第191話 新たな旅へ
あのデスワイバーン戦から更に一週間が経った。
雪もすっかり溶け始めるくらい暖かくなり、この間のデスワイバーン戦の影響もあるが、この辺りの雪はキレイさっぱり無くなっていて、冒険を再スタートするにはちょうどいい気温となった。
なのでそろそろ出発しようと思っているので今は最後の修行をしている。と言っても最終確認で対して修行らしいことはしていないが。
二人にも見守られている。
あの戦いの後、みんなかなりのダメージを負ったので少し休んでいたから少し力が落ちているかもしれない。
「ヒロト、頑張って」
「おう」
ユキに応援される。
ユキは俺が休んでいた時に一番看病をしてくれた。別にそこまで重症じゃないから大丈夫と言ったのだが全然聞き入れてくれなかった。
でもユキには本当に感謝している。
これから旅に出なきゃいけないから少し寂しい思いをさせてしまうと思うとこっちまで寂しくなる。
何気に知り合ってから一番一緒に居たのはユキだからな。
「じゃあサキガヤ屋。やってみろ」
「わかった」
暫くぶりの力のコントロールだ。デスワイバーン戦では成功したが、今回も上手くいく保証はどこにも無い。そのために変な緊張感が俺を襲う。
「スキル発動『身体強化』」
俺は一週間ぶりにスキルを発動した。やはり体に力が溢れてくる代わりに少し疲れやすい。
だけど最初の頃よりは疲れにくくはなってきている。
「行くぞ」
掛け声をして自分を鼓舞する。
これは宣言ではなく、自分を落ち着けるための言葉だった。
そして深呼吸をすると目の前に置かれたサンドバックを見る。とても軽く、修行中何度もぶっ飛ばしたあのサンドバックだ。
あの軽さを知っているが故にデスワイバーンには効いたけどサンドバックには出来ないんじゃないかと不安になってくる。
「できる……よし」
俺ならできる。そう思うことで緊張感をやわらげた。
そして俺は右手を大きく振りかぶった。全力を右手に込め、そして思いっきり振り下ろした。
ついに俺の右手はサンドバックを殴り付けた。しかし、サンドバックは一切微動だにしなかった。
「うむ。1500kgか……全力を放って微動だにさせないとは成長したな」
ユーザから初めてそんな言葉を貰った。
今のユーザは子供が成長したことを喜ぶ親みたいな表情になっていた。そして俺もこのサンドバックでやって改めて出来るようになったことを実感して嬉しくなってくる。
「合格だ」
ユーザのお墨付きだ。俺は力のコントロールが出来るようになったのだ。
これで思い残すことは何もない。後は旅に出るだけだ。
「修行をつけてくれてありがとうございました」
「け、お前から感謝の言葉なんか聞きたくない。いつも通りふてぶてしくしてろ」
人がせっかく感動して例を言ったのに、その感動をぶっ壊しやがった。
でも自分でもユーザに礼を言う自分とか、気持ち悪くて吐き気がしてきた。
「これからお前らは旅に出るんだろ?」
元々は旅に出ても大丈夫な時期までっていう約束だったため、もう旅に出なきゃいけない。
ユキは俺達が旅に出ることを知らないため、ユキは困惑している様子。
「旅って?」
「元々ここに居るのは寒い間だけっていう約束だったんだ。もう旅に大丈夫な時期になったから旅に出るって事だ」
俺が説明すると一瞬驚いたような表情をした後に悲しそうな表情になった。そんな表情をしないでくれ、旅に出辛くなる。
でも俺らはアルケニアに居ちゃいけないんだ。ここは辺境の地だからまだ見つかっていないが、見つかったら大変なことになる。だから出来るだけ早く出ていかなくちゃいけない。
「そうだったな。じゃあ、旅に出るって事でいいな?」
「はい」
そう言うとユーザは目を閉じた。
これはユーザがスキルを使う時の構えだ。俺らの事でも占っているのか?
「うむ、出たぞ。次に行くのはバスタガ王国が一番いいだろう」
バスタガ王国……? 前に聞いたことがある。
そう言えば前にカラタさんが言っていたな、故郷だって。そして家族に自分が死んだことを伝えて欲しいって。
これは良い機会かもしれない。カラタさんとの約束を漸く果たせる。こんな感じに行くことになるとは思わなかったが……。
「バスタガねぇ。バスタガって確かクランとかがとても栄えている国で、年に数回クランバトルが行われている国だったよね」
なんでこんなに詳しいのだろうか。しかもなんか楽しそうだ。そんなに行きたい国だったのか?
まぁ、嬉しそうだから俺も嬉しくなってくる。
でも気になるのはユキの事だ。ユキは俺が旅に出ると言ったら悲しそうな表情になった。
「じゃあ、君たちはバスタガ王国を目指していくといい。場所はここから北にずっと行った場所だ」
「ああ、じゃあ、俺達はもう行くよ」
今日既に行くことにしていてもう出ていく準備は済んでいる。いつでも旅に出ていくことができる。
そしてもう出ようとしたが俺だけユーザに止められた。
「なんだ?」
「お前には死が見えている」
衝撃的なことを告げられた。俺に死が?
俺は今まで色んなことをくぐりぬけてきた。でもここで死ぬってことか?
でも俺はあいつらを守って死ねるなら本望だ。
その時、みんなの顔が脳裏に浮かんだ。俺が死んだらどんな顔をするんだろうか。
どの道みんなを悲しませてしまうだろう。
「俺は死なないよ。みんなのために」
「俺の予言は絶対だ」
「そうか、じゃあユーザの予言が初めて外れる。ただそれだけの事だ」
それだけ言って俺は先に行ったサキとスイを追いかけた。
外に出るとみんな見送りに来た。
ここの人達は優しい人が多くて、ここでの生活は悪くは無かった。最初はどうなるかと思ったが修行の日々も悪くはと今はそう思う。
「みんな、さようなら」
「じゃあね」
「ありがとうございました」
それぞれ挨拶していく。
するとユキがこれで最後とばかりにいつもより強めに抱きついてきた。俺も多分同じ気持ちなので今回は抱き返してあげると満足そうな声を出した。
隣でロリコンというツッコミが聞こえたが、気にしないことにした。それだけ今のこの瞬間は俺にとって大切なのだ。
「ヒロト、今はこれで終わりだけど、これで終わらせる気はないから。ぱ、パートナーとしていつでも待ってる」
「あぁ、いつかまた一緒に戦おうな」
撫でてあげると気持ちよさそうな声を出した。
「じゃあな。元気で」
「うん。ヒロトもね」
こうして俺達は新たな旅に出た。ここで仲間になった人達の事は絶対に忘れないと誓った。
☆☆☆☆☆
「お前はこれで良かったのか?」
その問の意味がユキには理解できなかった。良いも悪いも、この場ではこうするしか無かった。それが答えだった。
「ユキ、お前は彼の事が好きなんだろ?」
「……はい」
ユキは裕斗の事が好きになってしまった。
辛い時に声をかけてくれた。自分の事を親身になって考えてくれた。それがあの答えだったのだろう。そう思うと心がポカポカしてきた。
「別れるのが辛いか?」
「……はい」
辛いに決まっていた。ユキにとって裕斗は初恋だった。だけど堪えたのだ。気を緩めたら行かないでと言ってしまいそうなのを必死に堪えたのだ。
もう限界に近かった。その場で崩れそうになった。その時だった。
「なら行け。男に現を抜かす者はこの場にはいらない」
いつもみたいにきつい言葉だった。でもユキは気がついた。この言葉はユーザの優しさなのだと。だからユキの涙腺は限界に達し、ついに溢れでてしまった。
嬉し涙だった。
今のユキにはさっき別れを告げたのにカッコがつかないってのは関係無かった。今すぐにでも裕斗たちのもとへ行きたかった。
「……はい!」
だからユキは泣きながら返事をした。
そしてユキは駆け出した。その時の表情はずっと緩みっぱなしだったという。
☆☆☆☆☆
「いつまでなよなよしているのよ」
「だってよ」
俺達が歩き出してからずっと俺はユキの事が心配で心配でしょうが無かった。
あの家には優しい人が集まっているが、それでも過去のトラウマで、あそこに居るのは大変だろう。
「大丈夫かな……」
「きっと大丈夫――」
その時だった。
「ヒロト!」
この声は俺が今一番聞きたい声だった。だが、ここに居るはずがない。驚いて背後を見てみるとそこには俺が今一番求めていた人物が居た。
「な、なんで……?」
「はぁ、やっぱりこうなったわね」
「良かったね」
そのこえの主はユキだった。
必死に走ってきていて、今にも抱きしめてあげたくなった。
俺のところまで来るとユキは俺に勢い良く抱きついてきた。それを俺は受け止める。
「ヒロト、さっきぶりだね」
そういうユキの顔は涙で濡れていて、さっきまで泣いていたのが分かる。きっと物凄く悩んだのだろう。そしてこっちへ送ったのはきっとユーザだろう。
あの人もたまにはいいことをする。
「でもなんでこっちに?」
「あんた、相当鈍いわね。この子はあんたと一緒に旅をしたいのよ」
「そうなのか?」
「いつかとは言わずに今からパートナーとしてよろしくお願いします!」
ぺこりとお辞儀してくる。
俺はこの子の事を考えていたが、自分の事は考えていなかった。だけど、今わかったことがある。それは、俺もこの子と旅をしたいという事だ。
「こちらこそよろしくな」
「ついでに人生のパートナーにも……」
「何か言ったか?」
ユキの声が小さすぎて聞こえなかった。
「なんでもないよーだ。じゃあ、早速バスタガへしゅっぱーつ!」
「おい、お前が仕切るな!」
ユキの顔は真っ赤に染っていた。その赤くなった原因は全く分からないが、アルケニア城下町を脱出してから初めて楽しい旅になりそうだと思った。
これで死戦の家編終了です。長かったですが次回からはバスタガ王国を目指していきます。
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