第28話|私のために争わないでください
父の落ち着きを取り戻すため、強制的にお茶をすることにした。
お茶を運んでくるアメリーのタイミングが完璧だったのも幸いしたのだけれど。
アメリーには母が帰ってきたら教えて欲しいと言付けをして、話し合いの再開──
出来るといいのだけれど。
「お父様、ロヴァルド様、こちらアーシュヴァルツから取り寄せた茶葉なんです。リラックス効果もあってとても──」
ずず……っ
お二人共、無言でお茶を啜らないで欲しいわ……。
「あとこちらは、私が焼いたクッキーなんです! よろしければ──」
さく……っ、さくさく……。
ま、また無言で……。
「うむ、美味い! やはりロゼリアの焼いたクッキーはそこらのものとはわけが違う!」
「あ、ありがとうございます……」
無言で数枚食べたと思った父は、なぜか自慢気に語り出した。
ちらりとロヴァルド様を見ると、こちらもまた無言で食べている。
「ああ、美味いな……」
「あ、ありがとうございます」
やだ、こんな素直に美味しいって言ってくれるなんて……!
赤くなりそうな顔を思わず隠すと、私の様子に気づいたのか、また口を開く父。
「私は何度も食べていますが、殿下は初めてでしょう。どうですか、我が娘のクッキーは。美味いでしょう!」
「お、お父様! ロヴァルド様は『美味しい』と仰ってくださったじゃないですか」
「ああ、以前食べたものよりも今日のものの方が歯触りも良い気がする」
「な……っ」
「そうなんです! 実はいい小麦が手に入りまして……」
はっ。
お父様を見ると物凄い顔をしている。
怒っているのか悔しいのか、何とも言えない顔……。
「ふ、ふんっ! これだけでなく、他の菓子も料理も美味しいと思いますがなっ!」
「ああ……特にベーコンが入ったパンは絶品だったな」
「な……っ!?」
あ、お父様にはベーコンエピ……差し上げてない、かも。
「ロゼリア、どういうことだ!? 私にも毎回食べさせると約束しただろう!」
「……召し上がっていないのか? そうか、それはそれは……」
「なぁ──……っ!?」
「……お二人共、クッキー……美味しいですか?」
「! あ、ああっ、美味い! 美味いぞ! ねぇ、ロヴァルド殿下!」
「あ、ああ、美味い……」
冷ややかな顔をした私の問いに、慌てる二人。
こんなところでマウント合戦してどうするのよ、もう!
「お気持ちは嬉しいのですが、お菓子は美味しく食べていただかないと……ね?」
「つ、つい……すまなかった、ロゼリア。殿下も申し訳ありません……」
「いや、こちらこそすまなかった……」
ロヴァルド様まで応戦するとは思わなかったけれど……。
一応、落ち着いてくれたのかしら……?
しばし、お茶を啜る音だけが響く。
そして──いよいよ本題を切り出す。
「……お父様、ロヴァルド様はアーシュヴァルツから抗議を送る、とまで仰ってくれました」
「おおっ!」
しゅんとしていた父の顔が、ぱぁっと明るくなる。
「……ですが、私にも落ち度があったかもしれません」
「何を言う! ロゼリアに落ち度など──」
「お父様、最後まで聞いてください」
「う、うむ……」
深呼吸をして言葉を続ける。
「このように感情のままに綴った抗議文を送る。それがどういうことか── お父様ならお分かりですよね?」
「む……」
「今、この国とアーシュヴァルツ王国は友好関係にあります。それを崩すことは……私としても本意ではありません」
「だが……!」
「お父様のお気持ちは嬉しく思います。ですが──」
父の気持ちを思うと、言葉に詰まる。
あ、泣きそう。
「……ゆっくりでいい」
ロヴァルド様が、肩を優しく抱き寄せる。
……心強い。
たったこれだけのことで、強くなれる気がしてくる。
「キリギルス殿下に対して、重い罰など望んではおりません。……もちろん、二度とお会いしたくはありませんが」
「ロゼリア……お前って子は……」
「私はロヴァルド様と婚約し、将来的にはあちらの国で過ごすことになります。ですが……」
「ああ、淋しくなる……」
「お父様もお母様も、この地でこのまま過ごされるではないですか。ですから──……っ!」
耐えきれず、涙が零れてしまった。
この国と隣国との関係が悪化した場合──
原因は王族だったとしても……。
黙っていればこんなことにはならなかった、そう言い出す人間も少なくないだろう。
そしてそれは、この地に留まる父や母へと向けられてしまう。
そんなことになるなんて絶対に嫌──
「ですから……っ、今回の件は全て……ロヴァルド様にお任せしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、問題ない」
「ありがとうございます……っ」
「ロゼリア含め、エルフォルド家に対して不利益になるような事だけは……決してしないと誓おう」
「ロヴァルド殿下……。娘を……ロゼリアをどうぞよろしくお願いいたします」
「ああ、任せてくれ」
本当なら私が動きたい。
けれど、どうしても遺恨が残ってしまう気がする。
そしてそれが噂となり、国としての問題にもなってしまいそうな──
でも……ロヴァルド様になら、お任せして大丈夫。
他人を思いやる気持ちも、持ち合わせていらっしゃる方だもの。
きっと、上手い落とし所を見つけてくださる。
……暗殺者だけは、絶対にやめていただかないとね。
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