第40話|もう離しません
純白のドレスに身を包み、私は控室で静かに息を吐いた。
鏡に映る自分が、まだ少しだけ現実味を持てない。
あれから半年──
花嫁修業も無事に終わり、暇を持て余してしまうかと思っていたけれど……。
銘菓の開発という仕事もあり、日々は充実していた。
シュークリームの改良を重ねて、満足のいく出来の物が出来たときは、涙が出るほど嬉しかった。
私の専用キッチンでの料理も楽しかった。
彼のために温かい食事を作り、好き嫌いも覚えて胃袋を掴む。
そんな些細なことが、とても嬉しかった。
料理に没頭しすぎて体調を崩してしまった時は、数日の料理禁止令を出されてしまったり……。
あの時は本当に悲しかったわ。
しばらく健康重視の食事ばかり作ってしまって、彼に少し嫌がられたりもした。
本当に色々あったけれど、どれも大切な思い出になっている。
そしてその全てを抱えて、私は今、愛しいあの方を待っている。
「ロゼ」
扉の向こうから聞こえた声に、胸が跳ねる。
私の好きな、いつも通りの落ち着いた声。
部屋に入ってきた彼は、愛おしそうに私を見つめた。
「……綺麗だ」
「ありがとうございます。ロヴァルドも……素敵です」
臆面もなく褒める彼に未だ慣れなくて、ブーケで顔を隠してしまう。
「緊張しているのか?」
「……はい。いよいよかと思うと」
ブーケを持つ手が震える。
ここまで、本当に色々なことがあった。
また婚約破棄のような、嫌なイベントが起こってしまうのではないか。
彼が心変わりしてしまうのではないか。
そう思ってしまう日も少なくなかった。
彼は微笑み、私の頬に優しく触れた。
「堂々としていればいい」
それだけ言って、彼は小さく笑う。
その言葉が不思議と染み渡り、震えが止まった。
「行こう、ロゼ」
「……はい!」
ずっと夢を見ていたこの瞬間。
差し出された手を、私は迷わず取った。
「──生涯、支え合うことを誓いますか?」
「誓います」
「……はい、誓います」
白い光に包まれた大聖堂。
沢山の参列者に囲まれて、一生を誓い合う。
泣きたくなるくらい嬉しい。
こんな気持ち、今まで知らなかったんだもの。
「誓いの指輪を──」
彼が手を差し出し、私はそっと手を重ねる。
私の薬指に指輪が通され、私も彼の薬指へと指輪を通した。
ああ、もう駄目。
堪えきれなくなった涙が溢れ出した。
どうしよう、止まらない──
ブーケで顔を隠した私の涙を、彼が優しく拭ってくれる。
そのまま顔を寄せ、口付けを交わした。
唇が離れると、彼は私を軽々と抱き上げて微笑んだ。
「ロゼ、愛してる」
「わ、私も……愛してます……」
そしてもう一度唇が重なると、歓声が沸き起こる。
そちらに目を向ければ、両親やアメリー、そしてこの国で新たに関係を結んだ人達がいた。
皆が自分の事のように涙を流し、喜んでくれている。
こんなにも幸せでいいのかと何度も思った。
けれどもう……不安なんていらない。
私は彼の頬に手を伸ばし、キスをする。
「ずっと、ずーっと。……離しませんから!」
彼は一瞬驚いた顔をして、やがていつもの意地悪な顔をする。
そしてまた口付けをする。
「臨むところだ──」




