第37話|膨らみましたよー!
厨房ではすでに、パティシエ達がカスタード作りに取り掛かっていた。
何度も作業を繰り返しながら、量産と練習を兼ねているらしい。
「こちらは私達にお任せください!」
頼もしい声に頷きつつ、私はサニーと共にシュー生地へと向き合う。
「では次に、シュー生地を焼いていきますね」
「シューが器みたいな意味なんですか?」
シューはフランス語でキャベツ……だけど、そんな説明する訳にもいかない。
……から、ごり押ししてしまいましょう!
「……そうですね! シューという器にクリームを入れるからシュークリームなんです!」
「ロゼリア様の知識量は凄いですね……!さぞ沢山の本を読まれたんですね!」
「え、ええ! 読書も好きなんです!」
ほっ……。
上手く誤魔化せたかは分からないけれど、納得はしてくれたみたい……?
毎回騙してるようで気が引けるけれど……仕方ないわよね。
「うんっ、いい感じですね!」
「本当ですか!? 良かったあ……!」
シュー生地も練るのが大変なのよね。
特に卵を混ぜるところなんかは、本当に大変だもの……!
でもカスタードでコツを掴んだのか、淀みなく混ぜる姿は流石だわ。
「ヘラですくって生地を落とすんです。このヘラに残った生地が三角になっていれば出来上がりです」
「すごい……」
「これを絞り袋へ入れたら、後は焼くだけですよ」
「工程自体は、そこまで複雑ではないなんですね」
「ええ、混ぜるのが大変で……私は腕が痛くなってしまいます」
私も久しぶりに作った時は、腕が筋肉痛になってしまったものね……。
お菓子作りってなかなかハード。
「ロゼリア様みたいに華奢な女性は大変な作業ですね」
「ふふ、褒めても何も出ませんよ? さて、絞りましょう!」
シュー生地を天板に絞り出し、水を付けた指で表面を平らにする。
予熱したオーブンに入れて、と。
「焼き上がりまで30分前後かしら」
「ロゼリア様はあちらで休んでてください。僕は様子を見ておきたいので!」
「そう? ではお言葉に甘えて……お願いします」
オーブンの中の生地を見つめながら、メモを取っているサニー。
本当に真剣な表情で……少し羨ましいくらい。
「おお……膨らんできた……!」
たまに独り言を言いながら、オーブンを見張っている。
皆は作業しているのに、傍らで一人優雅にお茶してるなんて……。
うぅ、私も膨らむところ見たい……!
けれど、ドレスでしゃがみっぱなしは見栄えが良くないわよね。
静かな時間が流れ、少しずつ膨らみ始めた頃。
「ロゼリア様! だいぶ膨らんできました!」
「本当? では──」
様子を見ようと私が立ち上がると、サニーがオーブンの扉を開ける。
──あ……っ!
「駄目……!!」
「え?」
私の大きな声に、視線が集まる。
サニーもびっくりしたのか、即座に扉を閉めた。
「大きな声を出してごめんなさい……!」
「いえ……あの、何かまずかったでしょうか?」
「シュー生地は焼き上がるまで、オーブンを開けてしまっては駄目なんです……」
「え!?」
「ごめんなさい、私がきちんと先に伝えなくてはいけなかったのに……!」
途中で開けてしまうと、シュー生地は萎んでしまう。
分かっていたのに……。
「そんな! ロゼリア様のせいではありません!」
「いえ、私の責任です……。材料も作業も無駄にしてしまって──」
「謝らないでください! 失敗は付き物ですし、これもいい経験ですから!」
「ありがとうございます……」
初歩的なミスで迷惑を掛けてしまうなんて、気を抜きすぎよ。
初めてのシュークリームなのに失敗させてしまうなんて。
「ロゼリア様、失敗したものも食べられますか?」
「ええ、それはもちろん──あ! 私、食べますから!」
「いえ、そういう意味では! それに生地感とかも確認したいですから、僕達で頂きます!」
「でも──」
「ロゼリア様、それ以上はサニーさん達も困ってしまいますよ」
見かねたであろうアメリーに止められる。
うぅ……本当に何やってるの私……。
まずは落ち着いて、気持ちを切り替えなきゃ。
「……そうよね、ごめんなさい。もう一度、一緒にやってもらえるかしら……?」
「もちろんです!」
それからは早かった。
カスタードを作り終えた職人が、新たにシュー生地作りに参戦。
私は要所を見守り、サニーが指導しながら、どんどん生地が出来上がる。
オーブンからは付かず離れず、いい焼き色が付いたのを確認してオーブンを開ける。
その瞬間を、全員が息を止めて見守った。
ふわりと甘い香りが、静かに広がっていく。
サニーが天板を取り出すと、こちらへと掲げる。
ぷっくりと綺麗に膨らんだ見事なシュー生地。
「……ロゼリア様、どうでしょう!?」
「ばっちりです! 皆さん凄いわ!」
わっ!と歓声が上がる。
私は上手く立ち回れたか分からないけれど、シュークリームは間違いなく成功した。
それがとても嬉しくて、張り詰めていた緊張がようやく解けていく。
それに……皆で作り上げるのが、こんなに楽しいなんて思わなかった。
「ロゼリア様! また色々なお菓子を教えてくださいね!」
「……ええ、もちろん!」
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