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【完結】婚約破棄された公爵令嬢は、厨房で静かに生きていくつもりだったのに  作者: 京野きょう


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第32話|行ってまいります

 婚約の承認は、思っていたよりもあっさりと下りた。


 これで正式に婚約者になれたと思うと、顔の緩みが止まらない。

 駄目よ、ロゼリア。

 ある意味、ここからが正念場だもの!

 不安がないわけではないけれど……。


 ロヴァルド様と一緒なら……きっと大丈夫。


 数日後には、ロヴァルド様と共にアーシュヴァルツ王国へと向かうこととなる。

 もちろん花嫁修業のため。


 とは言っても、妃に必要なための基本的な教養は身につけているつもり。

 アーシュヴァルツ王国の常識や要人を学ぶことが主になるはず。

 忙しい日々になることは、容易に想像できる。


 ──それでも、料理はしたい


 公務で疲れているだろうロヴァルド様に、何か作って差し上げたい。


 でもよく考えたら、キッチンなんて貸してくれないわよね……?

 本来、厨房は料理人の領域。

 ましてや王城となれば、なおさら。

 私のような立場の者が入れば、迷惑になってしまうかもしれない。


 ロヴァルド様におねだりするのも気が引ける。

 何を置いても叶えてくれそうだし……。


 とりあえず、料理に関しては保留ね。

 しばらくは勉強が中心になるのだし、料理をする余裕なんてあるとは思えないもの。


「ロゼリア様、お茶をお持ちしました」

「ありがとう、アメリー」

「百面相してらしたようですが……」

「も、もう! 見てたのなら声を掛けて!」

「ふふっ、すみません。あんまり楽しそうにしてらっしゃるから」


 アメリーがお茶を注ぎながら、クスクスと笑う。

 こんな風にお喋りするのも、後わずか。

 長期に渡る花嫁修業に、着いてきて欲しいなんて言えないもの。


「この部屋で過ごすのも、あと少しね……」

「そうですね……」

「アメリーとここでお喋りするの、楽しかったわ」

「やだ、ロゼリア様……そんなこと仰らないでください!」

「そうよね、ごめんなさい。……つい、淋しくなってしまって」

「これからは、新しいお部屋でお喋りしましょう!」


 ん?


「新しい……?」

「もちろんご夫婦のお部屋になることは承知してますよ!?」

「いえ、そうではなくて……」

「まさかロゼリア様……私を置いていくつもりですか?」

「え? でも……」

「既に準備済みです! 誰がなんと言おうと、私はロゼリア様のお側を離れませんからね」


 そう言って、アメリーは胸に手を当ててみせた。


 なんて心強いんだろう。

 ロヴァルド様がいらっしゃるとはいえ、常に一緒に居られる訳ではない。

 他国で一人で過ごすのは、どこか心細さもあった。

 ……けれど、本当に不安なんてなくなってしまったわ。


「もう……ありがとう、アメリー」



 ──数日後


 いよいよ隣国へ向けて、出発する日の朝。

 今にも泣き出しそうなお父様に、いつも通りの笑顔のお母様。


「ロゼリア、身体大事にね」

「お母様も……」

「ロゼなら大丈夫だとは思うが、しっかり殿下をお支えするんだぞ……」

「はい、お父様……頑張ります」


 いつも優しく見守ってくれていた両親と、離れるのはやっぱり淋しくて──


「ロゼリア……うぅ……っ……」

「お父様ったら──……っ」


 堪えきれなかったのか父が泣き出してしまい、私もそれにつられる。


「もう、あなた。そんなに泣いてしまったらロゼリアが出発しにくいわ」

「うう……っ、そうだな……」

「お父様、お母様……ありがとうございます」

「アメリーも。……ロゼリアのこと頼みますね」

「はい、お任せください……!」


 少し離れた場所で、ロヴァルド様とその側近が静かにこちらを待ってくれている。

 父は涙を拭うと、ロヴァルド様の前へ行き頭を下げた。


「ロヴァルド王太子殿下。娘を……よろしくお願いいたします」

「心得ている。不自由な思いはさせない。必ず守ると約束しよう」

「ロヴァルド様……」


 ロヴァルド様が、両親に対して深く一礼した。

 私もそれに倣い、一礼する。


「お父様、お母様。……行ってまいります」


 また泣き出しそうな父と、いつも通りの母。

 その姿をしっかりと目に焼き付けてから、笑顔で返す。

 そして私は踵を返した。


 ロヴァルド様の隣を歩き、馬車へと乗り込む。

 振り返れば、父と母の姿がある。

 振り返りたい気持ちを押し殺して、前を向いた。


 それが両親から淑女として教えられたことだから。


 扉が閉まる音が、静かに響いた。

 やがて馬車はゆっくりと動き出す。


 馬車が走り出して家が見えなくなった頃。


 今更ながら淋しさが襲ってきて、零れる涙が止まらなかった。

 そんな私を見て、ロヴァルド様がそっと拭ってくれる。


 どんなに淋しくとも一緒に居たい。

 私を想ってくれる、優しいこの人と。


「……帰りたいか?」

「……いいえ、私はもう前を向くと決めましたから」

「そうか……まぁ、帰さんがな」

「ふふっ、ロヴァルド様ったら……」


 ロヴァルド様はそっと私を抱き寄せると、頭を優しく撫でる。

 私は身を預けながら、その心地良い温もりにそっと目を閉じた──

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