第33話|同じです、ね?
「お初にお目に掛かります、ロゼリア・エルフォルドと申します。こうしてお目にかかれたこと、とても嬉しく思います」
視線の先には、アーシュヴァルツ国王陛下と王妃。
周囲のざわめきが、急に遠く感じられる。
アーシュヴァルツ王国に着いてからの数日間は、あまりのんびりしている暇もなかった。
ロヴァルド様は「パーティーまでゆっくりして欲しい」と仰ってくださったけれど……。
この国に受け入れてもらうため、一分一秒も無駄には出来なかった。
まずは王国の要人を叩き込んだ。
とは言っても、貴族の名前は把握している。
既にある記憶とのすり合わせだった。
その合間にドレスの新調。
アメリーの張り切り具合が、大変なことになっていた。
家から持ってきたものでも、それなりの数はあったのだけれど……。
そして今日、婚約お披露目のパーティーが催された。
私は今、玉座に座る国王陛下と王妃の御前に立っている。
国王陛下はロヴァルド様とよく似ていた。
けれど、その佇まいはより厳しく、重みがあった。
王妃の柔らかな佇まいには、揺るぎない気品がある。
思わず見惚れてしまいそうになるほど美しかった。
「楽にしてくれ、ロゼリア・エルフォルド。君を心から歓迎しよう」
「ロヴァルドの婚約者がこんなに可愛らしい方なんて……あの子、気難しいところがあるでしょう?」
気難しいといえば気難しい方だけど……。
でもそれだけじゃないことは、私はもう嫌というほど知っている。
「確かに寡黙な方ではいらっしゃいます。ですがとても誠実で……本当は誰よりも優しいお方だと思っております」
「ふふ、本当にあの子のことをよく分かってもらえているのね」
「ロヴァルド。お前を理解してくれているロゼリアを、しっかりと守っていくように」
「勿論です、陛下」
「ロヴァルドのことをどうぞ末永く、よろしくお願いしますね」
「嬉しいお言葉ありがとうございます。皆様に恥じぬよう、しっかりとお支えしていきたいと思います」
そう言うと、陛下も王妃も微笑む。
心から祝福してくれた親の顔が見えたような気がして……公式の場なのに心が温まってしまった。
和やかな雰囲気の中、音楽が切り替わる。
そしてロヴァルド様が静かに手を差し出した。
「他の者にも宣言しなくてはな」
「……はい」
私は微笑みながら、そっと手を重ねる。
そのままロヴァルド様に導かれ、ホールの中央へと歩み出た。
音楽に合わせて、ゆっくりとステップを踏み出す。
ロヴァルド様と踊るのは初めてなのに……驚くほど自然に呼吸が合う。
踊り始めた瞬間から、周囲の視線が集まっているのが分かる。
一挙手一投足、見定められているような視線。
それに誰かとこうして踊るのは久しぶりで……緊張を隠せない。
「緊張しているか?」
「……少しだけ」
「そうか。……私も緊張している」
「えっ」
その言葉に、ふっと肩の力が抜ける。
不思議と視線も気にならなくなった。
ロヴァルド様の隣にいることが、ただただ心強いわ。
音楽がゆっくりと終わり、ホールに静けさが戻っていく。
二人揃って一礼すると、盛大な拍手を贈られる。
「……受け入れられたようだな」
ロヴァルド様が小さくそう呟くと、実感と嬉しさが込み上げきた。
「……はい!」
「……私、上手く出来ていたでしょうか?」
あの後。
招待客への挨拶回りを済ませると、本日はお役御免。
自室へ戻りソファへと腰を下ろすと、今更ながらに緊張してきてしまった。
アメリーが用意してくれたお茶や茶菓子にも、手を伸ばす余裕もないほど疲弊していた。
もちろん、疲れた顔なんてお見せしないけれど。
それでも思わず漏れた本音に、ロヴァルド様が小さく笑う。
「拍手をしていない者など、一人もいなかった。……ありがとう」
そう言って私を抱き寄せる手は、少しばかり震えていた。
「……もしかして、ロヴァルド様も緊張してらしたんですか?」
「……まぁ少しは」
その一言が、妙に可愛くて。
「ふふっ、王太子殿下も緊張なさるのですね」
「……相手が君だからな」
「それってどういう意味──ン……ッ!」
言い終える前に、唇を奪われる。
先ほどまでの穏やかさが嘘のようで、距離が一気に詰まる。
抗う術もない強い口づけに、意識が溶かされてしまいそう。
「──は……っ」
唇が離れ乱れた呼吸を整えていると、力強く抱きしめられる。
「すまない……抑えが効かなかった」
「謝らないでください……その、私だって……嬉しかったんですから……」
顔が見えないのを良いことに、私の気持ちを伝える。
だって私の顔、絶対に真っ赤になってるもの……。
「──どこまで翻弄する気だ?」
笑いながらそう言うと、おでこにそっとキスを落とすロヴァルド様。
もちろん、ずっと── ですよ?
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