第857話 事後の報告と学院の利用方法。
アンダーセンがマイヤーの息子ルーク・マイヤーの取り調べの様子を語っていた。
2日前進路について父と喧嘩をし、家を飛び出して街中をうろついていた。
夜は危ないので起きていて、昼間は寝ていたという。
でアリス達に路地で発見する前に街のチンピラに絡まれ路地に連れ込まれ恐喝と暴行、相手は4人だったとの事。
金は持っていたが、少なかった為に結果的に暴行を受けた。
父親関係の恨みとかそういった言動は相手から出て来なかったと話している。
「以上が聞き取りの内容になります。」
「警備局から何か言われましたか?」
「研究所の人員を狙った犯行ではないだろうとの見解です。
明日に王都全街区を対象に捜査を行うので行動を起こすなら明日まで待って欲しいとの要望です。」
「・・・警備局がそのように動くのなら・・・とりあえず待ちです。」
武雄が考えながら頷く。
「わかりました。
マイヤー殿のご子息はどうしましょうか?」
「進路についてですよね。
他人が家の事情に踏み込むべきではないですが、何を争っているのですか?
前に聞いた時はマイヤーさんは王立学院でも魔法師専門学院でも良いような事を言っていましたが。」
「息子さん、商人か職人になりたいようです。」
「良いんじゃないですか?
親の仕事を子が継がないといけない訳ではないのでしょうから。」
「所長・・・良いんですか?」
「ん?何がですか?」
「うちもそうですが・・・マイヤー殿は確か奥様も元魔法師です。
息子さんは潜在的な魔力量は高いはずです。
将来優秀な魔法師になり得ます。」
「それはやる気があればですよ。」
武雄が間髪いれずに答える。
「それはそうですが。」
「素質だけでもやる気だけでも上位は狙えないでしょう。
アンダーセンさん、魔法師専門学院とは素質だけで上位が取れる程度なのですか?」
「違います。
才能があり努力を惜しまない者しかなれません。」
「そうでしょうね。
そして才能だけで20位程度にはなれたとしましょう。
その者は学院を卒業し、社会人になったら使えるのでしょうか?
いや・・・違いますね。私達が使いたいかですね。」
「・・・要りませんね。
才能だけで生きていた者は決定的な時に取り返しがつかないミスをするのが往々にしてあります。
部隊が危機に瀕するのはわかっているのなら、そのような者を戦場で横には置けないでしょう。」
「戦場ではどうだか私にはわかりませんが、少なくとも採用をするなら素質はそこまで高くはないが、苦労を重ねて何とか30位くらいで卒業を掴み取った者を雇った方が苦労がわかる分、実際の仕事は出来ると思います。」
武雄も頷く。
「パメラ・コーエンですね。」
「彼女の場合は素質は十分だが、力の使い方がわかっていないのです。
力の使い方がわかれば自ずと成長するでしょう。
それに魔法師専門学院で苦労もしています。めげずに何事にも挑戦してくれそうです。」
「所長にとっては落第者ではないのですね。」
「ふふ、アンダーセンさん。
私がそもそも魔法師の素質がないんですよ。
あの学院に居るだけで私よりも素質はあるんです。
それに資料にあったでしょう?彼女の素質は最上位だと。
なので、誰も見向きもされない宝石の原石を買ったような物です。
彼女は大きな宝石を秘めていると思っていますよ。」
「それを宝石に加工するのが私なのですね。」
アンダーセンがため息を付く。
「出来るだけ大きく、綺麗にカットしてくださいね。」
武雄がにこやかに言う。
「と、ニール殿下やクリナ殿下の前でする内容ではなかったですね。」
「いーや、十分に為になる話だったぞ。
気にしないで話を続けてくれ。」
ニールが楽しそうに言う。リネットもクリナも真剣に聞いていた。
「はぁ、まぁ良いでしょう。
で、マイヤーさんの息子さんでしたね。
商売も職人も素質としてはどう判断して良いかわからないですね。
させるにしても贔屓にしているような店や工房に入れた方が良いでしょう。」
「所長ならどうしますか?
もしご子息が13歳になって職人や商人になると言い出したら。」
「ん?王立学院にぶち込みますよ。」
武雄がさも当然のように言う。
「・・・所長・・・さっきと言っている事が違いますけど・・・」
アンダーセンが額に手を当てガックリとする。
「正確には商人になるのも職人になるのも否定はしません。
ですが、15歳まではこちらの指示に従って貰います。」
「それはどうしてですか?」
「1つ目はコネ作りの為に王立学院を使います。
寄宿舎に居る一般の生徒は王都の商売人や文官の子息だそうです。
3年間一緒に居れば卒業後の商売で何かしら役に立つでしょう。
2つ目はそれが本当にやりたい事なのか確かめる時間を作る為です。
若いのです、世の中を良く知らないでしょう。
勢いで言っている可能性もあります。
同世代の貴族の息子や商店の息子などいろんな人間を見て本当にやりたい事を探させるのが良いでしょうね。
自分と同い年だが自分より才能がある者やその逆を見聞きすればやりたい事も変わるかもしれません。
もしくはさらに商人か職人になりたいと思いを強くするかもしれません。
本人のやる気を削いでしまうかもしれませんが、とりあえず15歳までは勉強に費やして貰います。」
「なるほど・・・そういう考えもあるのですね。」
アンダーセンが頷く。
「どちらにしてもマイヤーさんの家族の問題です。
私がとやかく言う事ではないでしょう。
それに・・・トレーシーさんの例もあります。
回り道をさせるという考えも良いかもしれないのは確かですね。
・・・あ、待てよ・・なら王立学院に入れさせて卒業後に魔法師専門学院に入れるという裏技も・・・」
「所長・・・それはどうなんですか?
した事を聞いたことがありません。」
「案外面白いかもしれませんよ?
王都のコネもあって魔法師の訓練もされている。双方に知り合いがいるなんてなかなかいない人材ですよ。」
「・・・そのやり方を教えたら軍務局か人事局が手を上げそうですけどね。」
「ふむ・・・少し考えてみましょうかね。」
武雄が考える。
「タケオ、それ第2皇子一家でしてみるか?」
ニールが話に乗って来る。
「ニール殿下・・・おやめください。
所長の戯言ですよ?」
「タケオさんの戯言ですか。でもその考えは良いですね。
学院に入れなくともそう言った人材を作る為に財源か施設を用意する事は必要なのかもしれないですね。
人材育成とコネ作りが同時に出来るなら意外と安いのかも。」
リネットも考える。
「リネット殿下・・・」
アンダーセンが「この人達本当にしそうだ」と困り始める。
「ふふ、面白いですね。」
「所長が焚き付けたんですよ?
変な提案を軽々しくしてはダメです。特に王家の前ではです!」
「はいはい。」
武雄が楽しそうに言うのをアンダーセンが叱るのだった。
------------------------
厨房横の部屋にて。
男2人が椅子を並べて隣の会話を聞いていた。
実はアンダーセンとマイヤー親子は一緒に厨房の前に来ていた。
そしてアンダーセンと武雄の会話を聞く事で今後の参考にしようとなっていた。
「ルーク、すまなかったな。」
「父さん、俺こそごめん。」
「で、所長が言った事なんだがな。」
「うん、キタミザト卿が言っている事はもっともだよ。
俺も今の感情が本物なのかもう一度考えてみる。
そして魔法師専門学院に入るかももう一度考えるよ。」
「そうか。
だが、商人か職人になりたいと言ったら所長が言ったやり方でお前を王立学院に入れようと思う。
どんな商売をしようともお前にはまだ知識が足らない。
よく勉強して王立学院を卒業したら好きにして構わん。」
「・・・わかったよ。
王立学院か魔法師専門学院か・・・父さんが出張に行っている間に結論を出すよ。」
「そうか・・・わかった。」
ひっそりと親子喧嘩が終わりを告げるのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




