第5話|こねて叩いて、心もスッキリ!……するはずだったのに
「ロゼリア様、おはようございます。 今日も良い天気ですよ」
カーテンを開け、窓の外を伺いながらアメリーが言う。
「おはよう……」
私はというと、昨日はあまり寝られなかった。
なんの前触れもなく、婚約の申し入れだもの。
せっかく平穏な日々を楽しんでいたのに……。
でも、うじうじしてるのは性にあわないし。
「今日は何をなさいますか?」
「うーん、そうね……」
昨日は色々ありすぎて、何も作れなかったし……
「今日はお料理に集中するわ。 アメリーも試食お願い出来る?」
「まぁ、私でよろしいんですか? ロゼリア様のお料理楽しみです」
「もちろんよ、楽しみにしてて」
朝の用事を済ませた後、早速専用キッチンへ向かう。
「まずは──」
パンを作ろう。それもとびっきりふわふわなやつを。
もやもやした気持ちも、こねて叩いて焼いてしまえば、少しは晴れるかもしれない。
小麦粉を計量し始めると、途端に楽しくなってくる。
「強力粉に砂糖、塩……塩は端に置いておくの。イーストに直接触れると膨らみに影響が出ちゃうのよ」
「まぁ……そんな違いがあるのですね」
温めた牛乳に溶かしたイーストを入れて、中央にくぼみを作った粉へと流し込む。
木べらでゆっくりと混ぜる。
そこに溶き卵を入れて捏ね始める。
最初はベタベタとして頼りない生地も、やがてひとまとまりになってくる。
「ここからが勝負よ」
台に出し、押して、たたんで、向きを変えて。
時には台に叩きつける!
単純な動作。
でも、ここで捏ねた分だけ美味しくなると思うと手は抜けないのよね。
「そんなに叩き付けるものなのですか?」
食事を作る工程の中で、食材を叩き付けるという行為に少しびっくりした様子のアメリー。
「ふふ。 アメリーも少しやってみない?」
「良いのですか?それでしたら……」
アメリーは怖々と生地を触り、捏ねて叩いてを繰り返す。
「……なんだか、叩きつけるたびに気持ちがすっきりしてきますね」
「でしょう? こうしてると、モヤモヤした気持ちもどこかへ行ってしまうの」
バターを加え、さらにつるりとした表面になるまでこね上げる。
指でそっと押すと、弾力がゆっくり戻るのを感じる。
「これで良し、と」
「これがパンになるんですね……つるりとして可愛いです」
「ふふっ、愛着が湧いてしまうわよね」
まとめた生地に、濡れ布巾を優しく被せる。
「さてと、一次発酵に入るわ。 ……その間、何しようかしら」
「休憩なさいますか?」
「うぅん……そうだ、パンに合わせてスープを作ろうかしら!」
手早く野菜の皮を剥き、みじん切りにし、塩を少し振って軽く炒める。
そして野菜の皮は捨てずに、別の鍋で煮込む。
「ロゼリア様…… この野菜の皮達は……?」
「皮って栄養が詰まってるの。 だから皮から出汁を煮出すのよ」
「知りませんでした。 ロゼリア様は博識ですね」
「ほ、本で見たのよ」
危ない危ない。
前世の知識もフル活用してるなんて言えないもの。
「野菜を炒めて甘味を出したら、煮出したスープを入れて……」
野菜の皮を濾して、炒めた鍋に合わせる。
「チキンブイヨンも入れて…… しばらく煮込んで味を見ておしまい」
「まぁ…… こんなに手早く出来るなんて。 ロゼリア様、凄いです!」
「ありがとう。 さて、パンの発酵もそろそろいいかしら」
布巾をめくると、2倍に膨らんだ生地。
指に粉を付けて生地をさして……うん、穴は戻らないわね。
生地を6等分にして、それぞれを丸め直して。
……形はどうしよう?
シンプルに丸くしてもいいけど…… そうだ。
生地を楕円形に伸ばして、上は少し残して縦に切る。
切った部分を編み編みにして──
うん、可愛い!
「まぁ…… なんて可愛らしいフォルム」
「ね。 またしばらく発酵させたら焼き始めましょう」
「ではオーブンの支度を始めますね」
発酵も終わり、オーブンの準備も万端。
「仕上げに溶き卵を表面に塗って── オーブンに入れて終わり。 後は焼き色をみて出しましょう」
「卵を塗るのはどうしてなんですか?」
「こうすることでツヤが出て綺麗な焼き目が付くのよ」
「ロゼリア様って本当に凄いです……」
アメリーの尊敬の眼差しが凄い。
前世の記憶も使ってるから、少し胸が痛いわ。
「焼き上がりが楽しみね」
「ええ、本当に! ……なにか、外が騒がしくありませんか?」
「……? 何かあったのかしら…… アメリー見てきてくれる?」
「かしこまりました」
昨日もこんなことなかったかしら……。
ま、昨日は特殊過ぎたし、同じことなんてそうそう起こりはしないわ。
「わ、いい焼き色!」
いそいそとミトンを付けて、オーブンを開ける。
そのまま鉄板を取り出し、焼け具合を見る。
「完璧だわ!」
──コンコン
アメリーったら、わざわざノックなんてしなくていいのに。
「空いてるわよ?」
ノックに返答すると、ゆっくりとドアが開く。
「アメリー、みてみて! こんなに綺麗に──」
心臓が止まるかと思った。
いえ、間違いなく私の動きは、鉄板を持ったまま止まったけど。
……正しくは、固まった。
まさかドアを開けたのがロヴァルド殿下だったなんて──
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