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四大精霊の契約者  作者: 橙矢雛都
第2章『カル王国』
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33.セティアナイツという愛し子 1《セト視点》




~*~



吐く息が白い。

常に雪が降っている。

音もなく降り積もる雪と共に、俺はこの国で育った。


森も含め、国内で行ったことがないくらい、視察と称して歩き回っている。

…でも、今自分がいるこの場所は。

目の前の古びた教会は… 一度も見たことがなかった。


中に入ると荒れていてほんの少しカビ臭く、どこか寂しい印象だった。

でも雪風と寒さを凌げるくらいは建物はしっかりしていた。だいぶ古い建物だが、一体いつの頃のものだろうか。

色々思うところはあるが、一休みしようと一番綺麗な長椅子に腰を下ろした。

目的の場所まではまだ少しかかる。歩き慣れていても、雪というのは油断してはいけない。休める時に、休まないと。

椅子の背にもたれ掛かり、目を閉じた。その時だった。



『…おい』



静寂の中で突然聞こえたその声に、ぱっと目を開き顔を上げる。そこにいた1人の男と目が合った。

何だコイツ、と思ったが敵意はなさそうだからとりあえずは大丈夫だろう。

でも、足音どころか気配の揺らぎもなかった。魔力も感じなかった。

この男はどこの誰で、どこから来たのか。



「…何か?」

『……』



何をするでも話すでもなく。その男はずっと俺を見つめている。

…いや、睨まれているの間違いかもしれない。

この人に何かした覚えはないし、そもそも初対面だが… けどまぁ、もしかしたら目つきが悪く見えるだけなのか…?

圧を放っているような気さえする眼光の鋭さ。気の弱い人ならそれだけで失神するレベルだ。



『んなとこで寝ようとしてんじゃねぇだろうな?』

「………はい?」

『いくらここが安全でも寒さが完全に防げるわけじゃねぇんだ。てめぇら貧弱な生き物(ニンゲン)はこの程度の寒さでもすぐに…』

「少し休んだら行く予定だが」



悪いとは思ったが、止まない言葉を遮らせてもらった。するとぴたりと言葉も動きも止まる。

どういうつもりなのかは知らんが、どうやら忠告?をしたいだけのよう。善意なのか、悪意なのか。圧と外見のせいで悪意寄りに感じてしまうが。



「ご忠告どうも。さっきも言ったが、少し休んだら行くつもりだ。それに、友人からこの魔導具を貰っている。これを身に付けていれば寒さは問題ない」



魔導具といっても、火属性の魔力が付与された魔力石をペンダントに加工しただけの超シンプルなものだが、その効果はまぁすごいものだった。

これを身に付けているだけで、火属性の魔力が寒さから守ってくれる。この国で長時間外に出ている必要がある人にとっては重宝するものだ。

試しに作ってみたからと言って、別れ際にさらっと渡してきたリルフィはすごいものを作ったという自覚があるのだろうか。


ペンダントを見た瞬間、男の目が僅かに見開き、放つ圧が和らいだ気がした。

顔をぐっと俺に寄せ、ペンダントをまじまじと見つめる。一瞬笑ったと思ったすぐ後に大きな舌打ちが聞こえた。

…なんだ? どういう感情だ…?



『なんだよ… アイツの魔力もあんのか… リルフィだけじゃねぇのかよ…』



これは… 反応していいやつなのか?

あの国ならともかく、この国でリルフィの名を口にする人は俺以外にいるとは思えない。リルフィを知っている人なら数人いるが、全員身内だしこんな話し方はしない。

リルフィを知っていて、気軽に話すことのできる存在なんて、一つしかない。


けど俺はそれを聞かないことに決めた。

彼らは気まぐれだからだ。ここにいる理由なんて、そんなもんだろう。



『でも、そうか… それを持っていたからここにも辿り着けたのか』

「…? どういう意味だ?」

『ここは、氷のの魔力で隠されていた。悪いヤツに利用されたり、これ以上荒らされたりしないようにってな』



氷のって… レーダス様の事か?

レーダス様が隠していたのなら来たことがないのは当然か。でも、レーダス様はどうしてこんな古びた教会を隠していたんだ…?

疑問だらけだ。目の前の男… この方の意図も全て。

少しでも知れればという興味で、ちょっと知らないフリしてみることにした。



「ここは、その人にとって大事な場所なんだな」

『大事な場所っつーか… 大事な“人”が最期を迎えた場所だからだ』



それっ…て……

俺は立ち上がってぐるりと辺りを見渡す。

人の気配なんてとっくに無く、寂れているのもあって哀しい、冷たい、暗いといった印象を持つ。


本当に、こんな、場所で…?

俺は何かに引かれるように足を動かした。

教壇があった場所に、拭いきれていない黒い跡が残っていた。元は赤い色だったのだろう。長い時を経て、黒色になっているけれど。



『…? おい…?』



声をかけられても、俺は少しの間反応することができなかった。

その時のことを思うと、胸が苦しくて堪らなかったからだ。






~*~



『………悪かったな』



あの教会を後にして雪道を歩く俺に、その人が少ししおらしい感じで謝罪の言葉を口にした。

この人は、何故かついてきている。

この人からすれば、俺についてくる理由なんてないはずだ。だけどそれを突っ込んで聞く勇気も気力もない。


俺は改めてその人を見る。

元の姿が人間サイズとは見聞きしたことはあるが、それを知らなくても「人ではない」と思っただろう。

雰囲気や魔力もそうだけど、分かりやすいのは服装。彼の身に付けているものにこの国の人の特徴はなかった。

雪国にいるにしては薄着すぎる。この前突発的に来たリルフィやラティはともかくとして、寒いのにその格好では頭がおかしいレベル。

そういう存在のなんやかんやがあって、寒さや暑さに関しては大丈夫なのだろう。彼らに人の理屈は通じない。それで納得するしかない。


…もし、この方が、()()()()()()なのだと仮定して。

気まぐれでも一緒にいてくれる間に、聞けることがあるんじゃないか。

俺があの2人に返せるものは、こんなことじゃまだまだ足りないだろうけど。ちょっとでもいい。なんでもいい。そんな思いで。



「大丈夫、気にしなくていい」

『…そうか、ならいいんだ』

「終わってることに今さらどうこう言うつもりないしな」

『……これからどこに向かうつもりなんだ?』

「樹氷の森と呼ばれる場所の最奥にオルムの実という、毒の症状に効く薬になる実がある。それを採りに行くんだ」

『それは本当にある実なのか? 眉唾もんな話じゃねーのか?』

「一度見たことあるから。あるのは本当だよ」



普通に慣れた感じで話してしまっているが、何も言われないからこのままでいいかと、言われないうちはいいかと俺から何かを言うことはしなかった。


でも、もっと軽い感じでいっていいのではと俺は思う。

人間側が、妖精や精霊を神聖視しだしたのはいつ頃のことなのか分からない。

でも妖精たちと接するうちに感じたことは、彼ら側に人間側に対する上下は無く、常に対等に見ているということ。

好きなら好き。嫌いなら嫌い。そこに善も悪もなかった。



『ふーん… 薬になる実ねぇ…』

「そっちの目的は? これまた軽装備だけど」

『あ? なんとなくだよ。…ただの散歩だ』



口は悪いけど、優しいと感じる。

言い訳にしてはないように無茶があるが、とりあえずそこはスルー。本当になんとなくだろうし、誰かから(リルフィ)のお願いってわけでもないだろう。

こういう関係を自然と作れるところが、リルフィが魔力以外で好かれる理由なのかもしれない。

でも堂々としているだけなのか、それとも天然なだけなのか。目の前の彼は、精霊だとは名乗ってないけど精霊ですと言っているようなもの。


浮いてるし、見たら普通に分かる。

そこはちょっと人とズレてる部分なんだろうなとは思う。



「散歩かぁ… この奥は行ったことあるか?」

『…ねぇけど。氷のが管理してる場所だからなぁ… 嫌いじゃねーけど合わない部分あるし、滅多に来ることはなかった。つーかアイツ、気に入った相手以外には無口だし』



ああ、レーダス様らしい。

リルフィに対してなら()()増える程度で、基本的に口数は少ないと聞いていた通りだ。

でもきっと精霊様方はレーダス様の性格を理解し、そういうものだと分かっていて受け入れている。

だからこうやって様子を見に来たり来なかったり。



『…何笑ってんだよ』

「別に。…なぁ、特に用がないなら奥地行かないか? いいもの見せてやるよ」

『いいもの? …………いいぜ、行ってやるよ』



いい機会だというようなちょっと悪そうな笑みを浮かべて、二つ返事で了承をくれた。

見たことがないものを見て、わくわくする気持ちは人と変わらないんだろう。そういう所をもっと多くの人が知ったらいいのにとも思うが、敢えて知る必要はないのかもしれないな。





















「あなた、本気なの?」

「ああ、アリィのことに関しても、公にされなくとも責任は取らねばならんからな」

「だからって… セティアナイツがオルムの実を採りに行ってくれているのに」

「だからじゃないか。セティアナイツは、私に償う機会をくれるのだ。もちろん、退位(それ)はすぐではない」

「……でも、セティアナイツにはまだ婚約者がいません。正直、国内で王妃となれるような令嬢がいるとも思えませんが、それでも婚約者がいないうちに王となるのは…」



なれないわけではないし、なってはいけないわけではない。でも妻の懸念はもっともだ。

できれば身分は侯爵家以上。ギリギリで伯爵家も可であるが、やはり高位貴族が望ましいのは事実。

公爵家や侯爵家を親戚に持つ子爵家、男爵家もまぁ、いいとして。でも二代続けてそうするのはできれば避けたい。


あとは他国の王族か、高位貴族か。

けど小国故にそういう話を持ち掛けても、あまり良い反応は得られない。最悪、厄介払いしたい令嬢を押し付けられる可能性がある。

それを避けるためにはやはり国内がいいのだが。難しい問題だ。

何にしてもセティアナイツ(本人)抜きで決められることでもない。無事に帰ってきてくれたら再度話し合うとしよう。



「…マクシミリアンのことも話を進めなければな」

「大まかな概要は本人にすでに話してあります。あの子がどういう結論を出しても、私たちはそれに寄り添いましょう」



考えなければいけないことも、決めなければならないこともたくさんある。

だけどもう自分達だけで決めなくてもいいのだから、少しくらいゆっくりしながら皆で決めていきたいと思う。

今までできなかったことを、やり直すように。




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