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【完結】婚約破棄された公爵令嬢は、厨房で静かに生きていくつもりだったのに  作者: 京野きょう


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第34話|……ずるいです

「おはようございます、今日も良い天気ですよ」


 いつも通りアメリーがカーテンを開けると、柔らかな陽の光が部屋を満たしていく。


 思わず目を細めながら、「あと五分」と言いたくなるのを堪えて起き上がる。

 ……昨日の疲れが少し残っているのかも。


 今日はお休みで、予定は特にない。

 けれど食事は、ロヴァルド様とご一緒することになっている。


 公務で忙しいあの方と、ゆっくり過ごせるのは朝と夜くらい。

 色々とお手伝いをしたいけれど、まだ婚約者という立場。

 出来ることも限られている私には、歯痒く感じてしまう。


 だからこそ、この時間は大切にしたい。


 ベッドから降りると、促されるまま身支度を整える。

 アメリーの手際は相変わらず見事で、気づけばすべてが整っていた。


 支度を終えると、そのまま朝食の席へと向かった。


「おはようございます、ロヴァルド様」

「ああ、おはようロゼ」


 軽く挨拶を交わし、食事を始める。

 アーシュヴァルツ王国に来てから、まだたったの数日。

 朝からこうして顔を合わせることにも、未だ慣れない。


 というより、恥ずかしいが勝ってしまう。

 薄く化粧はしているものの、ほとんど素顔に近いもの……。


 食事を終え、ゆったりとお茶を飲みながら雑談をする。

 私はこの時間が、とても好き。


 話すのはたわいもない事ばかりだけれど、そんなことを話せる距離に居られる。

 それがすごく幸せで、毎朝しみじみとしてしまう。


「ロヴァルド様は本日もお仕事ですよね?」

「ああ、昨日の後処理が残っていてな。昼過ぎには終わる」

「無理なさらないでくださいね」


 ロヴァルド様は休む間もなく働かれてるというのに、私だけお休みを頂いているのが少し心苦しい。

 ……なにかお手伝い出来ればいいのに。


「ロゼ?」

「は、はいっ! なんでしょう?」

「体調が悪いようなら……」

「いえっ! 悪くなどないです!」


 ロヴァルド様に心配させてどうするのよ、もう。


「何かあればすぐに言うと約束してくれ」

「……はい。でも本当に何もありませんから」

「ならいいが……」

「お話中、失礼いたします。ロヴァルド様、準備が出来たようです」


 声を掛けてきたのは、ロヴァルド様の側近であるクラウド。

 ロヴァルド様とは対照的に、柔らかな雰囲気で表情もよく動く。

 長く仕えているというだけあって、阿吽の呼吸で何でもこなすという有能な人物だ。


「もうお仕事の時間なのですね……」


 いつもより少し早く終わったお茶の時間に、つい気持ちが漏れ出てしまう。


「……淋しいのか?」

「なっ、そん……っ!……ええ、淋しいですよ?」


 二人きりの時ならともかく、周りに人がいるのに……。

 それでも「淋しくない」とは言えず、半ば開き直ってしまった。


「……クラウド」

「駄目です。本日の予定はキャンセル出来ません。ロゼリア様、申し訳ありません」


 即座にロヴァルド様を嗜めつつ、私に頭を下げるクラウド。

 私のくだらない意地のせいで、側近に謝罪させてしまった……。


「ち、違います! クラウドは悪くありませんから……!」

「ロゼリア様はお優しいですね。それに引替えロヴァルド様の人遣いったら……」

「ロゼに気安くするな」

「もう良いですから行きましょう。楽しみにしてらしたんですよね?」

「……うるさい。ロゼ、こちらへ」


 二人のハラハラする会話が終わると、ロヴァルド様はそのまま歩き出し、部屋を出ていく。

 慌てて後を追うと、後ろにいたアメリーがこそりと耳打ちしてきた。


「お二人は何でも幼馴染だそうで……ああいうやり取りはいつものことみたいです」

「そうなのね……少しびっくりしたわ」

「私も初めて見た時は驚きましたが……楽しんでおられるようなので」

「ふふっ、そうなのね」


 ロヴァルド様にも、ああして気安く話せる方がいたなんて……。

 なんだか、少し安心した。


 ……そういえば、どこへ向かっているのかしら。

 公務室でもロヴァルド様や私の部屋でもなさそうだし……。


「あの、ロヴァルド様……公務室へ向かわれるのではないのですか?」

「……ついてくれば分かる」

「は、はい……」

「ロヴァルド様は『お楽しみに』と仰りたいようです」

「……余計なことを言うな」

「ふふ……っ」


 そうして辿り着いたのは、とある一室。

 クラウドとアメリーが扉を開けると──


「わぁ……っ」


 そこに広がっていたのは、広すぎず狭すぎず、可愛らしく整えられたキッチン。

 大きな冷蔵庫に、立派なオーブンとコンロ。

 広々とした作業台には、調理器具が綺麗に並べられている。

 部屋の隅には小さなテーブルと椅子が置かれ、

 大きな窓の横には、バルコニーへと繋がる扉があった。


「ロヴァルド様、これ……っ」


 振り向くと優しい表情をしたロヴァルド様に、にこにことしているアメリーとクラウドが目に入る。


「ロヴァルド殿下がご用意してくださった、ロゼリア様専用のキッチンですよ!」

「婚約が承認されてから、大急ぎで用意したんです。そうですよね、ロヴァルド様」

「……余計なことを言うな」


 生まれ育った国を離れたことに、後悔はなかった。

 それでも、どこか淋しさが残っていたのも事実で。

 両親に会うことも、料理をすることも、簡単に出来ないものだと思っていたから。


「……っ」


 零れる涙を抑えきれない。


「あ……あり……っ」


 お礼を言わなきゃ。

 そう思うのに、喉が詰まって言葉にならない。

 恥ずかしい。

 王太子妃になろうとする身で、侍女達の前で……。

 こんなに泣いてしまうなんて──


 思考だけが駆け巡り、無意識に顔を隠すように両手で覆う。


「あり……がとう、ございます……っ、ロヴァルド様……っ」


 涙が止まらない私を、ロヴァルド様はそっと抱き寄せてくれた──

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