第35話|テンション爆上がりです
しばらくして、ようやく涙も落ち着いた頃。
冷静になった今、あれほど取り乱してしまったことが恥ずかしい。
そっと息を吐いて、気持ちを整える。
「ロヴァルド様……すみません、もう大丈夫です」
私が落ち着くまで、抱きしめたままでいてくれたのは嬉しい。
けれどアメリー達の前でこの状況は、さすがに気恥ずかしくて。
それにロヴァルド様は、これから公務があるというのに。
「大丈夫か?」
「はい、その……お見苦しいところを……」
「気にするな。……それと、この厨房はロゼの好きにしていい」
「はい、本当にありがとうございます……!」
改めて見渡せば、本当に素敵なキッチン。
ご飯もお菓子も作りたいわ。
でもここは自宅ではないのだからご飯系は……。
あっ。
ロヴァルド様の公務の合間に、さっと食べられるようなものがいいかしら!?
「早速使わせて頂いても良いですか……!?」
「ああ、勿論だ」
「ありがとうございます! 何かお食べになりたいものはありますか?」
「ああ、そのことなんだが──」
ロヴァルド様がそう言うと、クラウドが一枚の紙を差し出す。
そこにはシュークリームのざっくりとした工程が書かれていた。
「覚えているか分からないが……シュークリームを銘菓にする話だ」
「あ……」
忘れるわけない。
あの夜は色々衝撃的なことが多すぎて、今でもはっきりと思い出せる。
どちらかというと、銘菓よりも婚約者宣言の方が印象が大きいけれど……。
「料理人にもせっつかれていてな。早い段階で試作に取り掛かりたいそうだ」
「なるほど……では料理人に手解きをする形でよろしいですか?」
「ああ、頼めるか?」
「もちろんです!」
このキッチンを使うのも、私のお菓子が銘菓になるのも……。
なんて、なんて楽しみなの……!
責任は重いけれど、それ以上にやりがいがある。
それに……ロヴァルド様のためにもなるんだもの。
頑張らなくっちゃ!
「では早速今から──」
「お楽しみのところ申し訳ありません、ロゼリア様」
「アメリー? どうしたの?」
これまで黙っていたアメリーが口を開く。
「まだ身だしなみのお支度も終わっておりませんよ?」
「あ。」
「それに調理がしやすいドレスに着替えませんと!」
「ご、ごめんなさい……」
朝食を食べ終えたばかりだったのを、すっかり忘れてたわ……。
……あ、ロヴァルド様が笑いを堪えてる。
「もう! 笑わなくてもいいではないですか!」
「では後を頼む、アメリー。クラウド、案内を」
「お任せください」
そう言いながら、ロヴァルド様が私の頭をぽんっと叩く。
もう、ずるいんだから。
身支度を整え直して、改めて王城の厨房へ向かう。
わくわくする気持ちと、受け入れてもらえるかという不安が入り混じり、扉の前で思わず足を止めた。
うぅ、ドキドキしてきたわ……。
私の表情を見てか、二人が心配そうな顔をする。
「ロゼリア様、具合でも……?」
「ええ、大丈夫。何だか緊張してしまって……」
「今日中に、ということでもないですし、どうぞ気楽に」
そういうことではないのだけれど……。
でもそうね、気負っても仕方がないわ。
「では」と言い、クラウドが扉を開ける。
わ……っ。
さすが王城の厨房。
設備も凄いけれど、人の多さにも圧倒されてしまう。
「ロゼリア様をお連れしました」
クラウドが口を開いたその途端、視線が一気に集まる。
今まで挨拶なんてお手のものだったはずなのに……婚約者と名乗るのがくすぐったい。
キリギルス殿下の時は、何も思わなかったのに……。
でもロヴァルド様に恥ずかしくないよう、振る舞わなければ。
「これはこれはロゼリア様! お待ちしておりました!」
「突然お邪魔してごめんなさい。ロヴァルド殿下の婚約者、ロゼリア・エルフォルドと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「これはご丁寧に……。私は調理場責任者のカイルと申します。こちらはパティシエ部門のシェフ、サニーです」
「サニーと申します。よろしくお願いします!」
良かった……みんな良い人そう。
それにサニーはこんなに若いのにシェフだなんて。
……なんかどこかで見たことあるような。
でもアーシュヴァルツ王国に知り合いなんていないし……気のせいよね。
ひと通りの挨拶を終えると、すぐに本題へと話が進む。
「早速ですが、レシピの確認からさせて頂いてもよろしいですか?」
「ええ、もちろんです。ここは──」
詳細を書き起こし、必要な材料を揃える。
さすがは現役の料理人ね。
慣れた手つきで、計量も次々と進めていく。
いよいよ、試作が始まる。
……上手くいくといいのだけれど。
読んで頂きありがとうございます!
応援して頂けると励みになります。




