういうあれってなに?」
珍しい。サキがスイをジト目で見ている。ユキに至っては睨んでいる。物凄く怨念の籠っていそうな目でスイを見ている。
するとユキは今度は自分のおかずでトライしてきた。なんでそんなに俺に食べさせたがるの? もしかして俺をペットかなにかだと勘違いしてない?
「こうなったら私も対抗です」
「いや、なんでお前らそんなに俺に食べさせたがるんだよ」
サキまで差し出してきて収集がつかなくなってきてしまった。
そんなこんなでこの状況をどう切り抜けるか困っていると突然背後の森から殺気を感じた。恐らく魔物のものだろう。
多分スイも気がついている。サキとユキに至っては争うのに夢中になっていて気がついていない可能性が大きい。
念の為に倒しに行ってくるか。多分俺らなら負けることは無いけど不意を突かれるのは厄介だからな。
そして俺は立ち上がり、森の中に入っていった。
すれ違いざまにスイが「行ってらっしゃい」と言ってきたので右手を振っておいた。




