第783話 84日目 今日も終わった。(ぐったりな武雄と筋肉痛のスミス。)
夕飯も終え、アリスと武雄はベッドでゴロゴロしていた。
「あぁ・・・疲れました・・・」
武雄がベッドにうつぶせになりながら呟く。
「タケオ様、そんなに疲れたのですか?」
アリスが武雄の横でのんびりとしながら言ってくる。
「ええ・・・研修は疲れます。
今日の午後は国家体制の話をしていました。」
「難しそうな議題ですね。」
「いや、私達新人貴族に対して『今の国家体制の維持』を目的とした講義でしたよ。
あれだけやられれば今の体制を変えようとは思わないでしょうね・・・」
「タケオ様は何か言われましたか?」
「いいえ、特には。
周辺国の政治体制の考えを言ったり聞いたりして『現状は変える必要はない』と結論付けて終わらせましたよ。
むしろ私よりバビントン殿とアルダーソン殿の方がオルコット宰相の追及が凄かったですね・・・
あぁ無難に終わって良かった・・・」
武雄は枕に顔を埋めて感想を述べる。
アリスはそんな武雄を見ながら「いや、タケオ様が恐怖する追及って何?」と恐ろしく思うのだった。
「タケオ様、研修は終わりなのですよね?」
「はい、明日から自由です。
今王都では馬車市が開催されているそうで明日の午前中にでも見に行きたいですね。
その後で寄宿舎に行って受付と部屋の確認をしたいです。」
「そうですね。
寄宿舎はスミスとジーナちゃんが見れば良いので受付だけしっかりとしないといけないですね。
それと馬車はタケオ様用ですね。」
「馬車ですか・・・私的には今の所使う用がないのですが・・・
アリスお嬢様用か近距離用ですかね。」
「タケオ様、たぶんこれから高い頻度で使用しますよ。」
「そういうものでしょうか。」
「はい。もう貴族なのですから他の方の屋敷に行く場合は基本的に馬車になります。」
「・・・時間を節約する為に馬で行くというのはダメなのですか?」
「そう何時までも馬で移動は出来ませんよ。
まぁ近場のゴドウィン領やウィリアム殿下領なら良いかも知れませんが・・・いや、緊急時以外は馬車の方が体面が良いでしょう。
なので基本的に馬車移動に慣れて貰います。
領内は馬で結構ですよ。」
アリスが考えながら言ってくるので武雄は「これも追々決めていけば良いことか」と思うのだった。
「そういえば昼食の後、私は研修に戻りましたがアリスお嬢様は何をしていたのですか?
研修から戻って来たら部屋に居ましたので気になりませんでしたが。」
「・・・アニータ達の練習を見ていましたよ。」
アリスが真顔で返してくる。
「2人ともどうでしたか?」
「まだ始めたばかりですから・・・『今後の成長に期待』という所でしょうか。」
アリスが苦笑する。
「なるほど。」
武雄は「新人さんが多い部隊になっちゃったなぁ」と思うのだった。
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ここはスミスの部屋。
「痛っ・・・
はぁ・・・王都守備隊の修練になんで僕も参加させられるのですか・・・」
スミスがベッドにうつぶせで寝ている。
「ジェシー様、ジャガイモを擦り終えました。」
ジーナがジャガイモを擦り下ろしたボールを持って来る。
「はいはい。
じゃあ、これを布に挟んで筋肉の上に置きましょう。」
「はい。」
ジーナがジェシーに言われたようにガーゼのように薄い布に摩り下ろしジャガイモを挟んでスミスの背中に乗せる。
「ひゃっ!?」
「あら♪スミス可愛らしい声ね。
我慢しなさいよ。」
「うぅ・・・なんでケアをしてくれないのですか?」
「ケアをしたら筋肉にならないでしょう?
この筋肉痛がないと筋肉は付きませんからね。
それに今日の午後の剣技の訓練でわかったわ。
スミス、鍛え方が足りないわね。もう少し筋肉を付けなさい。」
「ちゃんとハロルドに習っていますよ?」
「足りないわよ。
もう少し腕と背筋と腰回り・・・全体的に足りないわね。
ロングソードを振り回せとは言わないけど、ショートソードをもう少し長く振り回せるくらいに体に筋力は付けるべきね。
女の子にモテないわよ?」
「・・・そこは別に気にしませんけど・・・
タケオ様やアリスお姉様はケアをバンバン使っていますよ?」
「あの2人は例外ね。
アリスなんて回復では無限に近い回復をしているみたいだし。
タケオさんなら『体力が無いなら無いなりに戦えば良い』なんて言いそうね。」
「僕もそれが良いんですけど。」
「タケオさんみたいにアリスの攻撃を完璧な形で受けられる程になったらして良いわよ。」
「・・・修練頑張ります・・・」
スミスがガックリとする。
「まぁ、明日の朝にでもタケオさんに言ってケアで筋肉痛を取って貰いなさい。
今日ので筋肉はある程度出来始めるだろうからね。」
ジェシーが席を立つ。
「じゃ、スミス、お休み。」
「スミス様、失礼いたしました。」
「ジェシーお姉様、ジーナ、ありがとうございます。
おやすみなさい。」
ジェシーとジーナが退出していくのをスミスは横目で見ながら睡魔に体を預けるのだった。
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ここは王城内の第2皇子一家の居室。
「~♪」
エイミーが懐中時計を見ながらニコニコしている。
その様子をニールとクリナが寝る前のお茶をしながら見ている。
「・・・お父さま。」
「ん?どうした・・・リネットは明日まで会議だぞ?
寂しいだろうが今日は俺と寝ような。」
「いえ、お父さまと寝る気はないです。
エイミーお姉様、機嫌が良いのですけど。」
「・・・うぅ・・・
エイミーについては・・・まぁ良いんじゃないか?
それにしてもクリナはショックだったか?」
「何がですか?」
「アリスがタケオに負けただろう?」
「タケオさんはアリス様の婚約者です。
嫁に勝てないような者がアリス様の横に立つわけありません。
なのであの結果は驚きましたが、不思議ではないです。」
クリナが胸を張って言い切る。
「・・・いや・・・そうか・・・」
ニール的には「相当タケオはギリギリの勝負をしていたんだが」と思うが、娘の言い分を否定するのも悪いので言わないでおく。
「で、エイミー。」
「はい、父上なんでしょうか。」
エイミーがニールを見る。
「今日のスミスの雄姿はどうだった?」
ニールがニヤニヤしながら聞いて来る。
「・・・まだまだです。
王都守備隊に一太刀も浴びせていません。」
「いや、あの王都守備隊の連中の剣を最後まで受け切っていたんだ。
大した者だぞ。」
「・・・諦めない姿勢は大したものです。
でもまだまだです。」
エイミーはそう言いながらも機嫌は良いようだ。
「ふーん・・・」
「何ですか父上。」
エイミーが「ん?」と首を傾げて聞いて来る。
「いや・・・特にない。
スミスは良い男に育つといいなぁと思うだけだ。」
「あれだけ諦めないなら良い男になりますよ。」
ボソッと誰にも聞こえない音量でエイミーが呟く。
「ん?何か言ったか?」
「何か聞こえましたか?」
エイミーが顔色を変えずに聞き返すのだった。
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