第39話|私の願いは
「そういえば……どうしてシュークリームだったんですか?」
落ち着きを取り戻した私達は、仲良く並んでシュークリームを食べていた。
そこでふと、前から気になっていたことを聞いてみた。
ロヴァルド様に振る舞ってきたのは、いつでも食べられるパンやお菓子ばかり。
スープのようなものを用意したことはあっても、きちんとした食事を出したことはない。
本当は温かいものもお出ししたかったけれど……いつ来るか分からない彼のための料理は、やっぱりパンかお菓子が最適だった。
……いつもタイミングが良かったけれど。
だからパンやクッキー、手軽なケーキが多かったのよね。
やっぱりシュークリームが珍しかったのかしら?
「美味かったからだな」
「……はい?」
そ、それだけの理由で銘菓に……?
お戯れがすぎるのでは……。
「もちろんそれだけではないが」
「……と、言いますと?」
「菓子など、この国に限らずどこにでもあるだろう」
「ええ、それはそうですね」
「そしてこの国の特産品はオレンジなのは知っているだろう?」
「ええ、もちろん」
アーシュヴァルツ王国ではオレンジを使ったジュースやお酒はとても有名。
けれど、オレンジを使ったお菓子で有名なものは聞いたことがなかった。
「最近はどの国でも、銘菓というものを作り出そうとしている。我が国でも作ろうという動きはあったのだが……」
「オレンジは酸味もありますものね」
「ああ。難航している時に出会ったのが、ロゼのシュークリームだった」
「シュークリームにオレンジを……ですか?」
オレンジのシュークリーム自体はあるし、勿論なしではないけれど……これぞ、というほどかしら?
「いや、シュークリームにというより……」
「いうより?」
「シュークリームが美味すぎたんだ」
シュークリームが美味すぎた……。
……あら? 最初に戻ってないかしら?
特産品の話はどこへ……!?
「……ぷっ」
「……笑うな」
「すみ、ません……っ、だって……そんな真面目なお顔で"美味すぎた"って……ふふ……っ」
「大真面目なんだがな……」
「はい、すみません……っ」
思わず吹き出してしまった私を見て、ロヴァルド様は少しバツが悪そうに笑った。
初めて食べたシュークリームが美味しかった。
特産品関係なしに、これを銘菓にしたくなった。
……ということよね?
もう!可愛すぎるんですってば!
「でもそれならそうと仰ってくだされば、オレンジを使ったものも考えましたのに……」
「それは後々頼む」
「ふふ、かしこまりました」
特産を後回しにしてでも、私のシュークリームを気に入ってくれて……銘菓にしたいと思ってくれた。
それだけでもう、嬉しくてたまらない。
「ロヴァルド様はクリームがお好きなんですね」
「……」
「べ、別にからかおうなんて思ってませんっ!」
肯定も否定もせず、頬杖を付きながら私をじっと見る。
からかう気なんて全くないのに……。
「ただ好きな人の好みは……知っておきたいではないですか……」
「ほう」
「好みを知っていれば作って差し上げられますし、美味しさを追求していくことだって出来ますっ!」
「……ははっ」
「わ、笑うなんて酷いですよ……?」
ちょっとテンション高かったかもしれないけれど……本心だもの。
少し口を尖らせた私の頭を、ロヴァルド様が優しく撫でる。
「ロゼの作るものは何でも好きだ。甘さも丁度いい」
「本当ですか?」
「ああ。シュークリームを食べた時は……何というか、驚いた」
「驚く……ですか?」
「……こんなに美味い菓子があるのかと」
……こんな幸せでいいのかしら。
婚約破棄をされた悪役令嬢である、私が。
婚約破棄をきっかけに前世の記憶を取り戻し、自分が料理好きだったことを思い出した。
だからこそ料理が出来ることに喜びを感じて、その生活に満足していた。
ロヴァルド様から政略結婚の申し入れがあったとき。
"面倒なことになった"
それしかなかったはずなのに。
……それなのに。
いつの間にか彼を好きになっていて、彼のために料理をするのが楽しくて。
彼もそうならいいのに、と願わない日はなかった。
その願いが叶って、今こうしてここに居る。
それがどんなに──
「……ロゼ?」
自然と涙が溢れていた。
彼は心配そうに、私を伺う。
「私……幸せ、です……っ」
「……私もだ」
泣きじゃくる私を、彼が抱き締める。
「ずっと……ロヴァルド様の……好きなものっ、作りま……っ」
「──ロゼ」
彼は子供をなだめるように私の頭を撫で、涙を拭ってくれた。
そして優しく唇を重ねる。
「ロゼ……愛している」
「私も……ロヴァルドのことを……愛しています……っ」
抱き締める彼の腕の中で、ただ時間だけが流れていった──
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