第189話 スキルの特訓17
力のコントロールはどうやら成功したみたいだ。
「ヒロト」
背後から聞こえるユキの声。その声は信じられない物を見たかのような声だった。
同時にデスワイバーンは叫び声をあげた。
ぶっ飛ばないって事は衝撃を逃がすことが出来ないって事だ。だから、今殴った分の衝撃が全てデスワイバーンを襲った。
その一撃で力を使い果たしてしまった俺はスキルを解除してしまう。
まだ魔力は腐るほどあるものの、相手を殴る体力は残っていない。そのため、必然的に後方に下がるしかなくなる。
「ヒロト、どうしてそこまでして」
「なんでなんだろうな。俺も正直わからねぇ。だけど、一つ言えることは、あいつらの存在が俺を強くさせているって事だ」
俺は単体で言うなら最弱だろう。だけど俺は仲間が居ると強烈な力を発揮する。
だけど、今俺を強くさせたのはサキでもスイでも無かった。俺を強くさせたのはこの子だった。
短い時間だったが、俺の中でユキはかけがえのない大きな存在となっていたのだ。
来る日も来る日も毎日俺の部屋に来て修行にサポートをしてくれていた。そんなユキをただの同じ場所でお世話になっている子とは思えない。
「俺の中ではユキは立派な仲間だ」
「え?」
「だからユキにはそんな顔をして欲しくない。俺たちはお前を拒絶したりなんかしない」
「な、何を言って」
そこでとあることが閃いた。
ユーザは意味の無いことを言う人じゃ無い。そしてあのタイミングで放った言葉。全て辻褄が合う。
「ユキ、お前はみんなを守りたくは無いのか? せっかく出来た仲間を見殺しにしたいって思うか?」
「そんな馬鹿なことあるはずがない! 私だってこの場所を守りたい! 見殺しになんて出来るわけない! 私にとってここは命を救ってくれた大切な場所だから!」
俺はそれを聞いて物凄く安心した。ここで再び自分の命大切さに見捨てるとか言い出したら軽蔑していたところだ。
だが、今の答えは俺にとって充分過ぎるほど理想の答えだった。
自分を助けてくれた場所だ。今のユキの表情からは逃げ出したいという意思は感じられなかった。
その目に宿っているのは闘志だ。
「一緒に戦ってくれ、ユキ」
「うん。もう絶対に逃げようなんて思わない。最後まで戦うよ!」
「そうか。なら、俺に力を貸してくれ。『幸平』!」
「え?」
ユキは俺のその言葉を聞いた瞬間、素っ頓狂な声を出した。そして戸惑い始める
しかし。ユキの体はそんな戸惑いなど知るものかと俺の言葉に反応して光り始めた。全身を包む白い光り。それを見てユキは今の状況が分かったのか戸惑いが消えた。
「そうか、ヒロトは知っていたんだね。これは一本取られたよ」
ユキは少し嬉しそうに笑った。何せ、この力があることを知っていて尚、自分を拒絶しなかったのだから。そう思ってユキの目には涙が溜まっていた。
「うん。私はヒロトに全てを捧げる」
その言葉を言うとユキを包んでいる光りはみるみると剣の姿へと変化していく。
ユキを包んでいた光りが完全に剣の形になると光りが弱くなっていき、完全に消えると中から一振りの剣がでて来た。
それを見ての第一印象は、綺麗だった。
刀身がキラキラと青白く光を反射しており、その剣が宙に浮いていた。その光景は神秘的なものを感じた。
その剣は徐々に近ずいてきて、俺が手を出すとその中にピッタリと納まった。
握り心地は俺が持ちやすいように調整されているのかとても握りやすい。重さもずっしりしていて、振りやすい。重すぎても軽すぎてもダメだと聞いたことがある。だが、この剣はちょうどいい重さだ。
「これがユキ……よし、これで戦える」
拳で殴る力はもう残っていないが、剣を手に入れたのなら話は別だ。この剣で俺はもっと戦える。
「待たせたなデスワイバーン。咲ヶ谷裕斗、復活だ」
『ヒロト、ありがとう』
その瞬間、俺の中に直接声が響いてきた。でも戸惑うことは無かった。何せ、この声は何度も聞いている声だからだ。
ユキだ。この声はユキの声だ。
多分、この剣を俺が使っているから剣になったユキの声が聞こえているのだろう。そう考えると嬉しかった。
剣になっている間はただの剣になるのかと少し寂しかったが、これなら心配は要らなかったようだ。
「さて、ユキ。準備はいいか?」
『うん、いつでもいいよ』
「オーケーだ。じゃあ、行くぞ」
俺はデスワイバーンに剣を向ける。
するとさっきまで俺が殴った痛みでもがいていたデスワイバーンもここからが本気だと言わんばかりに威圧を放ってきた。
俺は異常な精神力によって守られているが今俺の手にはユキがいる。だからこんな至近距離で威圧を浴びて大丈夫か少し気になった。
『私は剣になっている間は外界のどんな影響も受けないから大丈夫』
どうやら大丈夫のようだ。なら遠慮なく使わせて頂こうか。
「行くぞ、デスワイバーン!」
俺はブーストの力を借りて斬りかかった。しかしデスワイバーンはそんなことはさせないとばかりに俺に向かってブレスを放ってきた。
こんなのを今の体力で受けたら一溜りも無い。咄嗟に横方向へとブーストをかけてそのブレスを回避した。
しかし、逃がさんとばかりに横方向へ躱した直後でブーストをすぐに発動出来ない状態の俺を踏みつけようとしてきた。
デスワイバーンの大きさは足だけで俺より圧倒的に大きい。ならばあれが使えるはずだ。
「俺はここに居てここに居ない『ザ・ファントム』」
この魔法は自分より大きければ発動する。だから俺より圧倒的に大きいデスワイバーンの足はいとも容易くすりぬけに成功した。
その状態で俺はアンチグラビティーの力も活用して飛び上がった。
飛び上がってから解除し、再び触れられる状態に。
しかし、デスワイバーンは驚きのあまり、固まってしまったのでその隙を見逃すことはなく、俺はしっかりと剣を握ってデスワイバーンを斬りつけた。
久々の感覚だ。でも剣で斬る感覚は体が覚えている。
「どうだ? これが俺の本来の戦い方だ。さぞかし痛いだろう」
デスワイバーンはあまりの痛さに倒れ込んでもがく。
この剣はとても切れ味が良くて使いやすい。
『左に避けて』
突然とユキが放ったその言葉。どういう事だろうと思いながらもユキの言う通りに空中でアンチグラビティーを使って左に避けるとデスワイバーンが苦しみながらも右の腕で殴りかかって来て、元居た場所にはデスワイバーンの拳があった。
この一撃は予想外だった。ユキが教えてくれなかったら俺はあの拳に突き飛ばされていただろう。
確かに傷とか痛みとかはヒールでどうにかなるが体力的にはもう限界を超えていたので今の一撃を食らっていたら確実に落ちていた。
「ありがとうな」
『礼は要らないよ。当然の事なんだから……だって、な、仲間なんでしょ?』
「そうだな」
そうだ、俺達は仲間だ。仲間内で助けられ助け合うのは当然だ。助けられたのならこっちも同じくらい助ければいい。
「さぁーて、今度はどんな一撃を与えてやろうかな」
俺は地面に降り立ちながら剣を向けて言った。
☆☆☆☆☆
「そ、そんな馬鹿な!? あのデスワイバーンに勝っている!?」
「だから落ち着くように言っただろう」
ユーザの部屋。そこでユーザと使用人がユーザのモニター魔法で裕斗たちの戦いの様子を見ていた。
途中ひやひやさせられる場面もあったが、裕斗が力のコントロールに成功したり。ユキが剣化して裕斗と戦ったりと色々な情報がありすぎて使用人の頭の回転が追いつかない。
しかし、ユーザはこうなることを予想していたのだ。裕斗なら絶対にユキの心を溶かせると。
「しかし、こうして見てみると面白いコンビだな」
「何がです?」
「サキガヤ屋とユキ。司令塔と先読みのコンビだ。サキガヤ屋の作戦とユキの行動把握。この二つが集まったら世界を変えるほどの強大なコンビになるぞ」




