第27話|溺愛が過ぎませんか?
部屋を出ると沈痛な面持ちでアメリーが待機をしていた。
私に気がつくと、今にも泣き出しそうな顔になる。
「ロゼリア様……! 良かった……良かったです……!」
「心配かけてごめんなさい、アメリー。……もう、大丈夫」
「ロヴァルド殿下、ありがとうございます……!」
「いや……」
「アメリー、お父様は書斎かしら……?」
父を出した途端、アメリーの表情がハッとしたのち、だんだんと曇っていく。
「あの……書斎にいらっしゃるのは間違いないのですが……その……」
「ありがとう、アメリー。叫び声は聞こえたかしら?」
「ええ、時折……」
思わず、遠い目になる。
「あの頃と一緒ね……。アメリーは他のことをしていて? 終わったらお茶をしたいから」
「かしこまりました、お気をつけて……」
見送るアメリーを背に、私とロヴァルド様は父の書斎へと廊下を歩き始める。
まったくもう……。
お父様ったら、あの頃から変わらないんだから……!
「……あの頃とはなんだ?」
「ええと……幼い頃、父に連れられて行った夜会で、同じ年頃の男の子に“ブス”と言われてしまいまして……」
「ほう?」
「後から聞いた話では、好きな子にちょっかいを掛ける子供特有の……だったようなのですが……父が、その……」
「怒った、と?」
「はい……相手が伯爵家だったせいもあり、大変でした……」
「なるほどな」
子供のイタズラにもそんな調子だもの、呆れるわよね……。
一拍おいて、ロヴァルド様が静かに口を開く。
「……ところで、その不届き者の家名はなんという?」
「……教えませんよ?」
「駄目か?」
「ロヴァルド様まで何をする気なのですか、もう……」
もしかして父に少し似ている……?
書斎の前まで来ると、父の声と何かの物音が響いている。
まだペンを走らせているのかしら……。
コンコン。
「お父様、ロゼリアです」
声を掛けた途端、物音がぴたりと止まる。
……と思った次の瞬間。
ガタン! ドサバタッドタドタッ──
慌ただしい足音が近づいてきて、勢いよく扉が開かれた。
「ロゼリア……!! 具合は大丈夫なのか……!?」
「え、ええ。ご心配お掛けしました」
「何を言う! そんなことは気にするんじゃない」
「……ところで、お父様は何を?」
「ああ! 今な、抗議文を書いているところだ!」
──やっぱり……
部屋の中を見渡すと、普段は整えられている机の上に、本が山のように積まれていた。
ところどころ雪崩が起きているようだけれど。
すべて、抗議のための参考文献なのね……。
「お父様、ロヴァルド様もいらっしゃいますから……」
「これはロヴァルド殿下、お見苦しいところを」
「いや、突然すまない。……少し良いだろうか?」
「構いませんが……」
部屋へ入ると、ロヴァルド様が切り出す。
「抗議文のことだが……」
「ええ、この通り進めております。もう少し掛かりそうですが」
そう言って父が自信満々に差し出した抗議文の束は、辞書並みの厚さになっていた。
……何をどうしたら、そんな厚さになってしまうというの?
「お父様……そんなに何を書かれたのですか?」
「だから抗議だと言っているだろう。見たいのか?」
「……見たくありません」
「ふん、ならばほっといてもらおうか」
「なっ──! もう、お父様! 落ち着いてください!」
「私は落ち着いている!」
「落ち着いてませんっ!」
ああもう、親子喧嘩なんてしてる場合じゃないのに!
ロヴァルド様だっていらっしゃるのよ!?
「……ロヴァルド殿下はどうお思いですか!?」
「ちょ、お父様──!」
「……少なくないか?」
……ロヴァルド様?
「さすがはロヴァルド殿下。話の分かるお方だ!」
「しかし、その様な量の抗議文を送るとなると……」
「そう! そうですよ、お父様! 精査するのにだって時間が──」
「ふん、時間などいくら掛かってもいいもん」
……拗ね始めたわ。
「ロヴァルド様、申し訳ありません。父は少し冷静ではないようで……」
「私は冷静だ!」
「どこがですっ!?」
「落ち着いてくれ、二人とも」
親子揃って諌められてしまうなんて……恥ずかしい。
父の暴走を止めるために、私まで熱くなっては意味がないわ……。
……ロヴァルド様の前でこんな醜態、晒してしまうつもりなんてなかったのに。
「エルフォルド公爵。ここは一つ、私の案に乗ってもらえないだろうか」
「……どのような?」
「その抗議文全てを送りたい気持ちは理解出来るが、受理されるまでに時間が掛かるだろう」
……時間の問題ではないような気がするのだけれど。
「であれば、暗殺者を送り込めば話は早いのではないだろうか」
……ロヴァルド様?
「おおおっ! 私も考えていましたが、なにぶんツテがなく……!」
……お父様?
「私もツテがあるわけではないが、探せば容易に見つかるだろう」
「見つかるだろう、ではありませんっ!」
「ロゼリア! お前、殿下に対してなんて口を!」
「お父様は黙っててくださいっ!」
「ぐ……っ、母さんに似てきたな……」
睨みながら言い返すと、父はしゅんと肩を落とす。
そして私は、一つ息をついてロヴァルド様へと向き直る。
「ロヴァルド様も落ち着いくださいませ……」
「落ち着いているのだが……?」
「そんな不思議そうなお顔をされても駄目です!」
「ロゼリア! 殿下も私もお前のために……!」
──ジロ
言いかけた父の言葉が、ぴたりと止まる。
まったくもう。
まさかロヴァルド様とお父様の息が、こんなに合うなんて……。
溺愛されるのも一苦労だわ。
……なーんて。
お母様、早く帰って来てくださいいぃ……!
読んで頂きありがとうございます!
応援して頂けると励みになります。




