第31話|面白がってますよね?
あの後。
私の指示をもとに、完成まで見事に立ち回ってくださったロヴァルド様。
私がやると言っても聞いてくださらなかったんだもの……!
色んな意味で面白がっているのよね、絶対。
次こそは負けないんだから!
……なんて、言えるわけないくらいの完敗。
いえ、勝ち負けの話ではないのだけれど……。
「ロゼ、茶葉はどこに?」
「お茶くらいは私が……!」
「駄目だ、座ってなさい」
「うぅ……っ、もう大丈夫ですのに!……あ、そうですわ!」
「……どうした?」
立ち上がって、冷蔵庫のミルクを取り出す。
「ロヴァルド様、こちらのパンにはミルクが合いますわ……!」
「……ほう?」
グラスにミルクを注ぎ、テーブルへ。
チョコマーブルパンにはやっぱり牛乳よねっ。
「ロヴァルド様、ありがとうございます。……では、いただきます」
はむっ。
ん、んー!!
しっとりふわふわで美味しい!
「ん……美味いな」
「ロヴァルド様、ふわふわです!」
「あ、ああ……?」
「捏ね具合が良かったから、ここまでふわふわに仕上がったのです! すごいです、ロヴァルド様!」
「……ふ」
私の勢いに圧倒されつつも、笑みを零した。
はしゃぎすぎてしまった……料理のこととなると、つい熱が入ってしまう。
でも、本当に凄いことなんだもの。
私が前世で初めて作ったパンなんて、それこそカチカチだったわ……。
「いや……先生の教えが良かったのではないか?」
「も、もう! 忘れてくださいっ!」
「ははっ」と屈託なく笑うロヴァルド様につられて、私も嬉しくなってしまう。
それに……からかわれるのは、私だけの特権だもの。
「このパンが膨らみ悪いのは潰したからか?」
私がさっき潰してしまったものも焼いたけれど、他と比べると膨らみは悪い。
「ええ、すみません……」
「ロゼだけのせいではないから気にするな。単純に気になっただけだ」
「必要以上に潰してしまったことで、ふわふわに必須の気泡が潰れてしまったんです」
「なるほどな……奥が深い」
潰れたパンを観察したあと、ひと齧りするロヴァルド様。
「ロヴァルド様、こちらのふわふわを食べてください! そちらは責任もって私が」
「……同罪だろう?」
そう言って、固いパンをちぎり私の口へ放り込む。
「んむ……っ……もう」
「ははっ」
もう、そんな子供みたいな笑顔しないでください!
可愛すぎるのよ!
「……それにしても甘いパンというのは初めてだったが……悪くないな」
「しょっぱいものから甘いものまで、他にも色々な種類のパンがあるんです」
「なるほどな。これからを楽しみにしておくか」
──「これから」──
これからもずっとお隣に居ていいんだ。
そう思うと、嬉しくて堪らない。
……だけど。
すでに婚約者と名乗ってはいるけれど、肝心の手続きは未だ終わっていない。
──名実ともに"婚約者"の称号が欲しい
私がそんなことを思う日がくるなんて、夢にも思わなかった。
「婚約のことなんだが──」
「はい……?」
ロヴァルド様はエスパーなの?
それとも……私と同じことを考えていた……?
「そろそろ承認が降りるはずだ」
「!」
嬉しい。
ああでも、私は隣国の方達に受け入れてもらえるかしら……?
お父様のおかげで家柄は立派だけれども、ぽっと出の令嬢に対して厳しい目もあるのでは……?
どうしよう、今から何か対策を……!?
「……どうした?」
「あ、いえ……その。私は隣国の人間ですし、ロヴァルド王太子殿下の婚約者、となると……」
「不安、ということか?」
ロヴァルド様はじっとこちらを見て、返答を待っている。
不安はもちろんある。
それでも──
私は、自分の思いを言葉にしたい。
「……嬉しさの方が、ずっと大きいのです」
「……そうか」
嬉しそうに笑うロヴァルド様。
そんな彼を見ていると、私も自然と笑みが零れてしまう。
「あの……花嫁修業のことなのですが……」
──花嫁修業
王族に嫁ぐ場合、妃としての教養を学ぶため一定期間の花嫁修業が設けられている。
そしてそれらを全て習得してから結婚となる。
……皮肉なことに、私はこの国での花嫁修業は済んでいるけれど。
「ロゼはもう終えてはいるんだろう?」
「ええ、この国では……ですが」
「通常だと一年くらいか。ロゼなら半年もあれば問題なさそうだが……どうだ?」
「ふふ、ご期待に添えるよう頑張ります」
「……ああ、期待している」
アーシュヴァルツ王国の花嫁修業がどの程度のものか分からないけれど──
ロヴァルド様のためにも、私自身のためにも。
必ずやり切ってみせます!
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