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【完結】婚約破棄された公爵令嬢は、厨房で静かに生きていくつもりだったのに  作者: 京野きょう


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第24話|葛藤中ですが、何か?

「ん……ここは……?」


 気がついたら、いつものベッドの上だった。


 見慣れた天井に、ゆっくりと瞬きを繰り返す。

 柔らかな寝具の感触に包まれていると、張り詰めていたような気持ちが少しだけ緩む。

 けれど、何だか酷く落ち着かない……。


「ロゼリア様……!」

「あ、アメリー? どうしたの、そんな顔をして……」


 ベッドの脇を見ると、不安そうな顔をしたアメリーがいた。


「お身体は大丈夫ですか……!?」

「え、ええ……」

「……良かった……! 急に倒れられて、心配で心配で……!」

「落ち着いて、アメリー」

「す、すみません……ロゼリア様の方がお辛いのに……」


 そういえば、いつの間に寝ていたのかしら……?


「ロゼリア様……?」

「ちょっと待って……ええと、確かお城に呼ばれてその後──……」


 そこではっきりと思い出す。

 城であった出来事を。


 そして──


「……っ」


 思わず指先で触れると、身体がびくりと震える。

 あの時の感触が、嫌でも蘇ってきてしまう。


「いや……っ」


 キリギルス殿下は……どうしてあんなこと……!

 元々……ああいう方だったの……?


 ……考えても分からない。


 ううん……そんなことはどうでもいい。

 考えたくない……。


 今……私が思っていることは、ただ一つ。


「ロヴァルド様に……会いたい……」


 ……ぽたっ。


 ふいに漏れた言葉に、涙が溢れでる。


 ──こんなに好きになってしまったのに


「……でも、もう……会えないわ……」


 今すぐ抱きしめて欲しい。

 名前を呼んで欲しい。


 けれど私にはもう……そんな資格なんてない。

 婚約をしておきながら、他の男性と……なんて。

 私が望んだことではないけれど、許されることだとは思っていない。


「うぅ~……っ」

「ロゼリア様……」


 枕を抱きしめて布団に潜り込む。

 そうでもしないと、叫んでしまいそうだった。


「ロゼリア様……あの、何かお食べになりませんか? スープだけでも……!」

「……いらないわ」

「ですが……!」


 アメリーの気遣いは嬉しいけれど……。


「ごめんなさい、アメリー。しばらく一人にして……」

「ロゼリア様……。分かりました、何かありましたらお呼びくださいね」



 一人になると、考えてしまう。


 このことをロヴァルド様に知られてしまったら──


 軽率な女だと軽蔑されてしまうだろう。

 そして嫌われて、婚約も……きっと、なかったことになる。


「……そんなの、やだぁ……」


 想像するだけで涙が止まらない。


 知られたくない。

 このままあの人の隣に居たい。

 でもそれは私の我儘でしかなくて……。


「──……」


 唇を触ると、抵抗した時の傷が残っている。

 そのせいで、嫌でも思い出してしまう。


 よく考えたら……殿下に不敬を働いたのは私の方になってしまうかもしれない。

 元はキリギルス殿下が悪かったとしても……。

 王太子殿下に傷を負わせたのは、私。


 ……でも。

 私、悪くないもの。

 そうよ、女性に対して一方的にあんなこと……!

 ロヴァルド様だったら……あんなこと、しないわ。


「……でもロヴァルド様にだったら──……」


 ……って、何考えてるの私!?

 今後のことを考えなくてはいけないのに!


 ……国外追放?

 不敬を盾にされたら、有り得なくもないけれど……。

 でもアーシュヴァルツ王国へ行けるなら──……。


 なんて、ね。

 この後に待っているのは、婚約破棄だもの。

 そんな都合のいいことなんて……あるわけない。


 やっぱりロヴァルド様に会いたい……。

 でも……どう思われるか考えると……。


 ──怖い


「う……っ、うう──……っ!」


 どうにもならない感情に、声を押し殺す。


「ロヴァルド様のばかぁ! 今日に限ってどうして来てくれないの!?」


 目の前の枕を、両手で何度も叩く。


 八つ当たりもいいところ。

 みっともない。

 恥ずかしい。

 わがまま。

 会いたい。

 けれど会いたくない。



 ──コンコン


「ロゼリア様!? 大丈夫ですか!?」


 アメリーの慌てた叫びに、我に返る。

 まさか聞かれてた……!?


「だ、大丈夫よ……!」

「……入ってもよろしいでしょうか?」


 アメリーはもう……心配性なんだから……。

 でもこのままも良くないわよね。

 泣きすぎて喉も乾いているし……。


「え、ええ……お茶もお願い出来る……?」


 ──カチャ……


 扉が開き、そこに立っていたのは。


 ロヴァルド様だった──

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