第26話|私も行きます!
「ロゼ」
先程までの柔らかな雰囲気とは違う声に、思わず背筋が伸びる。
「何でしょうか……?」
「今回の件だが── エルフォルド公爵はどのように動くつもりだろうか」
「まだ……話せていなくて……」
父にはアメリーが伝えているだろうけれど……。
お父様のことだから、罵詈雑言まみれの抗議文を書いているに違いないわ。
だけど……あまり大事にはしたくない……。
「そうか……私からも抗議書を送っても良いだろうか」
「ロヴァルド様まで……!?」
「私の婚約者に暴行を働いたとなれば……当然だろう」
「それは……そうかもしれませんが……」
ロヴァルド様にもそこまでしていただくなんて……。
「でも、あの……私にも隙があった……のかもしれませんし……」
「そんな考えは捨てろ。君に落ち度など、一つもない」
「ロヴァルド様……」
でもアーシュヴァルツ王国から抗議を送ることで、国同士の関係が険悪になってしまったら……?
……そう考えると、素直に頷けない。
「……暗殺者でも送り込むか?」
「ロヴァルド様ったら、またご冗談を……」
「いや、冗談などではないが」
「え?」
「本来なら私が血祭りに上げてやりたいが……」
「ろ、ロヴァルド様……?」
ロヴァルド様の顔が……今まで見たことないくらい険しくなっている。
怒った顔もかっこいい……。
……って、違うでしょ、もう!
「ロゼは国のことを考えて躊躇しているのだろう」
「それは……そう、ですね……」
「私としては、ロゼの為ならエルディオール王国を敵に回してもいいんだがな」
「……!」
「だがその結果、ロゼは自分を責める。そうだろう?」
ロヴァルド様には、何でもお見通しなのね。
「君の考えを教えてくれ。……何でもしてやる」
「私は……」
この期に及んで……ロヴァルド様の優しさが、ただ嬉しくて。
嬉しくて、嬉しくて。
それだけでいっぱいになってしまった。
「私は……ロヴァルド様のお隣に居られるのなら……っ」
言い終わる前に、抱きしめられる。
「ロゼ……わざとなのか?」
「ふぇ……?」
「その……なんだ。か……」
「……?」
「かわ……」
「川……ですか?」
「……違う」
もしかして……「可愛い」って言いたい……?
顔を見られないよう、私を抱きしめるロヴァルド様。
でも……そんな彼だから愛おしい。
「ロヴァルド様も……可愛いですよ?」
「……調子が戻ってきたようで何よりだ」
むぅ……本当なのに……。
「調子が戻ったのなら……遠慮はいらないな?」
「え……? ロヴァルド様……? お顔が怖いです……きゃっ!?」
悪戯に笑う、どこか挑発的な表情。
見とれている間に引き寄せられ、そのまま唇を重ねる。
「ロヴァ……ルド様……んん……っ」
強引なキス。
あの時とは違い、嫌な気は全くしない。
それどころか──
唇から離れたあとも、額や頬、耳にそっと唇が触れる。
「ン、ふ……っ」
「……これは自分で噛んだのか?」
そう言いながら、唇にある傷を舌で優しく触れられる。
思わず小さな声が漏れて、耳まで赤くなっているのが分かる。
「は、い……」
「そうか……」
「嫌……でした……ロヴァルド様、以外に……んんっ」
言葉を遮るように、また口を塞がれる。
甘くて優しい、全てがどうでも良くなってしまうような……。
そしてもう一度、そっと唇が触れる。
今度は短く、優しいキスだった。
唇が離れると、強く抱き締められる。
そのまま耳元でこう、囁かれた。
「もう私以外とはするな」
少し震えた声。
こんなに愛おしくなってしまうなんて。
初めて出逢った時からは想像も出来ない。
ああ……。
私、やっぱり……この人が好き。
ロヴァルド様の背中をぎゅっと抱き締める。
「私の身も心も……ロヴァルド様のもの、です……」
「──っ!」
ロヴァルド様が小さく肩を震わせる。
ぴくりと反応するロヴァルド様も可愛い……。
「……すまない、暫くこのままで」
「……はい」
「さて……そろそろエルフォルド公爵に会ってくる」
「え? お父様に……?」
お互いに落ち着いた頃、ロヴァルド様は本題に入った。
正直、私はまだドキドキは止まってはないのだけれど……。
「今回の件、私よりも腸が煮えくり返っているのは君の父上だろう」
「そう、かもしれません……」
娘を溺愛するお父様だもの、何をするか分からない。
というより、考えるのが怖いわ。
お母様も止めてはくれるでしょうけれど……。
「エルフォルド家としても、アーシュヴァルツの名が後ろにあった方が良いだろう」
「そんな……その為に王家の、ロヴァルド様の名を借りるなんて……!」
「煮えくり返っているのは父上だけではないということだ」
「……っ」
一見、無表情に見えるその顔は、静かに怒りを携えていた。
整った顔立ちのせいか、少し怖いくらいに。
「今日はゆっくり休んでくれ。また来る」
「はい……」
──あ
ロヴァルド様の上着を、まだお借りしたままだったことに気づく。
慌てて肩から外し、軽く皺を整えた。
「ロヴァルド様、こちらありがとうございます」
「ああ……」
チラッとこちらを見たまま、動かない。
き、着せてもいいのかしら……?
「あの……腕を……」
「ああ」
旦那様のお支度を手伝っているみたいじゃない!?
次もまた、お手伝いしたくなってしまうわ……。
「……ありがとう」
「いいえ、またいつでもっ」
「……ふっ」
ロヴァルド様が笑う。
テンション高すぎたかしら……?
「ではな」
優しく頭を撫でてから、扉へと向かうロヴァルド様。
彼の背中を見ながら考える。
このまま、ロヴァルド様とお父様にお願いして本当にいいの?
私のことで二人の手を煩わせて、ただ待つだけなんて……。
……やっぱり、そんなこと出来ない。
「ロヴァルド様! ……私も行きます……っ!」
一瞬、驚いた顔をするも、優しく笑ってくれた。
「分かった。……だが、無理だけはしないと約束してくれ」
「……はい!」
読んで頂きありがとうございます!
応援して頂けると励みになります。




